××木村旅館  星月夜××

その日、スマスマの収録はいつものごとく、といってはなんだけれども日付が変わってからも続いていたなり。あと1コーナーを残すのみではあったけれど、それが終わるのが何時頃になるのかは青組さんにもわからなかったなり。

とりあえず、休憩にはいることになり、ちょっとだけ息抜きをするために青組さんは前室へと戻っていたなり。

「ん?」

前室に入ったときに感じた違和感がなんだったのか、青組さんはすぐに気づいたなり。いつもだったら、控え室には戻らずに、思い思いの時間を過ごしているメンバーが、今日に限っていなかったなり。たった一人を除いては。

そのたった一人は、先程から何が面白くないのか、不機嫌そうな顔で煙草を吸っては灰皿に押しつけて消す、ということを繰り返していたなり。多分下手に刺激したくなくって、弟たちはそれぞれ控え室まで戻ってしまったのだと思われたなり。けれども、青組さんにはそんな義理はないし、わざわざ控え室まで戻るのも億劫だったし、そのままそこにあったパイプ椅子に腰を下ろすと、自分の煙草を取り出して火を点けたなり。

そうして、自分の吐き出した煙を見るとはなしに目で追っていた青組さんの耳に微かなため息が聞こえたなり。聞かなかったことにしてもよかったのだけれど、青組さんはつい、尋ねていたなり。

「なんかあったの?木村?」

赤組さんは青組さんの方を見ずにつぶやいたなり。

「・・・・獅子座流星群」

「はぁ?」

「獅子座流星群見に行こうと思ってたんだよ・・・・」

「元気だねぇ、おまえって」

思わず青組さんは返していたなり。こんな収録が長々と続いているときに、わざわざそんなものを見に行こうとする赤組さんにに半ば本気で感心していたなり。

「おまえと見に行こうと思ってたの!!」

イライラと煙草の火を消しながら言う赤組さんに、青組さんは目を見開いたなり。

「え?」

「友達にさぁ、すっごくよく見えるはず、ってポイント教えて貰ったの!今日の収録、早めに終わらせて、ぜってー、中居と行こうと思っていたのに!!」

友達が赤組さんに

「たっくん!おとしたい彼女と行くなら、絶対ここ!!ここで星を見てそれで口説いて、失敗するなんてまずない、ってくらいにいいとこだから!!」

そう力説して教えてくれたそのポイントは、都心からかなり離れていて、この後の収録を終えてから出発したのでは、とうてい星など見られそうになかったなり。そんな絶好の場所に行く相手が、青組さんということにわずかばかりの寂しさを感じずにはいられなかった赤組さんだったなりが、それでも、それを楽しみにしていた赤組さんだったなり。

「ん・・・・でもさ」

青組さんも短くなった煙草の火を消して、赤組さんの方を向いたなり。

「どっちにしろ、今日は星見に行けなかったと思う」

「なんで?」

間髪入れずに赤組さんは問い返したなり。

「だって、おれ、今日自分で運転してないから、メガネ持ってきてねぇんだわ」

「メガネくらい・・・・」

そう言う赤組さんに青組さんは笑って見せたなり。

「目のいいヤツにはわかんねぇかなぁ。メガネなしで見る星空って言うのも、それなりには綺麗だけどな・・・・。でも、見える星の数が全体的に少ない感じなんだよなぁ」

「あっ!」

ふっと、何かを思いだした顔になった青組さんだったなり。

「何だよ、一体・・・・」

言いかけた赤組さんも思い出したなり。

「そういや、あの時初めてだったっけ、一緒にいったの」

二人は顔を見合わせたなり。あれはまだ・・・・。 

 

 

そこへ行くのは、最初は友達と一緒のはずだったなり。

「すっげー、綺麗な星が見えるんだぜ?一緒に行こう!」

って盛り上がって、宿の予約なんかしてみんなで楽しみにしていたなりに、何故かそれぞれに都合が悪くなり、結局その日行けそうなのは赤組さんのみ、と言うことになっていたなり。

