屋角風微煙霧霏, 柳絲無力杏花肥。 朦朧數點斜陽裏, 應是呢喃燕子歸。 |
春日晩望
屋角 風 微 かにして煙霧 霏 とし,
柳絲 力 無くして杏花 肥 ゆ。
朦朧 たる數點斜陽 の裏 ,
應 に是 れ呢喃 燕子 歸 るべし。
◎ 私感訳註:
※左緯:両宋の詩人。字は経臣。号して委羽居士。黄巌(現・浙江)の人。生没年不詳。北宋・哲宗の元祐年間の初め頃(1086年〜1088年?)の出生で、南宋・高宗の建炎年間(1127年〜1130年)には在世。終身仕えることがなかった。詩は杜甫に学び、「意理趣」を重視した。『委羽居士集』があったが、散佚した。
※春日晩望:春の日の夕方の眺め。春霞の夕方の穏やかな情景を詠ったもの。 ・晩望:夕暮れの眺め。
※屋角風微煙霧霏:屋根の檐(ひさし)の両端の先(を吹き抜ける)風は微(かす)かであり、(そのため、)靄(もや)や霞(かすみ)が立ち籠めて。 ・屋角:屋根の四隅の角(かど)。檐(ひさし)の両端の先。中国風の屋根の場合は、先が反りあがっている場合がある。(⇒右写真) ・微:かすかである。 ・煙霧:もややかすみ。けむりときり。明・陳子龍の『點絳脣 春日風雨有感』に「滿眼韶華,東風慣是吹紅去。幾番煙霧。只有花難護。 夢裏相思,故國王孫路。春無主。杜鵑啼處。涙染臙脂雨。」とある。 ・霏:〔ひ;fei1○〕雲の飛ぶさま。また、雨や雪の降るさま。(雨や雪が)しきりに降る。ここは、前者の意。
屋角
※柳糸無力杏花肥:柳の枝(えだ)が力(ちから)無(な)げに枝垂(しだ)れて、杏(アンズ)の花が(満開になって)嵩(かさ)が増えた。 ・柳糸:〔りうし;liu3si1●○〕柳の枝(えだ)の枝垂(しだ)れる形容。 ・無力:力(ちから)無(な)げ。力がないこと。晩唐・李商隱の『無題』に「相見時難別亦難,東風無力百花殘。春蠶到死絲方盡,蠟炬成灰涙始乾。曉鏡但愁雲鬢改,夜吟應覺月光寒。蓬山此去無多路,鳥殷勤爲探看。」とあり、北宋・秦觀の『春日』に「一夕輕雷落萬絲,霽光浮瓦碧參差。有情芍藥含春涙,無力薔薇臥曉枝。」とある。 ・杏花:アンズの花。 ・肥:(花が満開になって)花の嵩(かさ)が増えたことを謂う。両宋・李清照の『如夢令』に「昨夜雨疏風驟,濃睡不消殘酒。試問卷簾人,却道海棠依舊。知否?知否?應是鵠紅痩。」とある。北宋・柳永の『八聲甘州』に「對蕭蕭暮雨灑江天,一番洗清秋。漸霜風淒緊,關河冷落,殘照當樓。是處紅衰翠減,苒苒物華休。惟有長江水,無語東流。 不忍登高臨遠,望故ク渺,歸思難收。嘆年來蹤跡,何事苦淹留。想佳人粧樓望,誤幾回天際識歸舟。爭知我,倚闌幹處,正恁凝愁。」とある。
※朦朧数点斜陽裏:おぼろげに、幾つかぽつぽつと夕陽(に照らされた景)の中で(見える物は)。 ・朦朧:〔もうろう;meng2long2○○〕おぼろげに見えるさま。ぼんやりと。はっきりしない。月の没しようとしておぼろげなさま。晩唐・韓偓の『夜深』に「惻惻輕寒翦翦風,小梅飄雪杏花紅。夜深斜搭鞦韆索,樓閣朦朧煙雨中。」とあり、南唐後主・李Uの『采桑子』に「庭前春逐紅英盡,舞態徘徊。細雨霏微,不放雙眉時暫開。坂x冷靜芳音斷,香印成灰。可奈情懷,欲睡朦朧入夢來。」とある。 ・数点:数個。ぽつぽつと。 ・斜陽:夕陽。 ・裏:うち。中。
※応是呢喃燕子帰:きっと、ピーピーとさえずるツバメが帰ってきたのだろう。 ・応是:きっと…だろう。ちょうど。まさに これ。なお、「是」を「これ」と読むが、この用法では指示詞としての機能はない。前出・李清照の『如夢令』に「應是鵠紅痩。」とある。 ・呢喃:〔ぢなん;ni2nan2○○〕ツバメの鳴く声。ピーピー。ニーナン。また、小さい声で多言すること。ペチャクチャ。ひそひそ。くどくど。ここは、前者の意。中唐・白居易の『燕詩示劉叟』に「梁上有雙燕,翩翩雄與雌。銜泥兩椽間,一巣生四兒。四兒日夜長,索食聲孜孜。青蟲不易捕,黄口無飽期。觜爪雖欲弊,心力不知疲。須臾千來往,猶恐巣中飢。辛勤三十日,母痩雛漸肥。喃喃ヘ言語,一一刷毛衣。一旦苧ヰャ,引上庭樹枝。舉翅不回顧,隨風四散飛。雌雄空中鳴,聲盡呼不歸。卻入空巣裏,啁啾終夜悲。燕燕爾勿悲,爾當返自思。思爾爲雛日,高飛背母時。當時父母念,今日爾應知。」とある。 ・呢喃燕子:ピーピーとさえずるツバメ。 ・燕子:ツバメ。「-子」は接尾語。名詞の接尾字で、特段の意味はなく、「こども」の意はない。 ・帰:(自宅・故郷・故国・墓所などの本来の居場所に)かえる。
◎ 構成について
2016.1.26 1.27 1.28 |