Episode0.「プロローグ」
ファンブルグ市は、今日も、とても「魔族」の脅威に脅かされているとは思えない平和な朝を迎えた。 小鳥たちの歌声、朝から元気な子供達の騒ぐ声、朝から元気のいい物売り達の掛け声、 どれも全く血の臭いを感じさせないどこまでも平和なものだ。 町は朝から活気にあふれていたが、そんなことはお構いなしに朝から惰眠をむさぼる男が 町の片隅に住んでいた。そこは、「ドノマール荘」。異世界……主に「地球」と呼ばれる世界…… からやってきた者達……冒険者、あるいは召還されし者と呼ばれている者達……が 数多く住んでいる、「地球」の言葉でいうところの「賃貸アパート」に当たる建物だった。 彼ら冒険者は、その生活パターンは町の通常の住人たちとは大きく異なっていた。 それゆえ、「魔族」を倒してくれる冒険者達には尊敬の念と同時に 奇異と恐怖の目線が向けられることがよくある。 が、この異世界からやってきた男の場合は少し事情が違った……。
「ギャアギャア!!」 バサバサバサッ!!異形のものの叫び声と羽ばたきの音が部屋中に響き渡る。 「う、うん?、な、なんですかぁ。今日、学校は休みでしょう……むにゃむにゃ……。」 異形のものに何発も体当たりを食らいながらも、簡単な寝床の中でまどろみ続ける男。 「ガッコウ??あなた、もうガッコウには行っていないんでしょう??寝ぼけてないで、さっさと起きなさい!」 別の異形のもの……やや人間の女性に近い外見をしているが、足に生えた鋭い鉤爪と、 腕の代わりに生えている大きな羽、全身を覆う羽毛は、それが人間ではない、 ということを主張するに十分だった……が、ボソッとつぶやく。 「……朝からうるさいですねぇ……。」 「ほら!!今日はお友達といっしょに冒険に行くんでしょう??早く起きなさい!!」 「う、うん?、もう少し寝かせてください……スースー。」 「こら!!寝るな!!やっちゃいなさい!『ヴァスティール』!」 すると、男に体当たりを繰り返していた異形のものの勢いがさらに増した。 「いて、いててて!!起きます!!起きますから止めてください!」 男はたまらず寝床からもぞもぞと出てきた。 「はぁ、どっちが主人だかわかりゃしないですね……。」 「そんなの、あたしが主人に決まってるじゃない。」 (1) |
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