予告先発

 

俺たちは、世間一般から見るとアイドルグループって括りにはいるらしい。そして、そのグループのリーダーは、世間的には如何にも頭の軽い、彼を少々知っている人間にしたってアイドルにしてはしっかりしているなって認識がなされている。ツートップとしてリーダーに肩を並べているもう一人に対しても、頭がいいって言ったってあくまでもアイドルの範疇で、ってその程度の認識だろう。まぁ、それをわざわざ訂正してやろうなんて思わないけど、ね?

俺たちのグループは、何故か事務所の鬼っ子で、本当に最初の最初の頃はともかく、あとは、グループの方向性を決めてきたのはリーダーで、それを支え続けたのはツートップの片割れでって、そのことをもっと深く考えれば、あの二人がそんな単純な存在なんかじゃないってこと判りそうなもんだけどなぁって、俺なんかは思う。みーーんな、アイドルってその言葉に騙されちゃってるみたいだけどさ。俺から見れば、あの二人が組むってことはある意味無敵モードなんだって、そんな風にも思えるんだけど。

 

「予告先発っていいよなぁ」

ある日、楽屋で中居くんはそんな風に呟いていた。

「予告先発?」

そばにいた木村くんが突然のその言葉をくり返す。

「うん、予告先発」

予告先発って何だか知ってる?野球に詳しくない俺は、結局中居くんに教えてもらったんだけれど。

何だかさ、普通は先発のピッチャーって秘密なんだってね。だって、それが敵にばれていたらそのピッチャーの得意な球種なんかから割り出したラインナップで打順を決められちゃって、ずいぶん不利になっちゃうから。だけど、それでも逆に「誰々を先発に送る」って予告することもあるんだって。そうすれば、今日は誰々が投げるんだって、ファンにもわかるでしょう?

「つまりはファンサービス。・・・・っうか、どっちかって言うとそれでファンに来てもらおうって言うのが大きいかな?」

って、中居くんは言った。

「視聴率が、欲しいんだよな」

続けて中居くんはそう呟いた。

「そうだよなぁ。あればあるだけいいもんなぁ」

木村くんはそう応えていた。俺なんかは、まだ何の話?って感じだったんだけど、二人ともすでに何だか通じ合ってるみたいにどんどん話を進めいく。もちろん俺たちの世界では、視聴率って言うのは結構力を持っていたりするんだけれども、この二人がそこまで視聴率に拘るって言うのも、珍しい気がして俺は二人の会話から意識をそらすことが出来なかった。

「まずは、予告をする、その予告をどれだけ多くに伝えられるかだろ?」

「何かが起こる、って感じで少し前からあちこちでうっすらと匂わせていけばその辺はどうにかならないか?」

「そうだなぁ。どっちにしろ予告しちまえば、あとはマスコミが取り上げてくれるだろうし」

そう言っている二人の結論はやっぱり、

「とにかくできる限り視聴率取れるように、もっていこう」

ってことらしかった。

何だかわかったような、わからないような俺に中居くんは言った。

「ファンの気持ちみたいな見えない力はエネルギーになってくれるし、視聴率なんかの見える力は武器になるからな。余計なことかもしれねぇけど、やっぱり最初が肝心じゃん?」

「そういうこと。特に最初の数字ってのはどれだけ待たれていたかの証明にもなるし、後で仕事をする上でも絶対に役に立つはずだから。ま、こんなこといろいろ画策するのが余計だって言ったら、余計だろうけどさ」

木村くんも苦笑いしながらそう言った。

あぁ、この二人がいよいよ動き出したんだ。俺はようやく俺たちは完全体に戻れるんだなぁ、なんてそんなことを思った。

 

そして、今日、俺はドアを開けて彼が楽屋に入ってくるのを今か今かと待っている。「予告先発」当日までは、もう秒読みと言ってもいい段階に入っていた。