映画を撮っている他の出演者より少し早く、青組さんはクランクアップを迎えたなり。胴上げをされて、宙に舞いながら、やっと、赤組さんに追い立てられるような日々を終えられるなりなぁ、と、別の意味でも感無量になった青組さんだったなり。
きっかけは、ある日の夜のことだったなり。
仕事を終えて夜遅くに帰ってきた青組さんを、赤組さんは玄関で迎えたなり。それは別に、特に変わったことではなかったなりが、何だかその日の赤組さんの様子はいつもと違っているように青組さんには思われたなり。今日は、せっかく休みだから、「スパイゲーム」をわざわざ見に行くと言っていたっけ・・・・?青組さんは赤組さんの予定を思い出していたなり。朝は、それをとても楽しそうに話していたくらいなりから、そこで何かあったんだろうか?青組さんは首をひねったなり。
「なぁ、映画撮るんだって?」
突然に赤組さんが口を開いたなり。
「予告編が流れてさ、おまえの名前見て、すっげー驚いた。メンバーみんな知ってんの?」
すねたような赤組さんの声に青組さんは納得したなり。
「いや、知ってるヤツも知らねぇヤツもいるけど?」
けれど、赤組さんはそれで納得はしなかったなり。
「でも、俺なんて一緒に住んでる位なのに・・・・」
「だからぁ」
青組さんは口を開いたなり。
「俺さ、前、模倣犯読んでたろ?そん時、おまえに、これ興味あるかって訊いたよなぁ?」
たっぷりと厚みのあるピンクとブルーの2冊のハードカバーが、赤組さんの脳裏に浮かんだなり。その時はまだ青組さんは上巻を読みかけで、その本にプラスして同じくらいの厚さの下巻まであるというのを聞いて、ほとんど即答の勢いで赤組さんは
「そんな厚さの本はコロコロで十分。俺は遠慮しとく」
と答えたのだったなり。
「だから、俺はもういいかな?って思ったんだけど?」
別に他意があっての言葉だったわけではなかったなりが、赤組さんはむっとした様子だったなり。
「わかった。だったら、もう何も教えてくれなくていいよ。俺も勝手に情報集めるし。・・・・でも、やっぱり一緒に住んでる者として、色々協力させてくれるよな?」
「協力?」
「とりあえず朝ご飯作らせて?」
と言うわけで、翌日から下宿屋の食卓には、栄養のバランスを考えた朝食が並ぶようになったなり。
「スケジュールがきつくなるのはどうしようもないから、せめてご飯くらいはちゃんとしなくちゃな」
そう言う赤組さんの言葉はもっともだったなりが・・・・。
たとえばある朝の献立。具だくさんのみそ汁と、ご飯と、海苔と、サラダと、ちょっとした和え物に焼きたてのアジの開きと、漬け物3種に、キウイとオレンジが皮まで綺麗に剥かれて皿に載っている。朝起き抜けには、ちょっと辛いかもしれない、バラエティに富んだ内容。それが、青組さんの睡眠時間なんて関係なく、毎日整えられ、青組さんはたたき起こされて食べさせられるのだったなり。
「頼むから・・・・昨夜眠ったのってすっげー遅かったんだし、メシよりも、眠らせてくんねぇ?」
「ダメだって!一日の基本は朝食から!!大体昨夜帰ってきたのってそんなに遅くなかったじゃん?」
「・・・・眠れなかった大原因が言うか?昨日眠れなかったのはおまえの責任だからな」
「何だよ、それ!」
「昨夜帰ってきた時は確かにすっげー疲れてて眠かったんだよ。で、リビングに行ったら、部屋の明かりも点けずに、コップについだワイン片手に金魚に」
「いくら」
「いくらちゃん相手になんか、俺が冷たいとか何とか、ぶつぶつ言ってるヤツがいるじゃん?眠気もぶっ飛ぶって。で、寝そびれて・・・・」
「でも、ちゃんと食べなきゃ、身体に悪いよ?」
「・・・・睡眠時間足りなかったせいで、食えねぇ」
「わかった・・・・」
そう言って、赤組さんが食卓に並んだ皿を下げはじめたのにほっとしたのもつかの間、
「何やってんだよ・・・・?」
「今食べられないなら、お弁当にするから、あっちで食べてね♪」
弁当って・・・・?日本一の男なのに・・・・・?、と青組さんは頭を抱えたなり。赤組さんのドラマの撮影は、もう少し後から始まるらしくて、赤組さんはスケジュールの空いた時間をフルに使って、「青組さんのため」という大義名分のもと、青組さんを構い倒したのだったなり。
「さて。そろそろあいつのドラマだよなぁ。しかも、ドラマってことは三ヶ月・・・・」
さすがに赤組さんほども空きがあるわけではなかったなりが、この撮影期間のお返しはきっちりしてやる、と心に誓う青組さんだったなり。