未来予想図
久しぶりに会った友人たちと盛り上がった帰り、カーステから流れてきた声に、運転していた友人は、「どうする?」とばかりに視線を向けてきた。芸能界とはほとんど縁のない彼は、こういう時メンバーの声を聴くのを木村がどう思うのか?と少々気になったらしい。 「あ、いいよ。そのままで」 別にわざわざ聞きたいとは思わないけれど、逆にわざわざ別の番組に変えるほどでもない。木村にしてみれば、そんな感じ。むしろこういうところで聴く彼の声は、仕事中だから当たり前と言えば当たり前だけれど、いつもとは違っていて、何だか新鮮な気さえして、少しだけ興味をひかれていた。 ラジオは木村と中居の二人が通った高校が閉校になると言う、そのハガキに対する返事から始まった。それは、その放送より少し前に木村自身もラジオでコメントしていたものだったから、ますます気になって木村はカーステの声に意識を向けていた。 「ま、さ〜みしくはないねぇ・・・・。そんなにへこまないねぇ。あーそうなんだぁって」 中居のそんなコメントは、もちろんラジオ用のものかもしれなかったけれど、幾分木村を落ち込ませるものだった。木村はと言うと、その事実を知った時にかなりへこんだものだったから。その高校には木村と中居の想い出もいっぱいつまっていて・・・・そう思っていたのは、自分だけかもしれないと、そう思うとますます面白くない気がして、木村は思わず溜め息をついていた。その後の放送は全く違う話題に移っていたから、幾らか浮上することもできたのだったけれど。
その日の仕事は思ったよりも早く終わり、そういえば閉校になってしまった高校が、ここからそんなに遠くはないところにあったことに木村は気付いた。マネージャーと別れて、木村は久々に仕事場に乗り付けてきたオートバイに跨った。 二輪は交通事情など関係ないようにスムーズに進み、こんなに簡単に行けるんだったら、閉校する前にも行っとけばよかったなどと、そんなことを思いながら木村は運転を続けた。しっかりと閉じられた校門が見えてくる。そして、そのすぐそばに誰かが立っているのに木村は気付いた。これじゃあ、学校のそばで降りるのはやめた方がいいかなぁ?そんなことを思った次の瞬間、木村の視力はそれが中居であることを捉えていた。 少々わざとらしいくらいに大きめの音をたてて、木村は中居のすぐそばにオートバイを止めた。 「何だよ・・・・木村かよ?」 中居も一瞬驚いた様子をしたが、相手が木村だとわかるとそんな風な口をきく。 「久しぶりに行ってみたいなとか、なんか思い出の高校をちょっと覗いてみようかとか全然ないんじゃねかったの?」 少しだけラジオの口調を真似て木村が言うと中居は目を丸くした。 「・・・・なんだよ、おまえあれ聴いてたの?」 ひっまな奴ー!などと失礼なことを言いながら、 「だけど、俺は別にわざわざここ見に来たわけじゃねぇよ?ちょっとこっちについでがあったから・・・・」 そんな風に言葉を続けた。はたしてそれが本当かどうかはわからなかったけれど、それでも一緒にこの高校に通った中居と、ここで出会えたのは、何か少しだけ運命の悪戯のようにも感じられる。木村は中居のラジオを聴いてからずっと胸の中に沈んでいた澱のようなものがすっと消えていくのを感じていた。 「なぁ、校門越えて中入ってみる?」 木村のそんな提案に、 「ばぁか。閉校したって警備は入ってんだろ?下手したら不法侵入で捕まるぞ?」 中居はあくまでも冷静だったけれど、閉じられた校門越しに校舎へとずっと視線を向けていた。 「何、見てんの?」 「いや・・・・あの窓。あそこから、一緒に抜け出したことあったなぁって、なんか思い出して・・・・」 「そういや、あったなそういうことも」 そんな言葉で、色々な想い出が堰を切ったように溢れる。 「あの時、おまえ覚えてる?」 そうやってお互いに言い出せば、意外と色々な想い出が残っていて、それが相手の言葉でまた新たに思い出され、気がつけば二人して結構長い時間、道ばたでずっと話し込んでしまっていた。 日が落ち始めるのにようやく時間に気付き、 「なぁ、中居このあとよかったの?」 木村はふと心配になって、尋ねた。 「うっそ、もうこんな時間かよ?」 中居も腕時計を覗き、驚いたように声を上げる。 「まぁ、俺もあとは家に帰るだけだったんだけど・・・・」 「歩き?」 頷いた中居に木村はヘルメットを渡した。 「だったら、送ってやる。後ろ乗れば?」 「え?・・・・悪ぃな」 一瞬中居は何かを考えた様子だったが、だんだんと暗くなっていく空を見て、そのままオートバイの後ろに跨る。 ふと、ちょっと前のスマスマの収録を思い出して木村は声をかけた。 「なぁ、ヘルメット五回ぶつけてみる?」 「はぁ?何で俺が“愛してる”ってやらなきゃなんねぇの?」 すぐさま返ってきた声に木村は、笑いがこみ上げてくるのを感じていた。 「やっぱ知ってんじゃん・・・・」 「え?」 「それも、Uじゃない方だし。・・・・絶対中居は知ってると思ったんだよなぁ」 それで中居にも、木村がスマスマで「未来予想図U」を歌った時のトークのことを言っているのだとわかる。 「知ってるのと、やっちゃうのはやっぱ違うべ?」 そうしらっと言い切って、けれど中居はその時歌った歌詞を思い出していた。 卒業してからもう幾度春を数えただろう? 未来予想図が、思った通りに叶えられていくと思えるには、もうずいぶんと年を重ねてしまったような気もするけれど。 「なぁ、中居?」 黙り込んでしまった中居を気にして木村が声をかけてきて、 「“あ・り・が・と・う”の言葉のかわり」 と、中居は誤魔化すように5回ヘルメットをぶつけた。 |