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渡江天馬南來, 幾人眞是經綸手。 長安父老, 新亭風景, 可憐依舊。 夷甫諸人, 神州沈陸, 幾曾回首。 算平戎萬里, 功名本是, 眞儒事、 公知否。 況有文章山斗, 對桐陰、 満庭淸晝。 當年墮地, 而今試看, 風雲奔走。 綠野風煙, 平泉草木, 東山歌酒。 待他年 整頓, 乾坤事了, 爲先生壽。 ![]() |
江を渡りて 天馬 南に來る,
幾人ぞ 眞に是れ 經綸の 手は。
長安の 父老,
新亭の 風景,
憐む可し 舊に依る。
夷甫 諸人,
神州 沈陸す,
幾たびか 曾て 回首す。
算ふるに 戎を平ぐこと 萬里,
功名は 本 是れ,
眞儒 事す、
公 知るや 否や。
況んや 文章の 山斗 有りて,
桐陰、
満庭の 淸晝に 對す。
當年 地に墮ち,
而今 試みに看よ,
風雲に 奔走す。
綠野の 風煙,
平泉の 草木,
東山の 歌酒。
他年を 待って,
乾坤の事を 整頓し 了(を)へれば,
先生の 爲に 壽がん。
**********
◎ 私感註釈
※水龍吟:詞牌の一。詞の形式名。詳しくは下記の「構成について」を参照。典故をきわめて多用した辛棄疾らしい詞である。宋と晋は、ともに南渡したので、辛棄疾をはじめとして、宋代豪放詞では、晋書からの引用が多い。おかげで、疲れる詞でもある。
※甲辰歳壽韓南澗尚書:甲辰の歳、韓南澗尚書を壽ぐ。これは長寿を祝い寿ぐ詞、寿詞である。甲辰歳:きのえたつ歳。淳煕十一年(1184年)のこと。韓南澗:韓元吉のこと。
※渡江:川を渡る。ここは、『晋書』(下記)からきている。実際は宋の南渡を指す。
※天馬:晋書の「元帝之渡江也…天意人事,又符中興之兆。太安之際,童謠云:『五馬浮渡江,一馬化爲龍。』…是歳,王室淪覆」(『晋書・帝紀卷六・帝紀第六・中宗元帝』)の故事から来ている。また、北宋の高宗のことともとれる。
※南來:南へ来る。南渡。晋や宋が、やがて東晋や南宋となって江南半壁の地に追いやられたことを謂う。
※經綸:天下を治め整えることと、その方策。
※幾人眞是經綸手:何人が本当に国を治める能力の持ち主なのか。
※長安父老:金の占領地に取り残された、旧宋の臣民。張孝祥の「六州歌頭」「聞道中原遺老,常南望,羽葆霓旌」、南宋・范成大の『州橋』に「州橋南北是天街,父老年年等駕迴。忍涙失聲詢使者,幾時眞有六軍來。」
とあり、南宋・陸游の『夜讀范至能攬轡録言中原父老見使者多揮涕感其事作絶句』に「 公卿有黨排宗澤,帷幄無人用岳飛。遺老不應知此恨,亦逢漢節解沾衣。」
、や陸游の『書事』「關中父老望王師,想見壺漿滿路時。寂寞西溪衰草裏,斷碑猶有少陵詩。」
等に同じ。『晋書巻九十八・列伝第六十八・桓温』に「温進至覇上(覇水のほとり。長安の東),…耆老感泣曰:『不圖今日復見官軍』初」とある。
※新亭:建康(現・南京)にある労労亭のこと。
※新亭風景:新亭辺りの風景。西晋が滅び建業に東晋が興ったが、その後、日よりの良い日に北から南渡してきた亡命人士が新亭に集まって、異なった山河を眺め、中原を偲んだという故事『晋書巻六十五・列伝第三十五・王導』の「過江人士,毎至暇日,相要出新亭飲宴。」に基づく句。
※可憐依舊:遺憾ながら昔のままだ。中原に取り残された旧宋の臣民が宋朝を懐かしがることも、新亭に過江の人士が集まり、「周顗中坐而歎曰:『風景不殊,舉目有江河之異。』皆相視流涕。」(『晋書巻六十五・列伝第三十五・王導』)と風や陽光は故国と異ならないが、山河等の自然環境は異なると慨嘆し、涙を流したことも、その状況は変わっていない、ということ。未だ中原を収められないで、嘆きのままであるということ。
※夷甫:王夷甫。名は衍。西晋の人で、神情明秀、風姿詳雅で、一世龍門と呼ばれた(『晋書・王衍傳』)が、「清談」を好み、国政をないがしろにして、国を亡ぼしてしまった。ここでは、理想論、空論を振りかざして、国を誤らせる者をいう。夷甫諸人:理想論、空論を振りかざして、国を誤らせる夷甫の輩。夷甫の亜流。『晋書巻九十八・列伝第六十八・桓温』で、前出『晋書』の十行ほど後に「(桓)温自江陵(江陵:地名)北伐,行經金城(金城:地名),見少爲琅邪(琅邪:地名)時所種柳皆已十,慨然曰:『木猶如此,人何以堪!』攀枝執條,然流涕。於是過淮泗,践北境,與諸僚属登平乖樓,眺矚中原,慨然曰:『遂使神州陸沈,百年丘墟,夷甫諸人不得不任其責』」とある。
