星月夜

星月夜

　

　月のない夜には、いったい何処にこんなに？ってほどの星が見える。って言っても、こんな街中じゃ無理だけどね。

　

　突然無言で腕を引っ張られて、セットの隅に連れて行かれた。

「んだよ、急に」

顔なんて見なくても、腕を掴む手のひらの感じで誰だかわかる。それだけ長い間一緒にいたってことなんだなぁ、なんて、関係ないことがちらりと頭をよぎる。

「おまえさぁ、いつから？」

日本一の男前の顔を少しだけ歪めて、あいつが問う。相手が自分の言ってること、わかってるだろうって思って言葉を省略するのって、それってよくないクセだぞ？そう思うけれど、結局あいつの言いたいことはわかってたから、素直にそれに答えた。まぁ、いろいろつっこめる程の元気が、今の俺にはなかったってこともあるけどさ。

「ん････、今朝からかなぁ？でも、そんなにひどくねぇと思うけど････」

そう言う俺の返事なんて、聞いているのかいないのか、そのまま腕をとっているのとは反対の手のひらを俺の額に当てる。

「かなり熱いじゃん。ちゃんと薬は飲んだ？」

「飲んだよ、朝とさっき弁当食った時と」

これは自己管理のうちだし、ちゃんと病院でもらった薬を飲んだってそう言うと、ちょっとだけホッとした顔をして、

「無理すんなよ」

なんて、そう呟く。

「大丈夫、そんな無理はしてねぇから」

「いっつも言ってるけど、こういう時くらい、寄っかかってくれてもいいんじゃない？」

　本当に根っからの長男体質というか、拗ねたような口調でそんなことを言い出すあいつが、なんだか微笑ましく思えたりして。そういや、こういうとこ、こいつは本当に昔っからまったく変わんないんだなぁ、なんて思ったり。

　だけど、昔はそれが許せなかったんだよな。そんな、自分が守られる存在みたいなのが許せなかった。だからよくそれがもとで派手にケンカしたりもしたっけ。

「じゃ、お言葉に甘えて」

　そう言って、横に並んであいつの肩に寄りかかってやったら、あいつは一瞬びっくりした顔をして、そして本当に優しい顔で笑って見せた。そんな上二人の様子に周りが驚いている気配も伝わってきたけれど。何だかとっても気持ちよかったから、俺は撮影が始まるまでそのままでいて、あいつはずっとそれを許していた。　

　

　あぁ、確かにあの頃とは、ずいぶん違っているかもしれない。ふと、そんなことを思う。

　誰かに寄りかかってもまた、ちゃんと歩き出せるだけの強さを俺たちは手に入れているから。

　

　今夜は朔の月。ここからは見えなくてもきっと空には満天の星。