冬夜長 | ||
良寛 |
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一思少年時, 讀書在空堂。 燈火數添油, 未厭冬夜長。 |
一 たび思ふ 少年の時,
書を読みて空堂 に在 り。
灯火数 ば油を添 へ,
未だ冬夜 の長きを厭 はざりしを。
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◎ 私感註釈
※良寛:江戸後期の禅僧。寶暦八年(1758年)〜天保二年(1831年)。漢詩人。歌人。越後国(現・新潟県)出雲崎の人。俗姓は山本。名は栄蔵、後、文孝と改める。号は大愚。諸国を行脚、漂泊し、文化元年、故郷の国上山(くがみやま)の国上寺(こくじょうじ)に近い五合庵に身を落ち着けた。晩年、三島(さんとう)郡島崎に移った。高潔な人格が人々から愛され、子供達も慕ったが、人格の奇特さを表す逸話も伝わっている。ただ、遺されている漢詩は陰々滅々として、類例を見ないほど暗いものである。
※冬夜長:冬の夜長(よなが)。 *詩句の一部を取りだして、仮に詩題としたもの? *年老いてから、若かった時代の意気軒昂としていた日々を懐憶しての詩。
※一思少年時:一度、若者の時を思い(出したが)。 ・一…:いつに。みな。すべて。まったく。もっぱら。また、ひとたび。また、少し。 ・少年:若者。成年期。日本語の「少年」とは微妙に異なる。唐・張籍の『哭孟寂』に「曲江院裏題名處,十九人中最少年。今日春光君不見,杏花零落寺門前。」がある。以下の用例は「少年」というよりも「少年行」という用法が主であるが、「少年行」とは楽府題のことで、普通の用法とは異なる。「少年」の語には、日本語でも使われる「子ども」の意は無くて「若者」の意。李白『少年行』「五陵年少金市東,銀鞍白馬度春風。落花踏盡遊何處,笑入胡姫酒肆中。」、唐・崔國輔『長樂少年行』「遺卻珊瑚鞭,白馬驕不行。章臺折楊柳,春日路傍情。」や、唐・王昌齢『少年行』「走馬遠相尋,西樓下夕陰。結交期一劍,留意贈千金。高閣歌聲遠,重門柳色深。夜闌須盡飲,莫負百年心。」や王維も『少年行』で「新豐美酒斗十千,咸陽遊侠多少年。相逢意氣爲君飮,繋馬高樓垂柳邊。」、沈彬の『結客少年場行』「重義輕生一劍知,白虹貫日報讎歸。片心惆悵清平世,酒市無人問布衣。」や、宋・賀鑄『六州歌頭』「少年侠氣,交結五キ雄。肝膽洞,毛髮聳。立談中,生死同,一諾千金重。推翹勇,矜豪縱,輕蓋擁,聯飛, 斗城東。轟飮酒,春色浮寒甕。吸海垂虹。闌ト鷹嗾犬,白駐E雕弓,狡穴俄空。樂怱怱。」等と、粋な若者の姿として描かれる。 ・時:とき。平仄に拘らない詩でも、踏み落としのこの「時」字のところは、仄韻字が多い。
※読書在空堂:(あの頃は)ひとけのない部屋で、勉強した(ものだった)。 ・読書:勉学する。また、本を読む。 ・在:…にいる(/ある)。 ・空堂:ひとけのない部屋の意。
※灯火数添油:ともしびに、たびたび油を注(つ)ぎたして。 *この「灯火数添油」の句の第五字目は(私の経験からでは)、仄韻字が来ることが多い。 ・数:〔さく;shuo4●〕しばしば。たびたび。
※未厭冬夜長:冬の夜の夜の長さをいとわなかった(ものだった)。 ・厭:いやがる。うむ。つかれる。いとう。
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は、「堂長」。平水韻下平七陽。この作品の平仄は、次の通り。
●○●○○,
●○●○○。(韻)
○●○●○,
●●○●○。(韻)
平成26.11.15 |
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