無題 | ||
夏目漱石 |
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仰臥人如啞, 默然見大空。 大空雲不動, 終日杳相同。 |
仰臥して 人啞 の如く,
默然として大空 を見る。
大空 雲 動かず,
終日 杳 として相 ひ同じ。
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◎ 私感註釈
※夏目漱石:明治期の小説家。慶応三年(1867年)〜大正五年(1916年)東京出身。名は金之助。東大英文科卒。松山中学教諭、五高教授を経て、イギリスに留学、帰国後一高教授。『明暗』では、自我を越えた所謂「則天去私」の世界を志向した。
※無題:詩題がもうけられていない。
※仰臥人如唖:(病のため、)あお向けに寝て、人(=作者・夏目漱石)は、唖(おし)のように(口をきかないまま)。 ・仰臥:あお向けに寝る。 ・唖:口がきけないこと。おし。
※黙然見大空:黙ったままで、(じっと)大空(おおぞら)を見ている。 ・黙然:〔もくねん(もくぜん);mo4ran2●○〕だまったままでいるさま。じっとものを言わないさま。 ・大空:〔たいくう/だいくう/(おおぞら)〕だいくう:まったく何もないこと。人も物も実体がなく十方世界が空であること。(仏語)。おおぞら:おおぞら。
※大空雲不動:大空の雲は、動くことなく。
※終日杳相同:朝から夕方まで、奥深く同じである。(ずっと曇り空に掩われていた)。 ・終日: 一日中。朝から夕方まで。 ・杳:〔えう;yao3●〕(日の出前や日没後の)暗い。深い。奥深い。遥か。『古詩十九首之十三』「驅車上東門,遙望郭北墓。白楊何蕭蕭,松柏夾廣路。下有陳死人,杳杳即長暮。」、李白に『山中問答』「問余何意棲碧山,笑而不答心自閑。桃花流水杳然去,別有天地非人間。」、寇準の『江南春』「杳杳煙波隔千里,白蘋香散東風起。日落汀洲一望時,柔情不斷如春水。」 がある。 ・相同:同じである。
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「空同」で、平水韻上平一東。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●,
●●●●○。(韻)
●○○●●,
○●●○○。(韻)
平成30.1.11 1.12 |
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