※神州:中原のこと。 前記『晋書・桓温傳』を参照。
※沈陸:陥落する。陸沈を沈陸としたのは、陸沈ならば●○で、沈陸ならば○●となる。ここは●●となるべきところで、特にこの句の第四字め(この二字だけでいうと後の方)は絶対に●となるべきところなので、晋書の語とは逆に、ここは「沈陸○●」。前記「晋書・桓温傳」を参照。
※幾曾回首:何回振り返ったことか。
※算:思う。推し量る。
※平戎:えびすをを平らげる。異民族を平定すること。ここでの戎とは金を指す。
※萬里:遠方まで広い地域をを駆けめぐって(えびすを平定した功名)。
※功名:功績。手柄。
※本是:本来は。
※眞儒:本当に学問を修めた人。本当の愛国者。
※事:仕える。なす。祖国の領土を回復するという愛国的な行動は、本来忠孝の道を究め、真の学を修めた者の責務である。
※公:きみ。諸侯等、身分ある人への敬称。ここは、この寿詞の対象である韓南澗のこと。
※知否:知っているか。知っているかどうか。知るや否や。
※況有:ましてや。
※山斗:泰山北斗の略で、泰山も北斗星もともに人に仰ぎ慕われるものの譬え。泰斗。大学者の称。
※文章山斗:文章の大家。「(新)唐書巻一百七十六・列傳一百一・韓愈」の項の一番最後にある賛から「自愈沒,其言大行,學者仰之如泰山、北斗云。」を引用することにより、韓南澗の文章を褒め称えるだけでなく、韓愈に比肩して讃えている効果を出している。(大いなる蛇足:この「自愈沒,其言大行,學者仰之如泰山、北斗云。」の句を探すだけで、勘違いをしてしまい、(きっちり最後の最後まで読まなかったので、)三時間かかった。辛棄疾の詞は本当に疲れる。)
※桐陰:韓南澗の家柄の良さをいう。韓南澗は北宋の名族、潁川韓氏で、その屋敷前に桐の樹が植えられていたので、桐木韓家(世家)と呼ばれた。
※當年:かの年。あの年。往時。ここの「當」は、日本語で言えば「終戦当時」の「當」であって、「当年とって五十歳」の「當」ではない。ここの意味の「當年」は○○となり、詞調とも丁度合う。
※墮地:韓南澗の生誕を指す。
※而今:今。今日。目下。この詞では前出の「當年」に対して使われている。
※試看:見たまえ。見なさい。試みに見よ。
※風雲奔走:韓南澗が多端な政治問題を上手に処理していくさまをいう。
※綠野風煙:綠野堂付近の風光。綠野:唐の宰相裴度の別荘の綠野堂を指し、ここでは隠棲を暗示している。風煙:景色。
※平泉草木:平泉荘付近の自然。平泉:唐の宰相李徳裕の別荘平泉荘のことで、やはり隠棲を暗示している。
※東山:晋の名臣謝安の寓居があったところ。ここまで、裴度、李徳裕、謝安と、名臣を列挙することによって、韓南澗をも名臣の列にあると讃える効果を出している。
※待他年:他日の(天下統一の事業の成功を)待って。
※整頓:ここの意味の上のでの繋がりは、「整頓乾坤」となり、「天下を統一する」、「国土を回復する」意。
※乾坤:天地。ここでは天下。
※了:おおす。おえる。
※整頓乾坤事了:天下統一の事業をやり遂げる。
※爲先生壽:(天下統一の事業をやりおえたら、また、)先生のためにことほごう。この先生も韓南澗を指す。
◎ 構成について
双調。百二字。仄韻一韻到底。韻式は「aaaa aaaaa」。韻脚は「手舊首否 斗晝走酒壽」で、第十二部の上声、去声。
○
●○○,
○
●○○●。(韻)
○●●,
○●●,
○
●。(韻)
●○○,
○●●,
○
●。(韻)
●、○
●,
○
●,
○○●,
○○●。(韻)
●○○
●。(韻)
●●○+ ○○●。(韻)
○
●,
○
●。(韻)
●○○,
○
●,
○○●。(韻)
●○○+ ●●○○●●,
●○○●。(韻)
2001.10. 1 10. 2 10. 3 10. 4 10. 7 10. 8完 10. 9補 10.10 |
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