たっくんとひろちゃん番外編

   王様 ドッヂボール

 

 王様ドッヂって知ってる?

 ルールが、ちょっとだけ普通のドッヂボールとは違うんだ。

 それぞれのチームで王様を決めて、最初に審判にそっと教えておく。(相手のチームには内緒にするんだよ?)それから、普通にゲームを始める。王様が当たっちゃったら、どんなにたくさん内野に人が残っていても、そこまで。王様を当てられちゃったチームの負けだよ。

 相手に王様が誰かわからないように、みんなで王様を守って。

 さぁ、王様ドッヂを始めよう!

 

「先生」

 たっくんが言いました。ひろちゃんも横に神妙な顔をして立っています。

「どうしたの?」

先生は聞きました。

「俺とひろちゃんと、たまには一緒のチームにしてください」

「そうねぇ」

先生はちょっと考えました。

「先生」

ひろちゃんも言いました。

「俺たち、小学校に入ってから、ずっと同じチームになったこと無いんです。一度くらい、一緒のチームになりたいです」

 たっくんもひろちゃんも体育が大好きで、得意でした。誰よりも走るのも速かったし、ボールだってとっても上手に投げられました。だからでしょうか?小学校に入ってから、体育の時間、いつも二人は別々のチームになるのでした。

 もちろん、別々のチームでも体育のゲームは楽しいです。ドッヂボールだって、フットベースボールだって、絶対に負けないぞ!!って思ってやると、1時間があっという間です。

 だけど。

 やっぱりたまには、同じチームになりたいのです。一緒に作戦を立てて、一緒の気持ちでゲームをしたいのです。

「そうねぇ」

 しばらく考えてから、先生は言いました。

「いいでしょう。たまには二人一緒のチームにもなりたいわよねぇ」

 

「今日は、王様ドッヂをします」

 先生が言いました。そして、王様ドッヂの説明をしました。

 たっくんとひろちゃんは赤組でした。

「それじゃあ、外野を3人と王様を決めて下さい。王様は、絶対に相手チームにはわからないようにすること。王様が決まったら、先生にだけ教えに来てください」

赤組と白組は体育館の端と端に別れて相談を始めました。赤組の王様は、ひろちゃんに決まりました。たっくんが、先生に報告しました。

「ぜってー、勝つぞ!!」

「ったりめぇだろ?」

二人は顔を見合わせてにっこりと笑いました。

「試合を始めます!!」

 ジャンプボールをして、試合開始です。ジャンプボールにはたっくんが出ました。

 ピッ!

 笛の音と同時に先生が真上にボールを投げ上げました。白組の美加ちゃんよりもたっくんのジャンプの方が高くって、たっくんがボールを叩き落としました。たっくんが落としたボールは、ちょうどひろちゃんのところに届きました。ひろちゃんがボールを投げました。ボールはすごいスピードで、白の陣地に飛んでいきました。

 

 当たったり当てられたり、取ったり取られたり、それを繰り返しているうちにひろちゃんの周りから人が少なくなってきました。

「あっ、やばっ!」

たっくんが、ボールを取ろうとして、手を滑らせました。

「何だぁ!赤の王様って、ひろちゃんかぁ!」

涼くんが言いました。赤組にはもうひろちゃんしか残っていないのです。大ピンチでした。

 最後の一人になったひろちゃんを狙ってボールが投げられます。

「ひろちゃん、取らなきゃ!!」

って、たっくんが言うけれど、ここで当てられたら負けだから、どうしてもひろちゃんも慎重になってしまいます。逃げ回っているうちにだんだん息があがってきました。

「そろそろかな?」

白からそんな声が聞こえます。

「くそっ!」

 ひろちゃんは、ようやくボールを取りました。ボールを外野にまわします。外野が当てなくちゃ、内野に入れないからです。たっくんはすぐに白組に当てました。だけど、王様じゃなかったみたいです。先生は何も言ってくれませんでした。たっくんが内野に入りました。

「ぜってぇ、守ってやるからな」

 たっくんが言いました。普通のドッヂボールなら、内野が二人になれば、たっくんも狙われますが、もう白組に、ひろちゃんが王様だとばれています。この後も、狙われるのはひろちゃんなのは間違いありません。

「俺の命に代えても、おまえは守る」

たっくんはきっぱりと言いました。

 たっくんのその言葉を聞いて、ひろちゃんはちょっと嬉しくなりました。今までは絶対にそんなことはなかったのです。たっくんに

「絶対当ててやる!」

と言われたことはこれまでも、何度もあったけれど、

「守ってやる」

と言われたのは初めてでした。そんなことを言われると、

「やっぱり同じチームなんだなぁ」

って、今さらだけれども、実感が湧いてきます。

「なぁ、白の王様って誰だと思う?」

 ひろちゃんはボールを投げながら言いました。

「綾美か、龍太!」

たっくんが、さっと、白の内野の顔を見て答えます。

「綾美の確率の方がちょっと高い」

「あ、おまえもやっぱそう思ってるんだ?」

「あったりめぇだろ、白のやつら綾美の周りに固まりすぎ。でも、龍太は取るの上手いし、綾美と見せかけて、龍太かもしれない」

「・・・・でも、やっぱ、綾美だろ?」

そういってひろちゃんは綾美ちゃんめがけて、ボールを投げました。綾美ちゃんのそばにいた龍くんがバシイッと音をたてて取ります。そして、そのまま龍くんはひろちゃんめがけて投げました。

 ひろちゃんの前にたっくんが出て、そのボールを取りました。

「何で、おまえが取んの?」

「だって、この隙に休んどけって。おまえすっげー疲れてるもん」

「何心配してんだよ?」

ひろちゃんは苦笑いをしました。

「だって、俺ら勝ちてぇじゃん!」

たっくんは言いました。

「負けるわけねぇよ!」

ひろちゃんは、ちょっと息が苦しかったけど、にっこりと笑いました。

 

 だけど、勝負はあっけなくつきました。

 やっぱり、ひろちゃんは集中攻撃が仕掛けられました。たっくんも頑張ってボールを取ったのですが、疲れてしまったひろちゃんが、一瞬バランスを崩したときにボールに当たってしまったのでした。

 ピピーッ!

 笛が鳴って試合終了です。

 

 でも。

「楽しかったな」

「すっげー、楽しかった」

たっくんもひろちゃんも今日のことは絶対忘れないと思いました。