西郊晩歸 | ||
僧 知影 |
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野航泛泛依岸, 村舍寥寥掩扉。 空外孤峰月上, 松間一路僧歸。 |
野航 泛泛 として 岸に依り,
村舍寥寥 として 扉を掩 ふ。
空外 の孤峰に 月は上 り,
松間 の一路 僧は 歸る。
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◎ 私感註釈
※知影:江戸時代の僧。本願寺派の京都、光隆寺の僧。〜文政八年。
※西郊晩帰:西の方の村はずれから晩(おそ)く(夜も更(ふ)けて)もどってきて。 ・西郊:西の方の村はずれ。 ・晩帰:おそくもどってくる。 ・晩:は時間的に夜も更けておそいこと。なお、「遅」はスピードがゆっくりとしていること。
※野航泛泛依岸:田舎(いなか)の渡し舟で、舟を浮かび漂わせて岸づたいにゆけば。 ・野航:田舎(いなか)の渡し舟。 *もしや、後出・南朝・梁・王籍の『入若耶溪』「艅艎…」を踏まえたものでは…?? ・泛泛:〔はんはん(はんぱん);fan4fan4●●〕浮かび漂うさま。舟の浮かんで進むさま。南朝・梁・王籍の『入若耶溪』「艅艎何泛泛,空水共悠悠。陰霞生遠岫,陽景逐迴流。蟬噪林逾靜,鳥鳴山更幽。此地動歸念,長年悲倦遊。」とある。 ・依岸:岸づたいにゆく。
※村舎寥寥掩扉:田舎の家が、寂しくて静かに戸を鎖している。 ・村舎:田舎の家。 ・寥寥:〔れうれう;liao2liao2○○〕寂しくて静かなさま。まばらなさま。石川丈山の『題石不動壁』に「晩山幽靄裏,一徑入林丘。僧去鎖松戸,寥寥筧水流。」とあり、中島棕隱の『鴨東百絶』に「紅燈無影夜寥寥,一片殘蟾掛柳梢。少女十三能慣客,不辭風露送過橋。」とある。 ・掩扉:扉を鎖す。
※空外孤峰月上:天の遥か遠いところのぽつんと一つだけの峰(東の峰)に月が出てきて。 ・空外:…「天外」だと、天の外。遥か遠いところ。 ・孤峰:ぽつんと一つだけの峰。 ・月上:(東の空に)月が出てくる。 *この詩は、山の峰に月が上ってくる時の情景なので。
※松間一路僧帰:松の木の間の小道を、僧侶(=作者のことか)が戻ってきた。 ・松間一路:「松の木の間の小道」になる。石川丈山の『題石不動壁』に「晩山幽靄裏,一徑入林丘。僧去鎖松戸,寥寥筧水流。」とある。 ・僧帰:僧侶が戻っていく。白居易の『靈巖寺』「館娃宮畔千年寺,水闊雲多客到稀。聞説春來更惆悵,百花深處一僧歸。」、石川丈山の『題石不動壁』に「晩山幽靄裏,一徑入林丘。僧去鎖松戸,寥寥筧水流。」とある。
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「扉帰」で、平水韻上平五微。この作品の平仄は、次の通り。
●○●●○●,
○●○○●○。(韻)
○●○○●●,
○○●●○○。(韻)
令和3.8.22 8.23 |
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