銀河漂流 バイファム 概論
 
  放送回解説 その3  11話〜16話

   第十一話   「さらばベルウィック 新たなる旅立ち」
 もはや、軍の力はおろか、他者からの援助を期待できない状態となってしまった、14人に残された道は、戦場となって完全に敵側に制圧されてしまったベルウィック星を脱出する以外に残されていなかった。
 かくして、シャトルを使っての脱出計画が、着々と進んでいく。その影に、カチュアの尽力があったことが述べられる。「彼女、わかりが早いよ、尊敬しちゃうな」とのマキの言葉は、以後、別な形で証明されてしまう。
 ジミーの変な動きに面々が気付いたのは、作業も一段落付いた頃であった。滑走路にでてペンキでなにやら書き付けている姿にみんなはいぶかる。両親に見せるため自分の顔をかこうとしていたのだ。その妙案にみんなは賛同し、書き始める。
 そして、いよいよシャトルの離陸の時を迎える。緊張がコクピットのケイト/ロディ/バーツに走る。客室では、この回のキーパーソンでもある、カチュア/ジミーにスポットが当たる。あの忌まわしい思い出の、第2ステーションに戻らなくてはならないのだ。そして、スロットルは倒され、アゾレック基地から無事に脱出できたのである。
 無事に第2ステーションに近づくシャトル。しかし、カチュア/ジミーにとっては、つい先日までのすみかであり、惨劇の舞台でもあった場所である。複雑な心境で外を眺める二人。
 その郷愁のおもいが、ジミーを、ステーション居住区へ誘った。もっとも、当初、このことは、カチュアがケイトに相談する手はずになっていた。ケイトの後を追った二人がたどり着いたのは、あの遺跡がおいてある格納庫だった。ここで、ケイトは、遺跡のことでカチュアにたずねてしまう。せっかくのチャンスだったのに、ジミーはこの場から立ち去ってしまう。
 ジミーの相談相手は、やはりこの人、ケンツであった。トラブルメーカーのケンツが、その役割をいかんなく発揮する。すぐさま、年かさのものにその行為がばれ、叱責を食らう。そうとも知らないジミーは、自分の住んでいた部屋に入ることが出来、ぬいぐるみなどをゲットすることに成功した。
 帰路の途中、ちょっとしたアクシデントがあったが、ケンツの機転で難を逃れる。ジミーを探していたカチュアも自室に入り、母親の鞄を見つけて戻った。
 ラストシーン。アルバムを見ながら、自分の生い立ちに、今更ながら疑問を抱くカチュアに、無邪気にも、両親の写真を見せるジミー。「そのお写真、大切にするのよ」とジミーを抱きしめ、泣き崩れるカチュア。何が起こったのか、半信半疑のジミーのアップで終わる。
 
   第十二話   「発信準備完了!  地球へ向けて出発だ!」
 いよいよ、練習艦とはいえ、巨大な軍艦を大人一人、子供13人で運営して行かなくてはならない非常事態を迎えた。ここにきて、指揮官的役割も板に付いてきた、スコットの「しきり」がこの回、大いに目立った。
 ここで特筆すべきは、「ケイトはオブザーバー役」ということを、スコットが決めてしまっている点である。このことは、実は短期的には、やや悪い方向に向かわせてしまうことになってしまう。長期的に見れば、途中で亡くなっているわけだし、いてもいなくても平気、という具合にケイトの役割を決めたことは、よかったとも考えられる。
 さて、お話の核は、なんと言っても、「出航できない」というていたらくである。メンバーを素直に登録したまでは良しとして、サブコンピュータを使わずに未熟な13人でいけるはずがない。まして、その根本となっていたのが、ケイトと言うから驚く。大げさに反応した、スコットの落胆ぶりは何なのだろう?
 そしてもう一方のトラブルは、とってつけたような、鉄骨の撤去である。実は、この前の回(11話)では、この鉄骨は存在していないことが確認されている。わずか数時間のうちに生えてきたとでも言うのだろうか?これもどちらかというと、出航のための、埋め草的部分といえよう。
 2話で聞いた、出港時の各セクションの点呼確認がてきぱきと行われる。カウントダウン、そして、スコットの号令
 「発進っ!!」
 で、いよいよ、大宇宙の大海原に、ジェイナス号と14人の愉快(?)な仲間が大航海にうってでるわけである。

 それにしても、宇宙工学の勉強を、スコットはどこでしたのだろう?ペンチの疑問に苦もなく答えている。あるいは、こう言ったことは15歳にもなると、義務教育レベルでも教えてくれるのだろうか?しかし、こんな事がわかっていながら、サブコンピュータのことには気付かないとは・・・。

