「なぁ、ホテル見に行かねぇ?」
「はぁ?」
いきなりの赤組さんの提案に青組さんは驚いたように顔を上げていたなり。
「なんでホテル・・・・?」
「え?ホテル?」
驚いたのは赤組さんもだったなり。
「俺、ホテルなんて言った?」
疑問符を顔に貼り付けての赤組さんの質問に、青組さんは大きく頷いたなり。
「うっそ・・・・もちろんホテルじゃなくってさ・・・・ホタル見にいこ?」
「ホタル?」
「昨日ちょっと通りかかったとこなんだけど、もう、すっげーの!!そんなに遠くねぇのにあれだけいるとこって、なかなかねぇよ」
だからさ、行こ、行こ!!と、今にも手を引っ張って行かんばかりの赤組さんに青組さんは苦笑して、
「もちろん、運転はおまえね」
と言ったなり。
郊外に、ぽつりと何かから忘れ去られたように残された自然の一角だったなり。緑の木々と小さな水音、今夜の月は遅いのか、暗くてちょっと足下ははっきりしなかったなり。
「危ねぇから気をつけて」
赤組さんは、青組さんを支えるように手を差し伸べたなり。
「大丈夫だって」
青組さんは言ったなりが、足を滑らせそうになり、結局赤組さんに支えられていたなり。
ホタルは人間なんて怖くもなんともないのだと言わんばかりに、二人のすぐ側にまでやって来て、高く低くとんでいたなり。
すーっと光り、ふっと消え、またすーっと光り。青組さんが少し手を伸ばすと、その光は手に捕らえられたなり。力の加減をして、軽く握った指の隙間から涼しげな光が漏れていたなり。
ホタルの光は熱を持たず、だから握った青組さんの手も熱くはなかったなりが、けれどその手からは、熟れていないスイカのような青っぽい匂いがしていたなり。それはホタルの匂いだったなり。
その匂いに、何だか胸に「つんっ」と何かがわいてきて、青組さんはそっとその手のひらを開けたなり。ホタルは青組さんの手のひらで、何度か光ったり消えたりを繰り返していたなりが、ふいっと飛んでいってしまったなり。
「つかまえないの?」
赤組さんは尋ねたなり。
「明日になれば死んじまうのに?」
二人はそのまま黙ってホタルを見ていたなり。
並んでいる二人の前で、静かな光の軌跡を残しながら、ホタルは飛び続けていたなり。