銀河漂流 バイファム概論  事 象 考 察

 第1回  バーツの「人となり」に迫る

 このアニメーションの中では、特別な登場の仕方をしているのが今回俎上にあげるバーツその人である。何しろ、機動兵器に騎乗し、あまつさえ、戦闘もしているのである。意外性だけが突出しているわけだが、これこそが、考察の対象となるのである。
 
 さて、せっかく「web対応版」と銘打っているので、当該シーンについての記述については、重箱の隅の当該箇所を参考にしていただきたい。ここでは、「設定ミス」とかなりのこき下ろしようなのだが、とりあえず、これだけの疑問点が挙げられるのである。
 
    ・少年が操縦している/操縦・戦闘できている
    ・もとのパイロットの消息が不明
    ・なぜ、脱出できなかったのか?

 ここではあまり話題にされない「なぜ、脱出できなかったのか?」と言う事から解明していきたい。
 ストーリー中、バーツは、ディルファムに乗り込む事になった経緯をこのように話している。(6話内。クレークを捜索するジープの車中で。聞き手はロディ)
 『俺がオヤジたちとはぐれたのは、実はクルマのためだったんだ。ドンパチが始まったとき、クルマを安全なところに移しとこうとおもって、あっちこっち走ってる間に攻撃されちまってよぅ。もう少しでクルマと心中するところだったんだ
 (それで、どうなった?)
 ン…。しばらくはブッ倒れてたらしい。気がついたら街はもうガタガタだし、人は誰もいないって訳さ
 (そのとき、あのディルファムを拾ったのか?)
 そういうこと。最初は俺のクルマの復讐をしてやろうと思ってたけど、マ、自分の体は自分で守ろうと思ってね(以下略)』

 このバーツの言い分をそのままうけとめるとすると、
 ・戦闘が始まった当時、彼は、この戦闘は意外と早く終るし、自分の資産であるところのクルマに被害がないようにしようと思っていた
 ・家族の近く、もしくは家族と連絡の取れる場所にいた
 ・戦闘のさなか、敵機の間を走り抜けていた

 こういったことが浮き彫りになってくる。ところが最後のせりふと、これらの行動に整合性がないのである。つまり、「自分の体は自分で守る」のであれば、この非常時に自分の改造車の事でとやかく動いているのはおかしい。最も、守るべきものが壊れた事で、はっと我に返ったのかもしれないが、14歳レベルの考え方とは到底思えない。
 また、家族ともともと仲が悪かったとはいえ、14歳でなにができるのか、と言う事も欠落している。はぐれてしまったらどうなるのか、とか考えなかったのだろうか?もし、それを考えていなかったとするなら、それは、そういう悪い状況を考える環境になかった、すなわち、家族がそばにいたということが考えられる。
 少しうがった見方をするなら、バーツはこのとき、「いい格好」をしたかったのではないか、と言うのが最後の論点である。ここでいう「あっちこっち」は、市街地のはずである。ということは戦闘の真っ只中を走り回っていたのは間違いない。おそらく自慢のひとつでもしたかったのだろう。ところが、誉めてくれる人も、いや、それどころか証明してくれる人すらいないこの状況で、バーツはいったいなにを考えていたのだろう?
 脱出できなかったのは、こう言った理由が挙がっており、これをそのまま信じるだけで全て解決するはずなのだが、よぉく解析して見ると怪しいところが出てくるのである。

 次の点は「少年が操縦/戦闘できている」という、おっそろしい事実の解明である。ディルファムを拾ったバーツは、「自分の体は自分で守る」大義名分の元、一度も触った事のないはずの機動兵器に乗り込み、なんとそれを動かし、戦闘までやっているのである。
 さて、我々の日常生活にこのことを置き換えてみよう。ディルファムは見た事のない、使い方のわからない、家電としようか。このとき、我々が起こす行動は、まず取扱説明書を読む事からはじめる。ボタンの機能、時刻の合わせ方、ケーブルのつなぎ方など、わかっていても一応は目を通すはずである。これが人の生き死ににかかわらないものだから、たとえ説明書を熟読しなくても、余程間違った使い方をしない限り、爆発したりとか、突如凶器になったりはしない。ところが、バーツが乗り込んだのは、れっきとした「兵器」なのである。
 なにもわからないから、動かす事すらままならないはずのディルファムを操縦し、曲がりなりにも一機をしとめたのは、本当に偶然なのだろうか?そこで、今回も、新たな仮説を打ちたてて、この謎を解明したいと思う。
 