   第十三話   「射撃訓練開始!  恐怖の宇宙戦闘初体験!!」
 長かった前振りも終わり、いよいよ、大人1人を含む14人は、練習艦ジェイナスでの長い長い航海へと旅立った。今までの彼らの状況から考えて、順風満帆にことが運ぶとは、視聴者の誰も思っていないだろう。
 そんな事を知ってか知らずか、自己防衛のための動きが子供たちの間で盛んになっていった。最初は、「ものの試し」的な感覚での訓練といった意味合いが強かったと思われるのだが、実際やってみて、はまっていくことになるのである。
 さて、前半では、そんな子供たちの、艦内生活(平常時)が垣間見られる。だが、そんな空気をふっ飛ばす出来事が起こってしまう。
 敵機の襲来である。射撃訓練を偽って、出撃訓練していたロディ/バーツにとっては、いきなりの宇宙空間での実戦となってしまったのである。焦ったバーツは思わず発砲してしまう。そこへめがけて、敵弾が集中。ネオファムの左腕に命中してしまう。
 寮機の被弾にロディは、攻撃への意志を固める。善戦するロディだったが、結局二対一。振り切られてしまい、ジェイナスに向かわせてしまう。艦の中でも、迎撃態勢は整っていた。唯一、ふん切れないでいたのは、シャロンだけだった。ここは、マキの援護で見事一機をしとめる。
 一方、被弾し、コントロールを失っていたバーツも我に帰り、「借りは返すぜ」とかっこいいせりふをはいて、一機を制御不能にした。返す刀で、特攻を試みる敵機に、ロディとバーツの容赦ない攻撃で、見事に危機を脱出した。
 エンディング。漂う、敵戦艦に、ロディのせりふが生きる。「いや、そうはさせない。ジェイナスをこんな風にしちゃいけないんだ」。ラストは、マキの一言で〆た。

 この回は、すばらしく、脚本が生きた回であった。「ひろい」「さむそう」など、本当に一言だけのせりふで、すべての状況を説明してしまう、これまでのアニメーションの中でも、秀逸な演出/脚本力で書ききった回である。私の中のベスト10の中でも、上位に位置できる、「光る一手」が多かった回である。

   第十四話   「敵のスパイか!? 舞いこんだ謎の逃亡者」
 前話では、辛くも一勝を遂げたクルーたちの奮戦ぶりが垣間見られた。宇宙を航行するだけではなく、いろいろな邪魔をかいくぐって、目的地である地球を目指さなくてはならないのである。
 その中にあって、この回は、いわば、一服の清涼剤とでもいおうか、緊迫した雰囲気が感じられないオープニングである。タイトル後しばらくして、文学少女でもあるペンチの創作画面がうつしだされる。しかし、「もう一人のトラブルメーカー」シャロンによって、それは暴かれ、茶化されてしまう。
 この場はシャロンの行き過ぎで事はすんでしまう。そこへ救難信号を発した小型艇の登場。「敵の謀略」と言い切るケンツをよそに、メンバーの救出作戦が繰り広げられる。船内に救出された男だったが、カチュアに目がとまり、驚きの表情を見せる。
 ほぼ同じに、ケイトもこの男の違う点に目がとまる。だが、そんな事を知ってか知らずか、ペンチは、看病を続ける。次の日の早朝、男はベッドから逃げるようなそぶりを見せる。結果、クルーのほぼ全員が、彼をスパイと判断してしまう。
 それでもかばい続けるペンチ。詩を朗読して、彼を和ませようとするのだが、男の頭の中はカチュアでいっぱいだった。本心を誤解して、病室から飛び出してしまうペンチ。ケイトとぶつかるのもわからず走り出してしまう。
 そして、ケイトと男との密会が行われる。この時点での問題は、さほど大きくなかった。無人偵察機の出現に色めきたつクルー。だが、誰もいなくなったのを幸いに、男は脱出を試みる。
 男は、いとまをいって、ジェイナスから飛び立ち、帰らぬ人となってしまった。かなしみにつつまれる船内。ひとときでも彼を疑ってしまったことに対する悔悟の念がブリッジにあふれる。事務的に「このまま航行を続けます」というボギーのアナウンスが空しく響く。

 実は、男は、とんでもないダイイングメッセージをジェイナスに残した張本人である。ケイトの心は千々に乱れ、カチュアやほかのクルーにも悪影響を及ぼし、挙げ句犠牲者までだしてしまう。その意味で言えば、彼はスパイだったのかもしれない。
 最後に、「ケイトの記憶・・」でもすばらしい形で使われた、ペンチの詩を紹介しておわりにしたい(当然であるが、詩のタイトル・表記は当方の創作である)。
 『小さな願い      ペンチ・イライザ       
   とおい とおい  ケンタウルスよりもとおい お星さま
   わたしのねがいを きいてください
   ちっちゃな ちっちゃな
   わたしのねがいを きいてください
   パパの大きな背中と ママのおひざに抱っこされたいの
   パパのいたいおひげと ママのやわらかいほっぺに
   さわりたいの
   
