潮 騒 〜しおさい〜

  

「なぁ、いつまでも一緒に走ってこうぜ?」

 

 久しぶりにオフが重なった。

もうすぐ木村も中居もドラマの収録に入るし、多分この後は何ヶ月も重なりっこないオフ。そう思うと、普通のものでしかないそのオフ自体が、何だか非常に貴重なものに思えてくる。

 

 いつもみたいに部屋の中でゆっくりとして、一日を過ごす、それだけでいいのかな?

少しだけそんな気分にもなっていた。

 オフの少し前のスマスマの収録日。木村が

「なぁ、ドライブ行かねぇ?」

そう中居を誘ったのも、そんな理由があったからだった。そして、

「ドライブ?いいけど・・・・どこ行くの?」

そんな風に中居が二つ返事でそれにのったのも。

「やっぱ、海かなぁ?」

「海??これからますます寒くなるってのに海?おまえ相変わらず、海好きだよなぁ」

中居が言いながら首を振る。

「海、いや?」

「別に・・・・まぁ久しぶりだし、いっか」

 そんな風にして、オフの予定は海へとドライブ、に決定した。

 

 少しだけ文句を言っては見たものの、海辺の町育ちの中居にとっても海の空気は特別で。余り人気のない砂浜で、ボニと一緒にはしゃいでいるのを、木村は苦笑しながら車のそばで見つめる。

「誰だよ、あんまり乗り気じゃないようなこと言ってたの・・・・」

「木村、来ねぇの?」

そう言って振り向いた中居の足下にボニがじゃれつき、バランスを崩した中居がしりもちをつく。

「だっせー」

笑いながら、木村も砂浜へと降りていった。

 天気は残念ながら余りよいとは言えなかった。

 そのためか、不意に大粒の雨が空から落ちてきはじめる。

「何だよこれ!!」

文句を言いながら車へと駆け戻った。

「おまえと来るといつもこれだ」

 不満そうに中居が言ったけれども、もちろん木村にだって言い分はある。

「そう、中居と来るとね。俺一人の時はこんなことないよ?」

二人して顔を見合わせて笑った。車のエアコンが濡れた髪を乾かしていく。寒くないように毛布にくるまって、色々な話をしていくうちに、いつしかあんなに激しかった雨もやんでいた。

「木村、あれ見てみ!」

窓ガラス越しに中居が指さす。

天国への階段、ヤコブの梯子・・・・、そして、

「「天使の梯子!!」」

さっと射し込む光に浜辺が照らされていた。

 

 濡れた砂を踏んで、中居が波打ち際へと向かっていた。

 いつの間にか辺りは夕焼け。

 何もかもがオレンジ色に染まっている。

 走り出した中居の腕も肩も背中もやはりオレンジに溶けるように染まり・・・・。中居が不意に振り向いた。

「木村ーーーーっ!!・・・・・・・・!!」

「えっ?」

波の音にかき消されて言葉が伝わらずに、木村は尋ね返した。

 中居が振り向いた。その表情さえもオレンジに溶けて、もう何も見えない。

 

 いつしか木村自身もオレンジ色の中に溶けて。

 世界はその時、眩しいほどオレンジだった。