月は東に日は西に

 その日が「仲秋の名月」だと知ったのは、まさしく、ほんの偶然というヤツだった。けれどもそれがコンサートの、しかも屋外スタジアムの当日だったりすれば、偶然って言うのもなかなかいいもんじゃないか、なんて気分になってくる。別に月に深い思い入れがある訳でも、あるいは月に体調を左右されるという訳でもなかったけれども。

 そんな折に、ふと頭を掠めた「月は東に日は西に」という言葉に中居はしばし思考を囚われた。最初に何かもう少しくっついていた気がする。一体何だったろう?けれど、そういうときに限って、それはなかなか思い出せないものだ。もどかしい気持ちで、中居はコンサートの時を迎えた。

 曇り気味だった空はコンサートが始まる頃には完全に曇り空になっていて、月の光は会場には届かなかった。

 それを中居はちょっとだけ残念に思う。コンサートの間のほんの一瞬でよかった。ステージ上はもちろん、ファンの子たちの持つペンライトも消してもらって、月の光だけに照らされてみたいな、なんて思ったから。

 そんなの俺には似合わないってことかね。

苦笑いして、何故だか不意に思い出した。

 菜の花や、だ。

 随分と時季外れの俳句じゃないか。それもまた、今夜の顛末には似合いなような気がして。そんな中居に

「せっかくの名月だってのにさぁ」

と残念そうに言うメンバー1のロマンティストの声が聞こえてきて、意外と同じこと考えてたりするもんだなぁ、なんて、もう一度中居は苦笑いを浮かべていた。