   とおい とおい ケンタウルスよりもとおい お星さま
   ねがいをきいてくれたなら
   大事な 大事なファースト・キッスをあげるから』
 
   第十五話   「衝撃!! 異星人が残した意外なメッセージ」
 ベルウィック 第2ステーションから10日経ったことが冒頭、スコットの航海日誌でかたられる。艦内のハード的な面でのチェックはおおむねオールグリーンといったところだったが、そのチェックのさなか、スコットがケイトの異変に気づく。
 着乱れたガウンにバーボン、灰皿には吸い殻の山・・。今まで見せたことのない、荒れたケイトが部屋の中に居た。異星人が残した最後のメッセージを聞きながら。しかし、その異変は、すぐさま好奇心旺盛な子供たちの目にもとまることになる。
 そして、物語中、もっとも「危険」なにおいのただよう瞬間を迎える。ロディがケイトの部屋を訪れたのである。第一回目のニアミスは、ケイトに軍配が上がる。
 そして、ケイトが、包み隠そうとしていた事実もクレアがケイトの部屋に入ってしまうことで白日の下にさらされてしまうのである。もっともこの時点ではもれたのがクレアだったからよかったのである。ところが悪いことに彼女はマキに話してしまう。それを盗み聞きする形でシャロンが知ってしまったのである。
 「もう一人のトラブルメーカー」であるシャロンに聞かれたのはまずかった。いっきに情報だけが先走りする結果になってしまい、挙げ句、一枚岩になったはずのクルーたちに疑心暗鬼が漂う。1人、ロディだけはケイトがこの事で思い悩んで、酒におぼれているのだと悟る。
 再びケイトの部屋に立つロディ。今度のロディは違っていた。鬼気迫る勢いで酒を断つよう説得するロディ。うけながすケイト。二人はもみ合い、そして・・・。恐らく、こう言った、少年もので「大人とのキス」という行為を前面に押し出したのは、この作品が始めてではなかろうか?
 次の日の朝食。「真打」ケンツにもこの情報は伝わってしまった。もう、こうなってしまっては、誰も止められない。ケンツが口火を切る形で、本人にこの事が知らされる。信じたくないジミーは、ケンツに飛び掛かる。結局は、誰にもいい形で伝わらなかった。
 クレアから一部始終を聞いたケイトは、やっと決心する。そして、今までひた隠しにしていたテープを公開する。カチュアのことは情報の裏打ち程度でしかなかったが、もっとクルーを驚かせたのは、両親たちが、地球に避難しているのではなく、タウト星という異星人の衛星に、捕虜としてとらわれているという事実である。
 エンディング。出生の秘密を知ってしまったカチュアとケイトのツーショット。現実に前向きに、というケイトの言葉に涙するカチュア。一方、方向転換を余儀なくされたスコットの苦悩は、計り知れない。

 この放送回は、正直、ケイトがある種のオブラートに包んででも、テープを公開しておけば、起こり得なかったことである。なぜ、彼女は、テープの公開を拒んだのか? 理由を探る必要はありそうだ。
 さて、ジェイナス号の今後にまたしても、暗雲立ち込める空気が漂っている。果たして、彼らの思うような結末になるのだろうか?

  第十六話   「総員援護体勢! カチュアをつれもどせ!」 
 ラレドの遺したテープを聞いてしまった以上、向かうべき目標を再度設定しなくてはならなくなる。ほぼ全員の意見は一致していた。ただ、ここ数話で中心人物になっている、カチュアは、ブリッジ上の展望室で1人涙に暮れていた。
 遂に目標設定会議上でもカチュアは呼ばれもせず、孤立感は漂うばかりである。「いられないわ、ここにはやはり・・・」。挙げ句、自分は敵だと思い込み、ジェイナスから降りようとするのである。
 小型艇でまんまと脱出に成功したカチュアではあったが、どこへ行く当てのない旅。ジェイナスからまっすぐ離脱していくのである。艦内では、カチュアを連れ戻そうと、ロディ、ケイトの二名が宇宙空間に打って出る。本来ならばバーツも、といったところだったのだが、軌道変更という一大事が待っていただけに、仕方なく艦に残る。ここも、ケイトたちにとってアゲインストに働いた。
 さて、艦の中では、少し、和らいだ雰囲気が醸し出されていた。何と、トラブルメーカーコンビが対峙するのである。ケンツの強がりが逆に痛々しいくらいである。
 そうこうするうちに、カチュアの小型艇が敵を発見する。しばらくの葛藤の後、彼女は、敵の存在をジェイナスに知らせることになる。うまくカチュアに接触できた二人だったが、敵機に背中を見せながらの逃避行となり、さらに、機動兵器の出現によって、彼らの不利な状況は増幅した。
 カチュアをボギーに任せたケイトは、2機相手に苦戦するロディの援護に回った。実は、この事が彼女の命を決めた、決定的な行為なのである。2機に追われる形で逃げ惑う二人。もちろん追うものの有利さは如何ともし難く、ケイトの乗った戦闘艇の左エンジンに被弾、航行不能になってしまう。怒りに燃えるジェイナスの砲座があっという間に敵機を粉砕するが、ケイトは宇宙の藻くずと消えてしまう。最後はロディの慟哭で〆た。

 ご承知の通り、ストーリーが終焉を迎えた後に作られたサイドストーリーでは、ケイトは生きていたことになっている。もっとも、本編上では故人という扱いになるわけで、遂にクルーは子供たちだけ13人になってしまったのである。
 まさしく「自分たちでなんでもしなくてはならない」状況下におかれた彼ら。果たしてケイトの死から立ち直ることができるのか?