月ひとしずく

 

梅雨の合間にしては珍しく、肌に触れる空気はさっぱりとしていた。

スマスマの収録のほんの短い休憩時間。中居は疲れた頭の中をはっきりとさせたくって、独り屋上へと出た。あとワンコーナーを残すのみとはいえ、世間ではもう決して早くない時間で・・・・今夜もまた帰りは遅くなりそうだなぁ、とちょっとだけ苦笑する。

中天に涼やかにほぼ丸く満ちた月。

屋上へのドアの開く音に中居はちら、とそちらに目をやった。

遠くて、姿もまだはっきりとは見えないけれど、誰かがこちらへ歩いてきていた。

「何だよ、てめぇも来たの?」

「わるかったな」

木村は苦笑いして中居の横に並んだ。

「何してんの?」

「なんにも」

答えて、中居はポケットから煙草を取り出すと口にくわえた。木村も煙草を取り出そうとしたけれど、それが空っぽなのに気付いて、もう一度ポケットにしまった。

「だっせーの!」

そう言いはしたものの、中居は木村に自分の煙草の箱を差し出してやった。

「中居の煙草?おまえのって不味いんだよなぁ」

「だったらやんねぇよ?」

「・・・・すみません」

謝って木村も煙草を1本口にした。

「あれ?」

火を点けようとして、中居のライターは何度か火花を散らしたけれど、つかなかった。

「何だよガス切れかよ?」

そう言う中居に今度はにっこりと笑って木村がライターの火を差し出した。

「いる?」

何も言わずに中居はライターの火に顔を近づけた。

二人で一つの火から煙草に火を点けて、そして、まるでそろえたかのようにそれを吸い込んだ。

吐き出した煙を目で追いながら、今度は中居が訊いていた。

「何しに来たんだ?」

「・・・・たまには月でも浴びなきゃな」

「なんだよ、それ!」

笑って、ふと見上げると青白く玲瓏な月。

「月・・・・綺麗だよなー」

ふたり、それを言葉のないままに見つめ続けた。

 

月はくっきりと二人の影を屋上に縫いつけていた。

 

やがて時間が来て、二人は屋上をあとにした。

「なぁ、もう平気?」

木村がぽつりと呟いた。

「何だよ、俺があんなNG、いつまでも気にすると思ったの?」

そうは言ったものの、中居は少し困ったような顔で木村の視界から顔を背けた。