「眠れねぇの?」 あいつが訊いた。 「そりゃ、おまえだろ?」 知ってんだぜ?さっきから何度も寝返りばっかりうってたこと。 ・・・・まぁ、俺だって人のことは言えないけどさ。
俺たちは二人してホテルの部屋を抜け出した。 非常口の確認なんて、冗談にもならない冗談を言って、非常ドアを開ける。真っ暗な中、非常階段がひっそりとそこにはあった。 「どっち行く?」 あいつが、上と下を指し示す。 「じゃ、上?」 どうせ下に下りたって、ホテルを抜け出したり出来ないんだし。俺はちょっと顎を上げた。 まるで、走るようにして階段を上っていく。時々、先輩たちの物まねなんかしながら、笑って上った。泊まっていた部屋は最上階に近い階だったから、すぐに俺たちは行き止まってしまう。目の前には一枚のドア。 「開くのかな?」 試しにノブを廻したら、あっさり過ぎるほど簡単にドアは外へと開け放たれた。
従業員が出入りしているのか、そこはフェンスなんかもきちんとしている屋上で、俺たちはフェンスのすぐそばまで走っていった。 「すっげー」 思わず声が重なっていた。ホテルは、この地方都市の繁華街とも言える場所に建っていたから、足下には、街の光が明るかった。
普通、こういうのを見たときには、「地上の星」とか、「宝石箱をひっくり返したような」とか、言うものなんだろうけれど。俺が思いだしたのは、まったく別のものだった。 ペンライト。 コンサート会場の真っ暗な客席で、ファンの女の子たちが振っていた小さな灯りの集まり。それに、街の灯りは何だかとっても似ている気がしたんだ。先輩たちの後ろで踊りながら、いつも憧れていた灯り。まだ、それは俺たちのためのものではなかったから。
「似てるよなぁ」 って言ったら、あいつは「何に?」なんて訊きもせずに 「うん」 って答えてた。わかってんのかな?・・・・わかってんだろうけど。だって、灯りを見ているあいつの顔ってば、俺と同じ顔になってるもん。 「いつか俺たちも、こんなの欲しいよな」 あいつが、ぽつりと言った。 ほら。 やっぱり同じだ。 俺たちはフェンスぎりぎりまで近づいて街の灯りをのぞいた。 そうして、何も言わずにずっと見ていた。いつの間にか手を繋いで、その手をぎゅっと握りしめていたけれど。
いつか手に入れられるのかな?俺たちのためのペンライトの光の海。 そん時、隣にはやっぱりこいつはいるのかな? 何年か先、こいつとこうして肩を並べてペンライトの波に向かって手を振ることが出来たら・・・・。
何もかも今は俺の勝手な夢に過ぎなかったけれど。
|