揚子江 | |
南宋〜・文天祥 |
幾日隨風北海遊,
回從揚子大江頭。
臣心一片磁針石,
不指南方不肯休。
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揚子江
幾日か 風に隨 ひて 北海に遊び,
回 るに揚子大江 の頭 よりす。
臣 の心は 一片の磁針石 ,
南方を指 さざれば肯 へて休 まず。
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◎ 私感註釈
※文天祥:南宋末の大臣。南宋・端平三年(1236年)〜元・至元一九年十二月(1283年)。字は宋瑞、履善。号して文山。吉州廬陵(現・江西省吉安県)の人。元軍の入寇に際して、これと戦うように主張する。後に元に抗する武装勢力を組織し臨安に入ってこれを防衛した。やがて元軍との講和の使者となるが、伯顔(バヤン)を痛烈に非難したために捕らえられたが、脱走。福建、広東一帯で元への抵抗を堅持した。後に敗れて、北京に送られ、投降の勧誘に応じることなく大義を守り抜いた。現・北京の柴市で刑死。
※揚子江:長江(下流)のこと。揚子津渡口という渡しがあったことに因る。
※幾日随風北海遊:何日ぐらい、風に吹かれて長江以北の海をさまよったことだろうか。 ・随風:風に漂う。風に吹かれて。風になびいて。形勢を見ていることを謂う。 ・北海:ここでは、長江河口以北の海のこと。 ・遊:動き回る。常に移動する。一箇所に固定しない。
※回従揚子大江頭:長江河口(の海)からは、方針転換をした。 ・回:まわる。巡(めぐ)る。 ・従:…より。 ・揚子大江:前出・揚子江(長江(下流))のこと。 ・頭:ほとり。
※臣心一片磁針石:(臣下であるところの)わたしの心は、磁石盤の針となる石であって(南を指しており)。 ・臣心:(臣下であるところの)わたしの心、の意。「臣」〔しん;chen2○〕は、皇帝に対しての臣下の自称。なお、皇帝の自称は「朕」〔ちん;zhen4●〕。 ・一片:心・誠意・熱心など。一面の。全面的な。盛唐・王昌齡には『芙蓉樓送辛漸』「寒雨連江夜入呉,平明送客楚山孤。洛陽親友如相問,一片冰心在玉壺。」とあり、南宋・陸游の『金錯刀行』に「黄金錯刀白玉裝,夜穿窗扉出光芒。丈夫五十功未立,提刀獨立顧八荒。京華結交盡奇士,意氣相期共生死。千年史冊恥無名,一片丹心報天子。爾來從軍天漢濱,南山曉雪玉。嗚呼,楚雖三戸能亡秦,豈有堂堂中國空無人。」とある。我が国・江戸時代では、藤田東湖の『詠古雜詩』「我慕楠夫子,雄略古今無。誓建回天業,感激忘其躯。廟堂遂無算,乾坤忠義孤。空留一片氣,凛凛不可誣」がある。その外の例に:李白の『哭晁卿衡』「日本晁卿辭帝都,征帆一片遶蓬壺。明月不歸沈碧海,白雲愁色滿蒼梧。」や、王之煥の「黄河遠上白雲間,一片孤城萬仞山。羌笛何須怨楊柳,春風不度玉門關。」がある。 ・磁針石:磁石盤の針となる石。方位磁針。南を指す。
※不指南方不肯休:南(の根拠地)を指さなければ、停まることを承知しない。 ・不…不…: もし…でなければ…でない。「不指南方 不肯休」。 ・南方:ここでは、福建、広東一帯を指す。そこで元への抵抗組織を作った。 ・不肯:承知しない。…しようとしない。 ・休:やむ。停まる。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「遊頭休」で、平水韻下平十一尤。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●●○,(韻)
○○○●●○○。(韻)
○○●●○○●,
●●○○●●○。(韻)
2019.6.20 6.21 |
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