××下宿屋木村 日本一の男××

 

「やっぱここは、最初の流れの方が引き締まってるかなぁ?」

青組さんは呟きながらVTRを止めたなり。ふっと部屋の時計を見上げると、ちょうどすべての針が真上で重なるその瞬間だったなり。下宿屋の時計は、ついこの間こそ赤組さんが時報に合わせたばかりだったなりから、偶然だったなりが、それは日付が変わる瞬間だったなり。

「あ」

青組さんもそれに気付いたなり。

「俺、1歳、歳とっちまったんじゃねぇ、今?」

だからどうだと言うこともなかったなりが、けれどもその瞬間に気付いたというのは、ちょっと特別のことのような気がした青組さんだったなり。眠っていたとばかり思っていたボニータが、鼻を鳴らしながらやって来て、その鼻先を青組さんに擦りつけたなり。

「ん?ボニ、お祝いしてくれるわけ?」

ボニは「当たり前でしょう?」と言わんばかりにぱたぱたとしっぽを振って見せたなり。

「ありがと」

青組さんはそう言って、ボニの頭を撫でたなり。そんなボニの気持ちが嬉しかったなり。嬉しかったなりに、何かが足りないとも思っていたなり。

そして唐突に青組さんはそれに気付いたなり。

「それは・・・・ちょっと贅沢なんじゃねぇの・・・・?」

気付くと、その贅沢さに青組さんは言葉を失っていたなり。

物足りなさは、そこに赤組さんがいないからだったなり。仕事の関係もあったなりが、赤組さんはこの数年ずっと、青組さんがバースディを迎える瞬間に一緒にいたなり。そして誰よりも一番先に青組さんに

「ハッピバースディツーユー」

の言葉を告げていたなり。

「まさか、それがないからものたりねぇ気がするって・・・・ことか?」

どうせ今日はコンサートで、あと何時間かすれば嫌でもメンバーとは顔をつきあわせるなりに。まず最初に、日本一の男からのお祝いがなくては物足りないなんて、

「俺ってば、日本一の贅沢者?」

青組さんは思わず苦笑いしていたなり。

「あいつにも色々都合ってもんがあるってことくらい、わかってんのになぁ」

溜め息をついた青組さんの携帯が不意に鳴りだしたなり。

それは赤組さんからだったなり。

「ごめん、ぜってー間に合うと思ったのに、何か道が混んでてそっちに着くまであと10分くらいかかりそうだから。あ、おめでとう!今年もよろしく!」

言うだけ言って、切れてしまった携帯を青組さんはぼんやりと見つめていたなり。

「おめでとう、今年もよろしくって・・・・正月かよ?」

思わず笑いだしてしまったあとで、

「やっぱ、俺、日本一贅沢な男だよなぁ」

青組さんはボニータの首を抱えるようにして、その頭を撫でていたなり。