自詠 |
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豐臣秀吉 | ||
吾似朝霞降人世, 來去匆匆瞬即逝。 大坂巍巍氣勢盛, 亦如夢中虚幻姿。 |
吾は朝霞 の似 くして 人の世に降 り,
來去 して匆匆 瞬即 に逝 く。
大坂巍巍 として 氣勢 盛んなれど,
亦 た 夢中虚幻 の姿の如し。
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◎ 私感註釈
※豊臣秀吉:安土桃山時代の武将、関白、太閤。小者から身をおこし、織田信長の後を継いで天下を統一した。1536年〜1598年。
※自詠:みずからうたう。 *豊臣秀吉の辞世は、和歌で「露と落ち 露と消えにし 我が身かな 浪花の事も(/は) 夢のまた夢」が伝えられている。その漢訳がこのページの詩・『秀吉自詠』として伝わり広まったのか。なお、この詩、不都合な「霞」を「露」に改め、(平仄は顧慮されていないので)平仄を整えると、次のようになる:「吾如朝露降人世,來去匆匆瞬即逝。大坂巍巍氣勢盛,亦若夢中虚幻姿。」。(韻脚も不適切。ただし、韻脚までさわると詩の雰囲気を変えてしまうのでやめている)。
※吾似朝霞降人世:わたしは、朝焼け(/朝露)のようにこの世に生まれ。 ・似:似る。…ごとし。 ・朝霞:朝焼け。また、朝のかすみ。なお、豊臣秀吉の辞世の和歌は「露と落ち露と消えにし…」で「朝露」の意。魏・曹操の『短歌行』に「對酒當歌,人生幾何。譬如朝露,去日苦多。慨當以慷,憂思難忘。何以解憂,唯有杜康。慨當以慷,憂思難忘。何以解憂,唯有杜康。青青子衿,悠悠我心。但爲君故,沈吟至今。呦呦鹿鳴,食野之苹。我有嘉賓,鼓瑟吹笙。明明如月,何時可輟。憂從中來,不可斷絶。越陌度阡,枉用相存。契闊談讌,心念舊恩。月明星稀,烏鵲南飛。繞樹三匝,何枝可依。山不厭高,水不厭深。周公吐哺,天下歸心。」とあり、晋・陸機の『短歌行』に「置酒高堂,悲歌臨觴。人壽幾何,逝如朝霜。時無重至,華不再陽。蘋以春暉,蘭以秋芳。來日苦短,去日苦長。今我不樂,蟋蟀在房。樂以會興,悲以別章。豈曰無感,憂爲子忘。我酒既旨,我肴既臧。短歌有詠,長夜無荒。」とあり、『古詩十九首之十三』に「驅車上東門,遙望郭北墓。白楊何蕭蕭,松柏夾廣路。下有陳死人,杳杳即長暮。潛寐黄泉下,千載永不寤。浩浩陰陽移,年命如朝露。人生忽如寄,壽無金石固。萬歳更相送,賢聖莫能度。服食求~仙,多爲藥所誤。不如飮美酒,被服與素。」とある。 ・降:貴顕の人の生まれること。
※来去匆匆瞬即逝:行き来が慌ただしくて、非常に短い時間で過ぎ去(ろうとしてい)る。 ・来去:行き来する。来ると行くと。行き帰り。 ・匆匆:〔そうそう;cong1cong1○○〕慌ただしいさま。いそがしいさま。騒がしいさま。中唐・張籍の『秋思』に「洛陽城裏見秋風,欲作家書意萬重。復恐匆匆説不盡,行人臨發又開封。」とあり、南唐後主・李Uに『相見歡』「林花謝了春紅,太匆匆。無奈朝來寒雨晩來風。 臙脂涙,留人醉,幾時重。自是人生長恨 水長東。」がある。 ・瞬即:非常に短い時間を謂う。 ・逝:去る。(時間や流れが)過ぎ去る。死ぬ。
※大坂巍巍気勢盛:大阪の高大なさまは、意気込みも盛んだ(が)。 ・大坂:大阪のこと。(江戸〜)明治時代以降は「大阪」と表記される。秀吉の和歌では「なには」(難波/浪華/浪花/浪速…)というところ。 ・巍巍:〔ぎぎ;wei1wei1○○〕高く大きくそびえ立つさま。高大なさま。盛唐・王昌齡の『萬歳樓』に「江上巍巍萬歳樓,不知經歴幾千秋。年年喜見山長在,日日悲看水獨流。猿何曾離暮嶺,空自泛寒洲。」とある。 ・気勢:意気込んだ気持ち。勢い。
※亦如夢中虚幻姿:(大阪のこと)もまた夢の中の幻(まぼろし)のようだ。 ・亦如:…もまた…のようだ、の意。 ・夢中:夢のなか。 ・虚幻:〔きょげん;xu1huan4○●〕まぼろしの。実在しない。また、まぼろし。
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◎ 構成について
韻式は、「aaA」。韻脚は「世逝姿」で、平水韻去声八霽(世逝)・上平四支(姿)で、(詞は別として、)詩ではこのような押韻の仕方はない。この作品の平仄は、次の通り。
○●○○●○●,(韻)
○●○○●●●。(韻)
●●○○●●●,
●○●○○●○。(韻)
平成29.5.25 5.26 |
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