DANDELION

 

「えっ?」

ロケといえば寒さとの闘いだったはずなのに、いつの間にか暖かくなっていた風に驚かされる。けれどもそれは、決して嫌な気分ではなかった。ドラマの収録でスタジオに籠もっていた間に、春はそこまでやって来ていた。いつの間にか春めいた風を吸い込むと、どこかに咲いた花の香りまで感じられた。

春の花は、どんな花もどこか優しい香りを持っている。

そんな気のする気持ちのいい午後だった。こんなことを言えばまた、マネージャーが嫌がるだろうことは知っているけれど、

「あ〜ぁ、休みが欲しいなぁ」

なんて呟いてみた。

多分、同じようなドラマの収録とぎっしりとつまったスケジュールに、季節なんて感じられずに日々を送っているだろうあいつにも、教えてやりたかった。もう春がそこまで来ていることを、春のようなのんびりとした時間の中で。

「まぁ、そんなこと言おうものなら、あいつにバカにされそうな気もするけど」

でも、1日くらいどうにかならないかな?

足元に小さく咲いた黄色い春の色彩に、そんなことを思う。

春の花の香り、どこかのんびりとした暖かな風、ぼんやりと霞んだ遠い風景。

一緒にいるともっとあったかいことも。

みんなみんなあいつに伝えたかった。