「キャンセルかなぁ、やっぱ」

たった一人で出かけるなんて、さすがにそれは悲しすぎるなりから、赤組さんは残念な気持ちでつぶやいたなり。

その時、明るい茶色の頭が赤組さんの目に留まったのは、本当に偶然だったなり。

「なぁ、中居・・・・」

声をかけて、事情を説明してから、一緒に行ってみないかと、とりあえず誘ってみたなり。

「・・・・いいけど別に・・・・」

あくまでも、とりあえず、だったなりから、青組さんのそんな返事を聞いたとき、赤組さんは信じられない思いで青組さんを見ていたなり。青組さんはその頃からすでに、あまりアウトドアを好きではなかったからなり。だから、この時だってきっと青組さんは「都合が悪い」とか何とか言って断るだろうと、赤組さんは思っていたなり。

「いいの?」

我ながら間抜けだと思う赤組さんの問いに、青組さんは

「・・・・ちょうどオフだしさ、俺だって星が見たいときもあるって」

と静かに笑ってみせたなり。

 

その日になったなり。

赤組さんの車の助手席に青組さんを乗せて目的地へ向かったなり。何だかちょっと楽しくなって、赤組さんは色々と青組さんに話しかけていたなり。青組さんも、いつもだったら、そのまま居眠りをしているところなのに何故か機嫌よくそれに答えていたなり。話は最近の仕事の話に始まって、高校の頃の悪戯、それぞれの中学校や小学校の思い出話と、どんどん広がっていったなり。

「もうすぐ着くから」

「ん」

車はカーブを曲がり、そして目の前に半島の先の、海と空の広がった風景が現れたなり。思わず息を呑んだ青組さんに赤組さんは満足げな笑みを浮かべたなり。

 

「中居?」

 夕食後、その宿の自慢という露天風呂で二人であったまり、赤組さんは青組さんの部屋を訪ねたなり。部屋は、最初は和室の予定だったなりが、たった二人きりで広い和室もどうかということで、隣同士でシングルを二部屋に変えていたなり。

「星、見に行こう?」

赤組さんに誘われて青組さんは部屋から浴衣姿で出てきたなり。

「あぁ」

言いながら部屋を出ようとする青組さんに赤組さんは

「ダメだって!ちゃんと上、着なくちゃ!外寒いよ?」

と注意したなり。赤組さんのほうはといえば、きちんと浴衣と丹前で、青組さんの部屋にはいると丹前を取り出し、青組さんの肩から着せかけたなり。そして、どうも今ひとつあわせがうまくいっていない青組さんの浴衣の襟までついでに直してやったなり。

「寒くない?」

「寒くねぇよ」

赤組さんに訊かれて青組さんは首を振ったなり。

二人は非常口からそっと、外へでたなり。風はちょっと冷たかったけれど、温泉であったまった身体には、むしろ気持ちがいいように感じられたなり。

宿は近くには海くらいしかないようなところで、しかも今日はまだ三日月ですでに遠い山に沈んでしまった後だったなりから、灯りといえば、降るような星の灯りだけなり。ふと、どこかで聴いた星月夜という言葉を思い出させるような、そんな中に二人は立っていたなり。

「すっげぇな・・・・」

しばらくしてから、ようやく、という風に青組さんががつぶやいたなり。

「うん・・・・」

赤組さんもそれだけを口にしたなり。

「星ってこんなにあるんだ・・・・」

青組さんはそう言うとまた、何も言わずに星を見つめたなり。ふ、とその横顔を見つめて、赤組さんは言ったなり。

「中居、星座とかわかる?」

「星座?獅子座とか、蠍座とか、占いのヤツ?」

「それもまぁ、星座だけど・・・・」

赤組さんは空に指を伸ばしたなり。

「あのあたりに三つ並んだ星があるでしょ?」

「ん?うん」

「あれがね、オリオン座」

「うん・・・・」

「で」

今度はまた別の方向を見て

「Wの字みたいに並んだ五つの星、あれがカシオペア座。そして・・・・えーと、あの星とあの星を繋いだ先をのばして・・・・多分あれがポーラスター、北極星」

「すっげー、木村よく知ってんじゃん」

青組さんが赤組さんの顔と星空を何度も見比べながらそんな風に言うので、赤組さんはちょっとくすぐったいような気分になったなり。ほんとうはこのくらい、中学の理科で習った程度のこと、だったなりけど、それは言わずに説明を続けたなり。

