聞鼠疫流行有感 | ||
大正天皇 |
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如今鼠疫起東京, 我正聞之暗愴情。 一掃祲氛須及早, 恐他刻刻奪民生。 |
如今 鼠疫 東京に起く,
我 正に之 を聞きて 暗に情を愴 ましむ。
祲氛 を一掃するは須 らく早きに及ぶべし,
恐る他 刻刻と 民生を奪ふを。
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◎ 私感註釈
※大正天皇:第百二十三代天皇。明治十二年(1879年)〜大正十五年(1926年)。幼称は明宮(はるのみや)。諱は嘉仁(よしひと)。第百二十二代天皇・明治天皇の子で、第百二十六代・今上天皇の曾祖父。
※聞鼠疫流行有感:ペストが流行していると聞き、感じることがあって(詩を作った)。 ・鼠疫(そえき):ペスト。元来はネズミに寄生する菌から起こるネズミの病気であるが、ノミを介して人に感染する致命率の高い病気。 ・有感:感じることがあって(詩を作る)。
※如今鼠疫起東京:今、ペストが東京で起こっている(と)。 ・如今:いま。ただいま。現今。
※我正聞之暗愴情:わたしはこれを聞くと、心が暗くなって。 ・正:まさに。まさしく。ちょうど。 ・愴:〔さう;chuang4●〕いたむ。かなしむ。みだれる。
※一掃祲氛須及早:妖気を一掃することは早めにすべきで。 ・祲〔しん;jin1○〕邪気。妖気。また、太陽の周りに現れるかさ。コロナ。ここは、前者の意。 ・氛:〔ふん;fen1○〕悪い気。凶気。わざわい。 ・祲氛:〔しんふん;jin1fen1○○〕邪気。妖氛。 ・須:すべからく…べし。…しなければならない。 ・及早:早めに。早いうちに。なるべく早く。
※恐他刻刻奪民生:(さもないと)それ(=ペスト)は、刻々と人民の生活や生計を奪っている。 ・他:それ。(現在では:=它)。三人称代名詞。ここではペストを指す。 ・刻刻:毎時毎刻。また、時間がたつのにつれて。ここは、後者の意で使われる。 ・民生:人民の生活、生計。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「京情生」で、平水韻下平八庚。この作品の平仄は、次の通り。
○○●●●○○,(韻)
●●○○●●○。(韻)
●●○○○●●,
●○●●●○○。(韻)
令和2.7.26完 8.13補 |
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