自訟 |
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杉浦重剛 | ||
登嶽小天下, 自誇意氣豪。 其奈山上山, 仰之一層高。 |
嶽 に登りて 天下を小 とし,
自ら誇る 意氣の豪 なるを。
其 れ山上 の山 を奈 せん,
之 を仰げば 一層 高し。
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◎ 私感註釈
※杉浦重剛:明治、大正時代の教育家・評論家。安政二年(1855年)〜大正十三年(1924年)。幼名は譲次郎、号して梅窓・天台道士。近江国膳所藩(現・滋賀県大津市)の人。父は膳所藩の儒者・杉浦重文。 大学南校に学び、イギリスに留学、化学を専攻する。帰国後、東大予備門長。東京英語学校を設立。以後、教育家・評論家として活躍。国粋主義を倡え、政教社設立に参劃。三宅雪嶺、志賀重昂らと政教社発行の『日本人』に力を尽くす。東宮御学問所御用掛などを務めた。
※自訟:自分を責める。
※登嶽小天下:高い山に登れば、世の中を小(ちい)さなものと軽んじてしまい。 ・嶽:高い山。 ・小:軽んじる。小(ちい)さしとする。 ・天下:世の中。
※自誇意気豪:(自分の)気概が衆に優れた人だと自慢し(てしまう)。する。誇る。 ・自誇:自慢する。誇る。 ・意気:意気込み。気概。 ・豪:才能や力量が衆に優れた人。
※其奈山上山:(高い)山に登って、(頂上から見わたせば、)更に高い山(が聳えていて)。 *この句「其奈山上山」の第五字に「山」字(平字)は不適切。或いは誤伝か。 ・其奈:〔きだい;qi2nai4○●〕どうにもしようがない。いかんせん。「其」:それ。疑問・反語の助字。指示代(名)詞ではない。「奈」:どうにもしようがない。いかん。 ・山上山:登った山上から見わたせば、更に高い山が聳えていることを謂う。南宋・林升の『題臨安邸』に「山外山樓外樓,西湖歌舞幾時休。暖風薫得遊人醉,直把杭州作州。」とある。
※仰之一層高:これ(=その、更に高い山)をふり仰げば、一層高い。 ・仰:あおぐ。あおむく。 ・之:これ。ここでは、「山上山」を指す。
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「豪高」で、平水韻下平四豪(豪高)。この作品の平仄は、次の通り。
○●●○●,
●○●●○。(韻)
○●○●○,
●○●○○。(韻)
平成29.5.24 |
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