人日思歸 | |
隋・薛道衡 |
入春纔七日,
離家已二年。
人歸落雁後,
思發在花前。
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人日 帰るを思ふ
春に入りて 纔かに七日,
家を離れて 已に二年。
人の帰るは 雁の後に落ち,
思ひの発するは 花の前に在 り。
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◎ 私感註釈
※薛道衡:(せつどうこう)。隋の文学者。540年〜609年。字は玄卿。河東郡汾陰(現・山西省万栄)の人。北斉・北周・隋の三朝に仕え、隋の文帝の時、南朝陳の討伐に功があり、また政治の枢要にあずかった。煬帝に文才を妬まれて殺された。詩は斉・梁の浮薄な詩風の影響を残しながら、剛健清新の息吹をあらわし、南北合流へ向かう新しい傾向をうかがわせるものがある。
※人日思歸:正月七日に帰郷を思う。 ・人日:旧暦正月の第七日目。正月七日は、人類全般の運勢を占う日であることからこういう。 ・思歸:旅先から帰郷、帰宅を思う。この「思」は動詞の用法で○である。なお、詩句中の「思發在花前」の「思」は名詞用法で●。春に帰ることは『王孫歸』を踏まえた句とも謂える。詩題や詞牌に『王孫歸』、『憶王孫』、『王孫遊』(南齊・謝)「国趨如絲,雜樹紅英發。無論君不歸,君歸芳已歇。」としてよく使われる。もと、貴人の子弟の意で、『楚辞・招隱士』「王孫遊兮不歸,春草生兮萋萋。歳暮兮不自聊,蛄鳴兮啾啾。」を指す。劉希夷の『白頭吟(代悲白頭翁)』「韋荘の『C平樂』に「春愁南陌。故國音書隔。細雨霏霏梨花白。燕拂畫簾金額。 盡日相望王孫,塵滿衣上涙痕。誰向橋邊吹笛,駐馬西望消魂。」や、晩唐・温庭の『折楊柳』に「館娃宮外城西,遠映征帆近拂堤。繋得王孫歸意切,不關春草堺ト萋。」がある。王維は『送別』で「山中相送罷,日暮掩柴扉。春草明年香C王孫歸不歸。」と使う。韋荘の『C平樂』に「春愁南陌。故國音書隔。細雨霏霏梨花白。燕拂畫簾金額。 盡日相望王孫,塵滿衣上涙痕。誰向橋邊吹笛,駐馬西望消魂。」 がある。
※入春纔七日:新春になってやっと七日になるが。 ・入春:(暦の上で)春(の季節)になる。 ・纔:やっと。 ・七日:七日になる。正月七日の人日になる。動詞的な用法。蛇足になるが、月日や年齢の語を動詞的に使う伝統は、現代語にも伝わっている。
※離家已二年:家を出るて、すでに二年になる。 ・離家:家を出る。 ・已:とっくに。すでに。 ・二年:二年になる。動詞的な用法。
※人歸落雁後:わたしが故郷へ帰るのは、ガンの飛び立った後になろうが。 ・人歸:(故郷を離れていた)人が(故郷に)帰る。帰郷する。前出・『王孫歸』参照。 ・人:ここでは、作者を指している。 ・歸:(自宅、故郷、自宅、墓所など、本来帰るべき所へ)かえる。 ・落雁後:(北国から来ていた渡り鳥の)雁が越冬を終えて、再び北国へ帰っていく後になる。歸雁の後。越冬した後北へ帰っていく雁。「雁の落ちたる後」の方がイメージが湧きやすい。「人歸・歸雁後」の意で使われている。「落雁」は、空からおりてくる雁。(「思發在花前」「在花前」(「花の前に在り」)と対になっていると見て「雁の後に落つ」との読みからは意味が掴みにくい。)
※思發在花前:(帰郷の)思いが発(ひら)き生まれたのは、花の咲く(時期)よりも以前のことになる。詩題の『人日思歸』のことでもある。 ・思發:(帰郷の)思いが生まれる。思いが発(ひら)く。この名詞用法の「思」は●(仄・去声)。 ・在花前:花の咲く(時期)以前。また、花の咲いている所。ここは、前者の意。
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「年前」で、平水韻下平一先。この作品の平仄は、次の通り。
●○○●●,
○○●●○。(A韻)
○○●●●,
●●●○○。(A韻)
2009. 8. 3 8. 4 8. 5 この間『漢詩』 2010. 2.16完 2.19 2012. 8.13 2020.10. 7 |
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