 @何から何までお見通し!機動兵器オタク
 A一度、軍の一般解放デー的なイベントで、動かし方を知っていた
 Bゲーセンに同一のシミュレータがあった

 当初、真っ先に消えるのは@であると思っていた。しかし、実は、5話で、無理やりケンツが片足だけのディルファムに乗り込み、倒れこんでしまったときに、バーツはなんとケンツに、脱出用のボタンを押す様、指示を的確に与えている。しかも、そのとき、ディルファム本体に備え付けてある非常用電話を使ってコックピットのケンツとやり取りしている。その場所も、一発で探し当てている。何の知識もないものがここまでできるはずがない。
 その倒れこんだディルファムを囲んでクルーたちが雑談している時、バーツのせりふはとてつもない重みを放っていることに気づいたのである。ロディに身長を聞き、「164」という回答をもらうと、このように言っている。
 『合格だ。俺だって、本格的に訓練を受けたわけではないけど、模擬コックピットを使って訓練しよう。ここならあるはずだ』
 このせりふ、実はすごいことなのである。特にこの部分・・・本格的に訓練を受けたわけではない・・・は、彼の謎を解き明かす重要なファクターになりえるのである。噛み砕いて言うと、こうなる。
 「実は俺にもメカ狂いの時期があって、機動兵器の研究もしていたわけよ。実際に乗りたくもなって、親が軍人の友達に頼み込んで操縦させてもらったこともあったわけ。だから、動かすことも出来たし、うまく戦闘もできたってこと。え?訓練?ちょっとはしたけど、本格的に訓練を受けたわけではない」
 そして、もっとすごいシーンが用意されていたのだった。5話で、模擬コクピット(トレーニングルーム)が見つかり、訓練しようというシーン。先着していたスコット相手にレクチャーしているのはまたしてもバーツ。しかも、この際、何の教科書も見ないでスコットに的確に指示を与えている。もうこれだけで彼が機動兵器に関して一日の長があることは疑う余地はない。結論として、せりふや5話での動きから、バーツは明らかに、機動兵器についてほかのクルーたちより造詣が深いことが伺い知れてしまう。
 Aはどうだろう?つまり、「昔取った杵柄」が効を奏したという見方である。軍と一般市民の間で、交流がもたれていたであろう事は予想できるし、むしろ軍は積極的にコンタクトを取ろうとしていたはずである。そんな中、憧れの機動兵器に触れられる、とすると、子供たちはそろっていくはずである。そのなかにまだ10才前後のバーツがいたら…。可能性はゼロではない。ただ、「操縦できていたかどうか」は定かではない。なんとなれば、身長が足りないからである。
 Bも捨てがたい。しかし、これには、技術的面で、無理な点が出てくる。つまり、そのシミュレータを開発する側に、軍の情報が流れていないと難しいのである。軍の情報はトップシークレット扱いが妥当で、仮に似せたものを作ろうとしても、「実機と同レベル」でなくては意味がないわけで、ここでもすこし条件が悪い。しかし、「実機そのままのシミュレータ」に触れることは不可能ではなかったはずである。つまり、軍の基地においてあるシミュレータである。ここから先は@の条件とまったく同じだ。
 こうやって見てみると、余り内容のないと思われた5話は、実はかなりの内容を含んでいたことになる。バーツには、機動兵器を動かせる資格があったのだ。

 さて、バーツに操縦幹を明渡した、「もとのパイロットはどうした?」と言う点も見てみよう。
 実は、後に作られた「銀河漂流 バイファム13」でひとつの回答が得られているのであるが、ここでは、それを無視して考えてみたい。『状況は地球軍に対して不利であり、おそらく、このパイロットも仲間がどんどん消滅していく中で、恐怖に襲われていたのは間違いない。しかも、自機は片足を損傷していた。まともに戦えないと悟ったパイロットは、逃げ出した』。こう考えるのが、一番妥当である、と言うのが、旧作時点のスタンスである。
 しかし、ここで良く考えると、このことも矛盾していることがわかってくる。

   ・自機を、イグニッションがオンの状態で放置していた
   ・ヘルメットを脱いで席を離れた
   ・軍人にあるまじき、敵前逃亡
 
 まあ、「逃げた」という考え方は果たして妥当かどうかは意見が分かれるところである。しかし、片足損傷程度で自機を放棄するか、というのが疑問といえば疑問である。バーツが何らかの形で操縦法を知っているのだから、機体の状態はこの際不問に出来る。ただ、ヘルメットを脱いだ状態にしているというのはやはり解せない点である。
 では、一番納得のいく説明はできるのであろうか?「13」では、
 ・パイロットはコックピットから放り出されて、気絶(絶命)していた
 ・バーツは「これ借ります」といって乗り込んでいる
 事がわかっている。しかし、パイロットがコックピットから放り出される状況は考えにくい。まず、第一に、彼らはシートベルトをしているはずである(1)。又、戦闘中に、乗員を放り出すような危険な事にはならないはずである。コックピットに損傷もないので、乗員が脱出しなければならないわけでもない。
 理由はどうあれ、コックピットに出来た空席とヘルメットを得たバーツは乗り込むことができたわけである。しかし、この描かれた状況でも全てを言い表せているとはとても思えない。
 
 ここまで、様々な考察を交えながら、バーツ登場の謎を論じてきた。しかし、事態は意外な方向に向かってしまったのである。つまり、「バーツは機動兵器のことをかなり、それも兵士並みに知っていた」事実が明らかになってしまったのである。彼が軍人の一家に生まれたわけでもなく、交友関係も不明の状態で、ここまで知りえる環境にあったのかどうかは新たな謎だが、他のクルーとの情報格差があったことも事実である。それでも疑問は多く残るが、バーツ登場の謎は少しの光明を見出せたことになる。