LION HEART

 

ドロシーは言いました。

「あなたって、ずうたいは大きいけど、けっきょく、ただのおくびょうものなんだわ」

「それはじぶんでもわかってる」

ライオンははずかしそうに言いました。

「ずっと前からよくわかっているんだ。だけどいったい、どうやってなおしたらいいのかな?」

「いっしょにエメラルドの都に行って、オズのまほうつかいにあいましょう」

ドロシーは言いました。

「そこに行けば、ぼくは勇敢な(lion hearted)心をもらえるのかな?」

「えぇ、きっと。行きましょう、エメラルドの都へ!」

 

 

いったい何度目になるんだろう?俺達はまたしてもケンカをした。

「どう考えても、あれはキミが悪い。さっさと謝っちゃえば?」

ギャラリーに言われるまでもなく、俺にだってわかっている。あの時、俺が言い過ぎたってことくらい。だけど、どうしても「ごめん」の一言がでてこない。もしもそんな風に謝っても、

「別にいいよ」

とあいつが冷たく俺を見て、そしてその無関心さで俺のことを拒絶したらどうしよう?って、そんなことが頭に片隅でちらちらしていて、どうしても俺はあいつに謝ることができずにいた。

 

「あーっ、目覚ましちゃった!」

そんな声にそちらへ目をやると、デジカメを持った慎吾と目があった。

「慎吾、おまえ・・・・」

言いかけた俺に、慎吾は唇に人差し指を当てて、「しーっ」と小さく声をかけた。そんな様子に俺もはっとする。俺の肩には小さなぬくもり。最近はずっと黒く染められているその髪が、そっと置かれている。

「だってさ、控え室に戻ってきたら二人してソファに腰掛けて、お互いもたれ掛かるようにして眠ってんじゃん。お兄ちゃん二人のそんなショットってまず、滅多にお目にかかれないでしょう?だから、写真にとっとこうって思ったのになぁ・・・・。何だかさぁ、二人とも天使の寝顔って感じで、まだまだSMAPいけるじゃん、って思っちゃったんだけどね」

そう言葉を続ける慎吾に、今度は俺の方から人差し指を唇に当てて

「しーっ」

慎吾も慌ててその口を押さえた。

静かに眠るその横顔をそっと見つめる。

 

それにしても、随分と懐かしい夢を見たな、と思った。

いつ頃の夢なのかなんて、そんなことはわからない。なぜなら、あんなことは俺達にはしょっちゅうだったから。いつもお互いを譲れずに、俺達はぶつかり合っていた。すぐに謝ればいいのに、謝ることがなかなかできずにいて・・・・。そう言えば、あの時も、結局俺は謝ることができたんだろうか?

あの頃は、お互い意地っ張りだったから、なかなか謝れずにいるのだと思っていた。

でも今になってふと思う。

臆病だったんだな、って。

あいつに許してもらえなかったら?あいつから切り捨てられてしまったら?

自分でも気付かなかったけれど、いつも心の隅っこにあったそんな気持ちが、俺の口を重くしていた。

それがいつからこうしていられるようになったのか、それもはっきりとはしないけれど。

今こうしていられるのは、本当に様々な要因が積み重なって生まれた奇跡なのかもしれないと思う。物語の臆病なライオンが勇敢な心を手に入れられたように、俺もなにかを手に入れて、いつの間にかあいつにきちんと向き合えるようになっていた。

何の夢を見ているんだろう?

あいつは静かに眠っている。

 

眠った横顔 震えるこの胸 Lion Heart ・・・・

 

 

 

オズのまほうつかいは、ライオンに言いました。

「あんたは、ゆうかんな心をもっている。つまり、ひつようなのは自信だけなんだ。きけんに出あっておそろしいと思わないものはいない。だが、ほんとうにゆうかんなのは、おそろしいと思いながらも、きけんにぶつかっていくことなんだ。そういうゆうかんな心なら、今でもちゃんともっているはずじゃないか」