「で、この星がたくさん集まっているあたり、こう繋がっているのが天の川で・・・・だから・・・・あそこが牡牛座。わかる?」

「ん・・・・と・・・・うん」

赤組さんの指の先を一心に追いかけて青組さんは頷いたなり。

「で、牡牛座の中に見えてる星の集まりが、プレアデス星団、つまりすばる、星の数が6個あるでしょ?」

「え?」

青組さんは首をかしげたなり。

「1、2、3・・・・そんなにねぇべ」

「うそ、ちゃんと6つあるよ」

「ねぇってば」

「あるよ、ちゃんと数えろって」

「ねぇもんっ!ありません!」

 言い争いになりかけて、はっと赤組さんが気付いたなり。

「中居って今めがねもコンタクトもなし?」

「めがね、かけてるように見えるか?」

「そりゃそーだけど・・・・そっか・・・・」

赤組さんはちょっと笑ったなり。

「今度さぁ、めがねかけて見てみて。多分星の数、違うから」

「そっか」

青組さんも気付いたなり。

「いっぺん、木村の見ている星、見てみてぇな。もっと綺麗なんだろうな」

「でも、いいじゃん」

赤組さんが悪戯っぽく言ったなり。

「なんで?」

「中居だったら、北斗七星の死兆星、絶対見えないから」

「なんだよ、それ」

「北斗七星には、8番目の星があるの。昔はそれで視力を調べてたくらい、見えにくいヤツ。きっと死兆星って、それだべ?」

「ふぅん」

青組さんは星から目を戻し、暗い海を見たなり。海からの風が、青組さんの半乾きの髪を揺らせたなり。

「ちょっと寒いけど、髪の毛乾くかも・・・・」

言いながら、わざわざ髪を風にさらそうとする青組さんの腕をとって、赤組さんはそっと引き寄せたなり。

「馬鹿、風邪ひくだろ?」

「でーじょーぶ、だって」

青組さんはそう言ったけれども、赤組さんの掴んだ腕は結構冷たくなっていて、ずいぶん長い間、外にいたことに気付かされたなり。

「も、戻ろうぜ」

青組さんの返事を待たずに赤組さんは部屋に向かったなり。青組さんも返事はしなかったけれど、赤組さんと肩を並べて歩き始めていたなり。

 

とりあえず二人は赤組さんの部屋に戻ったなり。

「うーっ、さみい・・・・」

部屋の暖かさが、逆にそれまでの間に身体が冷え切ってしまったことを気付かせてしまったようで、青組さんは自分の肩を抱くようにして部屋の中に入ったなり。外の暗さになれた目には部屋の中は眩しいほどで、青組さんは思わず目を閉じたなり。そんな青組さんを見て、赤組さんは小さく笑ったなり。

「ほら、み。大丈夫じゃないじゃん?」

青組さんは、

「でーじょうぶだってば!」

と言ったなりが、続けてくしゃみを二回したなり。赤組さんは慌てて、自分の着ていた丹前を脱ぐと青組さんに着せ掛けたなり。

「大丈夫って、おまえちょっと大げさだってば」

「馬鹿、おまえ、すぐ風邪ひくじゃん」

言った瞬間、赤組さんもくしゃみを繰り返したなり。

「誰が風邪ひきやすいって・・・・?」

青組さんがぽつりとつぶやき、二人は顔を見合わせると笑い出したなり。

 

 

そんな昔を懐かしんでいる二人に遠慮するようにドアがノックされたなり。

「ねぇ、そろそろ収録再開するって!!」

末っ子の声がドアの外から聞こえて、二人は意識を仕事モードに戻したなり。

「さぁ、もうひと頑張りするか!!」

青組さんが大きく伸びをしたなり。赤組さんも立ち上がると二人は並んで部屋を出たなり。その赤組さんの耳元に青組さんはそっと囁いたなり。

「早めに済ませて、近いとこでいいから、ちょっとだけ星見ようぜ?」

答える代わりに赤組さんは青組さんの頭をくしゃりとなでたなり。