××下宿屋木村 野球少年の夢××

 

赤組さんが気付いたときには、青組さんの姿は楽屋から消えていたなり。スタッフに聞くと、タクシーを呼んで帰ったという話だったなり。

「ちっ」

思わず舌打ちした赤組さんだったなり。SMAP内の負けず嫌いと言えば、赤組さん青組さんの長男二人で、そんな負けん気の強い青組さんがどんな気持ちかなんて想像するまでもなかったなり。その青組さんが、わざわざタクシーを呼んで帰ったとなると・・・・

「あいつ、自分のマンションに帰ったな」

自分が行ったからと言ってどうなるものでもないし、鬱陶しがられるのは間違いないのに、どうしても放っておけない気がして、そんな自分に苦笑しながら、青組さんのマンションに向かった赤組さんだったなり。

 

部屋の前まで来た赤組さんは、とりあえず、インターフォンで青組さんを呼び出したなり。ちょっとめんどくさそうな返事が聞こえて、ドアが開き、青組さんが出てきたなり。

「何だよ?一体?」

「いや、・・・・どうしてるかと思って・・・・」

「どうしてるって?あ、何?心配かけちゃった?平気だって!沖縄観光もかねて、ばっちり楽しい罰ゲームを演出しちゃうし!!」

青組さんはにっこりと笑って見せたなり。けれども、そんな笑顔が逆に赤組さんには痛々しく見えたなり。

「そんな・・・・こんな時にまで、無理して笑うことねぇだろっ!」

そう言った赤組さんの襟元をつかんで、青組さんは睨みつけたなり。まるで、真剣の冴え冴えとした光を思わせる冷たい視線に、けれど、一瞬赤組さんは見惚れてしまっていたなり。

「じゃあ、なにか?俺が、“絶対負ける気なんかしなかった、最後まで絶対勝てると思ってた・・・・悔しい!”ってそう言って泣けば、てめえはそれで満足かよ?!」

低い声で、それだけを言うと、青組さんは手を離したなり。ほんの少しの沈黙の後で、

「・・・・わりぃ・・・・んなこと言ったって仕方ねぇのにな。・・・・もう判ったら帰れよ」

そう言って、青組さんは赤組さんに背を向けたなり。その背中に赤組さんは声をかけていたなり。

「・・・・なぁ、俺も今日ここに泊まってもいい?」

お節介だと思ったけれども、どうしても青組さん一人を置いて帰れない気がした赤組さんだったなり。青組さんは振り向くと、赤組さんをじっと見据えて、冷たく笑って言ったなり。

「俺、てめえに何するかわかんねぇよ?」

「いいよ・・・・それで中居の気が済むんだったら・・・・」

赤組さんも青組さんを静かに見つめ返したなり。やがて、青組さんは小さくため息をついたなり。

「なんかなぁ・・・・俺だけガキみたいじゃん・・・・。勝手にすれば?客じゃねぇんだから、泊まりの用意はしねぇよ」

そして、今度は振り返らずに部屋の奥へと向かったなり。

 

こたつの隅に自分の居場所を確保して、眠りについた赤組さんだったなり。

そして赤組さんは夢を見たなり。

試合に負けた小さな野球少年が、布団の中で丸くなって、声を殺して悔し泣きしていたなり。

「もう負けない!くそっ!明日になったら絶対平気なんだから。いつまでも引きずっててたまるかよ!おいら、負けねぇから!」

何度も何度も少年は自分に言い聞かせるかのように繰り返していたなり。

目を覚ました赤組さんは、暗闇の中、青組さんのベッドを見つめたなり。

泣いているのかなんて知らなかったなりが、そこにいるのは、赤組さんが夢で見た小さな野球少年だったなり。

野球少年に敬意を表して、今日のことはこれっきりにして、後は彼のために元気の出る、彼の好きなメニュー中心の朝食でも作ろうか?布団の中の丸い背中を見つめながら、そんなことを思った赤組さんだったなり。