RUNAWAY
「行けるとこまで行こうぜ」
あいつが言って、俺がうなずいた。
二人っきり、誰も二人のことなんて知らないところへ行きたくて。
別に何に不満があるという訳じゃないのに
二人、日常から逃げ出した。
久々にあがりが一緒だった。目の前に車のキーをちらつかされて、
「一緒に帰んねぇ?」
と誘われた。特にその後の予定もなかったし、ありがたく申し出を受けた。
のぼったばかりの月が綺麗な夜だった。
「月・・・・綺麗だな」
助手席で呟いたら、横顔がうなずいた。
「ちょっと寄り道しようか?」
「何処に?」
「月」
わかんねぇ、ってきっと顔に出てたんだろう、笑って答えられる。
「月に向かって行けるとこまで行こうぜ」
あまりに月が綺麗だったから、らしくもなく、俺はそんなロマンティックな提案にうなずいていた。
「行けるとこまで行こうぜ」
そういえば、昔もそんな話をしたことがあった。
それはようやく、グループとしての仕事が入り始めた頃のこと。
屋外での収録を終えて、自由になった俺たちは、駅で不意に帰り道の切符を買う手を止めた。
「行けるとこまで行こうぜ」
そういいだしたのがどちらだったのかは、今となってはもう、覚えていない。
行き先も見ずに手近なホームの電車に乗った。
幾度と無く電車を乗り継いで、夜も更ける頃、全く知らない駅にたどり着いた。
そこは小さな無人駅で、俺たちは駅の隅っこのベンチで勝手に夜露を避けさせてもらって、身体を寄せ合うようにして夜明けを待った。何だか二人とも、おかしな位わくわくしていた。
夜明けが来て、山の際を染めた光の線の明るさに、俺たちは言葉を失った。
その日の仕事は「偶然」にも昼過ぎからで、俺たちは結局学校だけを無断欠席して、仕事には間に合うように東京に戻っていた。
あの時のことは、その後、お互い一度も口にはしなかったけれど。
月へ向かう道はまだずっと先にまで続いていた。
俺はあの時によく似たどきどきを感じながら、シートにもたれた。
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