「なぁ、歌の練習しねぇ?」
「はぁ?」
久々に早めに仕事を終え、下宿屋のリビングで、クッションを抱えてのんびりとソファにもたれていた青組さんは、いきなりの赤組さんの提案に思わず上半身を起こしたなり。
「なんだよいきなり」
「ん」
赤組さんはギターのチューニングをしながら答えたなり。
「だっておまえ言ってたじゃん」
「なんて?」
「ちょっと歌い方変えてみようかって」
青組さんは驚いたように赤組さんを見つめたなり。
「・・・・おまえ、聴いてたの?」
「ちょうどさ、カーステつけたら、おまえがしゃべってた」
赤組さんの指先から優しいギターのメロディーが流れ出したなり。
二人は床にじかに座り込んだなり。
「急にじゃできねぇだろ?ちょっとやってみよ?」
赤組さんは笑って言ったなり。
「え・・・・でも」
青組さんは少し口ごもったなり。
「ネタだった訳じゃねぇだろ?」
赤組さんに言われて、青組さんは少しうつむいたなり。
「ネタじゃねぇけど・・・・でもいいのかなぁ。俺なんかがさ、そんなことしても・・・・」
「いいって。俺は聴きたいし」
だから、練習しよう?赤組さんは青組さんをうながして歌い始めたなり。
二人の声がリビングに静かに響きはじめたなり。
問題の青組さんのパートにさしかかり、青組さんは最初は普通通りに歌ったなり。
「変えねぇの?」
赤組さんに尋ねられて、青組さんは困ったように笑ったなり。
「いざとなったら・・・・難しいもんだなぁ」
「どう歌いたいの?」
「そうだなぁ・・・・」
それから二人は、幾度も繰り返し、歌い方を変えながら同じパートを歌い続けたなり。
やわらかいメロディーがリビングに流れ続け、ゆっくりとした穏やかな空気の中、ボニは小さくあくびをしたなり。
果たして、この後の機会に、歌い方を変えた青組さんの歌を聴くことが出来るなりか。それはその時までのお楽しみ、ということになりそうなり。