「木村、そこ動くなよ」
リビングで台本を読んでいた赤組さんにそう言って、青組さんは、ベッドから毛布を引っ張ってきたなり。そして何も言わずに赤組さんの膝の上に頭を載せると、脚を曲げ、背中を丸めて毛布にくるまったなり。すっぽりとくるまった毛布からは青組さんの頭がちょっと見えるだけ、といった状態だったなり。
いきなりの青組さんのそんな行動に、赤組さんは言葉もなかったなりが、そうなってやっと初めて声を出したなり。
「まぁ?」
それは高校時代、おもしろ半分に呼び始めてから、一時期二人の間で使っていた呼び方だったなり。赤組さんはそう呼ぶのが好きだったなりが、青組さんはそう呼ばれるのはあまり好きではなかったなり。最近でも赤組さんは時々そう呼ぼうとしたなりが、青組さんがそうされて文句を言わないのは、よっぽどテンションの高い上機嫌の時か、もう一つの場合だけだったなり。
「まぁ」
もう一度赤組さんが声をかけると、青組さんはもっともっと小さく身体を丸めたなりから、聞こえていないわけではないということが、赤組さんにも見て取れたなり。
何があったんだろう?
赤組さんは思ったなり。どう見たって、今の青組さんは上機嫌とはほど遠くて・・・・、もう一つの場合、淋しがっている、ということなのだと思ったなり。
「独りでいる方が楽」
というのが口癖といってもいいくらいのくせに、反面、青組さんは淋しがりだったなり。特に何かがあったときには、それでも大丈夫と思えるような居場所を確認したがっていたなり。誰からの干渉も受け付けないように、自分に籠もるように毛布にくるまって小さく小さく丸まって、けれどもその頭を赤組さんの膝にあずける、その姿がそれを端的に象徴していたなり。そしてそれは、本人も気付いていないような無意識でのぎりぎりの行動だと、赤組さんには思えたなり。
訊いてみたところで、この意地っ張りの同居人は何も言ってくれないだろう、だから、せめてそばに自分がいて、青組さんの居場所が確かにあるということを伝えられるように、赤組さんはその手で青組さんの背中を、赤ちゃんにするように優しくぽんぽんと叩いていたなり。
青組さんは何も言わずに赤組さんにされるままにさせていたなり。
やがて、青組さんの呼吸がゆっくりと規則正しく感じられるようになって、赤組さんは青組さんがようやく眠りに就いたことに気付いたなり。
さて、この後どうするかな?ベッドまで連れていこうとしたら、目覚ましてしまうかなぁ。
せっかくの安らかに聞こえる青組さんの寝息に、せめて朝まで眠らせてやりたいと思い、少し悩みながら、赤組さんは呟いたなり。
「一体何があったんだろうな?いつかおまえにそれを言ってもらえる存在になりたいってそう思うのは、無茶な希い(ねがい)なのかなぁ・・・・」
そのつぶやきを聞いたのはボニータのみだったなり。ボニータは赤組さんの言葉に小さく首をかしげたなり。