平甫見招不欲往 | |
南宋・姜夔 |
老去無心聽管絃,
病來杯酒不相便。
人生難得秋前雨,
乞我虚堂自在眠。
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平甫 に招かるるも往 くを欲せず
老い去りて 管絃を聽くに 心 無く,
病來 杯酒 相 ひ便 ならず。
人生得難 きは秋前 の雨,
乞 ふ我 に虚堂 自在 の眠りを。
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◎ 私感註釈
※姜夔:〔きゃうき(きょうき;Jiang1Kui2)〕南宋の詞人。紹興二十五年(1155年)〜嘉定十四年(1221年)。鄱陽(現・江西省内)の人。字は堯章。号して白石道人。詩詞、書画、音楽など広く文学・芸術に通じ、無官のまま范成大、楊万里など、有名な官僚文人たちと親交があった。詞では、洗練された表現、「清空」と評される典雅な風格で、四大家の一とされる。
※平甫見招不欲往:(作者の姜夔(きょうき)は、)張平甫(=張鑑)の催す宴会に行く気はない(ことを詩にして、張平甫への返事とし)た。読み下しは「平甫に招かるるも往くを欲せず」。 *この詩題を「張平甫(=張鑑)は、(作者の姜夔(きょうき)から)宴会に招待されたが、行く気はない(と返事をしてきた)」ととる。その場合、詩の内容は、張平甫が伝えてきた缺席の言い訳になる。読み下しは「平甫の招かるるも往くを欲せず」。 ・平甫:人名。作者の友人。張鑑の字。張平甫。 ・見招:招待される。招かれる。 ・不欲往:行きたくない意。 ・往:行く。
※老去無心聴管絃:年をとってからは、音楽を聴く気にならないで。 ・老去:年をとる。老い去る。「去」は助字。≒老来。 *「老去」と「老来」とについて:「老去」は詩中、平仄で「●●」(「○●」)とすべきところで使い、「老来」は「○○」(「●○」)とすべきところで使う。「老去無心聴管絃」は「●●○○◎●○」で、「老去」(●●)が適切。 ・無心-:…する気がない。…する気になれない。 ・聴:(耳を傾けて意図的に)聞く。 なお、(受動的に)聞こえる意は:「聞」。 ・管絃:管楽器や弦楽器。音楽を謂う。
※病来杯酒不相便:病気になってからは幾杯かの酒も、あまり宜(よろ)しくない。 ・病来:病気をしてから、の意。 ・杯酒:幾杯かの酒。「杯」は助数詞(量詞)。中唐・劉禹錫の『酬樂天揚州初逢席上見贈』に「巴山楚水淒涼地,二十三年棄置身。懷舊空吟聞笛賦,到ク翻似爛柯人。沈舟側畔千帆過,病樹前頭萬木春。今日聽君歌一曲,暫憑杯酒長精神。」とあり、元・楊維驍フ『漫成』に「西鄰昨夜哭暴卒,東家今日悲免官。今日不知來日事,人生可放杯酒乾。」とある。 ・相便:ほどよい意。ここでの「便」は韻脚(平水韻下平一先「絃便眠」)となるので、〔ひん(びん)?○〕つごうがよい。ここはこの意。 または〔へん(べん);pian2○〕の意となろうが…。 〔へん(べん);bian4●〕ではなかろう。
※人生難得秋前雨:人生で得難(えがた)いのは、秋の初めの暑気を追い払う雨で。 ・難得:珍しい。得難(えがた)い。唐・宋・孫光憲の『後庭花 其二』に「石城依舊空江國,故宮春色。七尺絲芳草碧,絶世難得。 玉英凋落盡,更何人識。野棠如織,只是ヘ人添怨憶,悵望無極。」とあり、中華民國・晏如の『何日君再來』に「好花不常開,好景不常在。愁堆解笑眉,涙洒相思帶。今宵離別後,何日君再來。喝完了這杯,請進點小菜。人生難得幾回醉,不歡更何待。今宵離別後,何日君再來。」とある。 ・秋前雨:秋の初めの暑気を追い払う雨、の意。
※乞我虚堂自在眠:どうかわたしを、人気(ひとけ)のない家で気楽にさせてほしい。 ・乞:〔こつ(きつ);qi3●〕乞(こ)う。請(こ)う。所望する。懇請する。願う。また、〔き;qi4●〕あたえる。 ・乞我-:どうかわたしに…させてほしい。 ・虚堂:人のいない部屋。人気(ひとけ)のない家。 ・自在:自分の思いのままであること。のんびりする。安らかで静かなさま。気楽である。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「絃便眠」で、平水韻下平一先。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○◎●○,(韻)
●○○●●○○。(韻)
○○○●○○●,
●●○○●●○。(韻)
2017.10.15 10.16 10.17 10.18 10.19 10.20 |
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