ハードボイルド未満

 

 

恨みがましい目で見られたって、手伝いたくないものは手伝いたくなんてない。

「だって、お前の持ってきた話って、手伝ってたら、いつだってそれだけじゃすまなくなるじゃん。こんな仕事をしてるけどな、俺は平穏無事な生活を望んでるの」

そう言ってため息をつく中居に、木村は

「まぁね、何だろうなぁ、名探偵の証?やっぱり名探偵のところに事件っていうのはやって来ちゃうんだよなぁ」

とおどけた後で、

「っていうのは冗談だけど。あのな、俺に言わせてもらえば事件を呼んでるのは中居の方だと思うぜ?」

と否定してきた。

「はぁ?」

「だってさ、俺一人で事件に取り組んでる時って、例えば遺産相続のための調査とか、下手すると事件に結びつきそうな内容だったとしても、全然っ!まーーーーーーーーったく、事件に結びついたりとかしねぇもん。だけど、中居に手伝ってもらうと、それこそさっきの話じゃねぇけど、迷子の猫を探していたはずなのにその家の何代か前の当主が関わっていた殺人事件だとか、そういうのに行き当たっちゃうんだよなぁ。だから、それだけじゃすまなくなるのって、絶対に俺の責任じゃねぇから」

「だったら、俺を巻き込まないでくれ」

間違いなくそれは偶然だろうと中居は思う。そんな人を事件を呼び寄せる存在みたいに言われるだけでも大迷惑だ。けれども、中居が木村の事務所の手伝いをすると事件に巻き込まれる確率が上がる、それが統計的に見て事実なのだとしたら、尚更手伝いなんてしたくない。

「お前だって、単純な仕事ですんだ方がいいだろっ?」

中居は言ったけれども、木村は首を縦には振らなかった。

「そりゃさ、猫探してて人骨発見するなんてことは、一生のうちに何度も経験したくはないし、俺も中居と同じで出来れば平穏な人生を送りたいって思ってるよ?だけど!!」

木村は声を強めた。

「それでも、今人手が欲しいのは事実で、これは譲れないんだから、仕方ねぇじゃんっ!!」

「だったら、アルバイトでもパートでも雇えばいいだろう?」

「あのさぁ、うちみたいな万年貧乏探偵事務所にそんなアルバイトとか、パートとかを雇えるだけの余裕があると思う?」

「なきゃ作れよ」

「作れねぇから、中居のとこに頼みに来てるんじゃねぇの・・・・」

中居はもう一度ため息をついた。

「なぁ・・・・」

「んっ?何?」

もう、こうなったらさっさと大元を片付けてしまうに限る。ここで、何とか片付けば、いくらなんでも人骨も、持ち主不明の大金入りバッグも、何も出てきたりはしないだろう。中居は、半ば諦めにも似た気持ちで口を開いた。

「まぁ、テストの作成者については、校長も知らねぇことがあるかもしれないし、もしかしたらまたいろいろ調べなくちゃなんないかもしれねぇけど、ひとつ訊いていい?」

「何?」

「今回のテストで、数Tとリーダー、何故か成績が前回と比べて下がっちまったヤツっていなかったの?」

「えっ?どういうこと?」

「まぁ、今ちょっと思いついたことなんで、俺もこうだとは言えねぇんだけど。例えば・・・・例えばだけどな、テストをとったって言うのが学校とか、テストを作った先生への嫌がらせとかじゃなかったら、他にどんな理由があるかって考えたんだけど・・・・」

「で・・・・?」

中居の言葉に木村は全身を乗り出すようにしてきた。

「一番考えられるのって、テストだし、カンニング・・・・じゃなくって問題の漏洩ってことかなぁ?って思ったんだ」

そう言われて、木村は肩を落とした。

「そりゃねぇだろ?だって、盗った問題と同じ問題が出る確率なんてかなり低いだろ?大体問題がなくなったりしたら、逆に同じ問題にならないように気をつけたりするんじゃねぇの?」

「だろうな」

そう言われても、中居は対して困った様子もなく言葉を続けた。

「だから、木村に訊いてるんだよ、前回と比べて、数T、リーダーの成績が下がったヤツはいねぇかって」

100000人突破記念に続く・・・・