「おかえりなさい」

 今年はアテネの特番なんかが入ったりしたけれども、それでもこれまでの年に比べたら随分楽だと中居は思う。だけど、それでもこんな深夜になって家に帰らなくてはならないような仕事が続くと、ふと妙な倦怠感に襲われそうになる。

「何か疲れたなぁ」

口に出したところで、それが軽くなると言うわけではなかったけれど、思わずと言っていいほど自然に声が零れていた。

 だから、こんな時に見上げた部屋の明かりがほんのりとオレンジ色をしていたりすると、ただそれだけで何だかぎゅっと胸を絞られるような、切ない気分になってしまうのも仕方がないような気がする。

「ただいま」

ドアを開けて、掠れた声で奥に声をかけると、

「ナイスタイミング。飯、温かいよ?」

柔らかな声が帰ってきた。

 ゆっくりと玄関に迎えに出てきた木村は、やっぱり柔らかに笑っていて。中居の好きな、だけどこの時間に食べるのにふさわしいあっさりとした献立をちょっと悪戯っ子の顔をして告げるのだ。

「何か・・・・新婚さんみてぇ・・・・」

中居が思わず口にしてしまった感慨は、自分たちの関係や、そして同じ部屋に「帰る」ようになってからの時間を考えれば、全くの的はずれもいいところだったけれど、逆にそう改めて考えれば、それ以上に木村はすごいと言うことになってしまう。

「おまえ、ほんとマメだね」

 感心半分、そうつぶやいた中居の声に木村はまたふわりと笑った。

「だってさ。大事な人が疲れて帰ってきたときに、自分に時間があったら、何かしてあげたいってそう思わねぇ?そして、そん時、ちょっとでもその人が嬉しそうな顔してくれたらさ。やっぱ、それってぜってぇ幸せなんだと思うし」

そう言うことを照れたりせずに言える辺りも、やっぱり「木村はすごい」と思わせる一因だったりするのだったけれど。

 何だか木村の笑顔が染ったように中居もふわりと微笑んでいた。それを幸せそうに受け取って。

「あ、まだ言ってなかったわ。・・・・お帰りなさい」