×× 下宿屋木村 寒い夜 ××

 

「じゃ、明日は午前中に雑誌の取材が入ってるんで、ちゃんと、朝起きてくださいね」

青組さんが軽く肩をすくめてうなずくと、マネージャーはもう一度念を押してから、車を発進させたなり。それをちょっとだけ見送り、青組さんはマンションのエントランスに向かったなり。時刻は日付が変わってから、ほぼ一時間と言うところ、ふと、見上げると部屋には灯りがついていて、今日は赤組さんの方が先に戻っているらしかったなり。

ふと見ると、路肩に寄せて1台の車が、止められていたなり。一瞬、週刊誌?と不安になった青組さんだったなりが、車の中は無人で、どうやらマンションの誰かのうちに遊びに来たものらしかったなり。フロントガラスは真っ白に凍り付いていて、

「うーっ、寒っ」

その白さが、ますます寒さを増すようで、青組さんは両手で頬を押さえたなり。

「もう、1年経つんだなぁ」

 

「もう、俺、帰るから!!」

力一杯ドアをたたきつけたかったなりが、作りのいいドアはバンッ!なんて音をたてたりしなかったなり。それさえ苛つきをますには充分だったなり。

久しぶりに赤組さんの部屋に遊びに来た青組さんだったなりが、理由すら忘れてしまうような些細なきっかけで、激しい言い争いになっていたなり。青組さんはそのままエレベーターに乗り込むと一階へと向かったなり。

「俺だって、確かに悪いんだろうけど!」

そう思ったって、その時は我慢ができなかったなり。

マンションのエントランスを出て、青組さんは路肩に止めて置いた自分の車に乗り込もうとしたなり。そして、そのままそこに凍り付いたなり。

「嘘だろぉ・・・・?」

その日は寒かったなり。深夜とも言えるこの時間帯ではフロントガラスも凍り付いてしまうほどに。

「どうするべ?」

青組さんは、ため息をついたなり。まさか赤組さんにお湯を借りになんて行けないなりし・・・・。もちろんこのまま走らせるなんて論外だったなり。

しばらく自動車のそばでフロントガラスを見つめていた青組さんだったなり。

そんな時マンションの自動ドアが開いたなり。赤組さんだったなり。赤組さんはお湯の入ったバケツと雑巾を持っていたなり。そして、お湯で雑巾を絞ると、黙ってフロントガラスを拭きはじめたなり。冷たい夜気の中、赤組さんは何度もそれを繰り返し、やがて、フロントガラスの霜は綺麗に取り除かれたなり。

青組さんはつぶやいたなり。

「なぁ、そんなに俺のこと帰したいの?」

「え?」

赤組さんの目が、驚いたように見開かれたなり。わかっていたことだったなりが、それを確認して青組さんは言ったなり。

「さっきはごめん、俺も悪かった」

ずっと赤組さんを見つめていたからか、さっきはどうしても言えなかったものが、言葉になったなり。

「うん、俺も言い過ぎた」

あの日はまさか1年後、同じ処へ帰るようになるとは、二人とも思ってもみなかったなり。

 

「帰ってきたって思ったのになかなか部屋に入ってこないで、おまえ一体何やってんの?」

マンションの自動ドアが開いて、赤組さんが出てきたなり。

「ほら、こんなに冷え切っちゃってるじゃん」

そう言う赤組さんに手を取られて、青組さんはマンションの中に入ったなり。