讀乃木希典惜花詞有感 | ||
大正天皇 |
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草長鶯啼日欲沈, 芳櫻花下惜花深。 櫻花再發將軍死, 詞裏長留千古心。 |
草 長 び鶯 啼 きて日 沈 まんと欲し,
芳櫻 花下 花を惜 しむこと深し。
櫻花 再 び發して 將軍 死す,
詞裏 長 へに留 む千古 の心を。
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◎ 私感註釈
※大正天皇:第百二十三代天皇。明治十二年(1879年)〜大正十五年(1926年)。幼称は明宮(はるのみや)。諱は嘉仁(よしひと)。第百二十二代天皇・明治天皇の子で、第百二十四代天皇・昭和天皇の父。
※読乃木希典惜花詞有感:乃木希典の『花を惜しむ』うたを読んで、感じることがあって(この詩を作る)。桜の花の潔(いさぎよ)く散っていくさまを見て、明治天皇に殉死した乃木将軍に思いを致した詩。大正二年の作。 ・乃木希典:明治時代の軍人。嘉永二年(1849年)〜大正元年(1912年)。長州藩出身。藩校明倫館に学び、戊辰戦争に参加、西南の役に従軍。明治十九年、渡独して軍制・戦術を研究し、帰国後陸軍の改革に着手。一時退役して半農生活を行うが、日清戦争に従軍。台湾総督を経て、日露戦争に第三軍司令官として、旅順を攻略、苦闘の末に陥落させ、戦勝に導いた。後、参議官、学習院院長を歴任。明治天皇大葬の日、静子夫人とともに殉死。 ・惜花詞:花を惜しむうた。乃木希典の短歌「色あせて 木ずゑに殘る それならで ちりてあとなき 花ぞ戀しき」(色あせても、枝にしがみついて(未練がましく)生き残っている花---そのようなのよりも、(さっぱりと)散って無くなってしまった花の方が慕わしい)の短歌を指す。
※草長鴬啼日欲沈:草が伸びて、ウグイスが鳴いて、日は沈もうとしている。 *この句「S・V + S・V + S・V」(草・長 + 鶯・啼 + 日・欲沈)の構文。(草長 鶯啼 日欲沈 ) ・草長:草が伸びる意。なお、「草長」の「長」と、結句・「詞裏長留千古心」中の「長」とは、異なったもの。「草長」「長」は:生(は)える。そだつ。(成長して)大きくなる意で〔ちゃう;zhang3●〕。「長留」の「長」は:ながい。ながく。ひさしく。とこしえに、の意で〔ちゃう;chang2○〕。 ・日欲沈:日が沈もうとしている意。 *「日欲沈」は「SV」の構成。「□ □ +「□ □ +「□ □□ 」で、第五、六、七字の三文字で「SV」としなければならないので、「日沈」の間に「欲」を入れて語調を整えた。もしも第六字目が平声としなければいけない場合は「日將沈」等とする。
※芳桜花下惜花深:芳(かぐ)しいサクラの花の下で、花(の散り落ちるの)を惜しむ(思い)が深い。 ・花下:花の咲いている下。花のもと。
※桜花再発将軍死:サクラの花は再びひらくが、将軍は死んだ。 *この句「S・V + S・V」(桜花・再発 + 将軍・死)の構文。(桜花 再発 将軍 死 )。「□□ □□ +□□ □ 」。 ・再発:ふたたび咲く。「発」は:花がひらく。 ・将軍:ここでは、乃木将軍を指す。 ・死:乃木将軍は、明治天皇大葬の日に殉死した。そのことを謂う。
※詞裏長留千古心:(乃木将軍の)うたの中に、古(いにしえ)の聖賢の教えが永遠に留められている。 ・詞裏:うたの中、の意。「裏」は:…の中。内。…の内部(に)。 ・長留:とこしえにとどめおく意。 ・千古心:いにしえの聖賢の教え。江戸・頼三樹三郎の『會津訪秋琴老居士』に「舊誼誰知三世深,天涯今更聽君琴。在談休道交情淺,亦似峨洋千古心。」(會津訪秋琴老居士壁挂先君嘗送居士詩因韻賦呈鴨刻)とあり、 江戸・菅茶山の『冬夜讀書』「雪擁山堂樹影深,檐鈴不動夜沈沈。閑收亂帙思疑義,一穗燈萬古心。」では、いにしえの聖賢の教えの意になる。明・高啓の『登金陵雨花臺望大江』に「大江來從萬山中,山勢盡與江流東。鍾山如龍獨西上,欲破巨浪乘長風。江山相雄不相讓,形勝爭誇天下壯。秦皇空此黄金,佳氣葱葱至今王。我懷鬱塞何由開,酒酣走上城南臺。坐覺蒼茫萬古意,遠自荒煙落日之中來。」とある。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「沈深心」で、平水韻下平十二侵。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●●○,(韻)
○○○●●○○。(韻)
○○●●○○●,
○●○○○●○。(韻)
平成28.4.23 4.24 4.25 4.26 4.27 |
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