女性のようなものにきっぱりと断言された男は困った表情を浮かべながら、
「そんなにはっきり言わなくてもいいじゃないですか……。ああ、使い魔の尻にしかれてる 男なんてファンブルグ中探しても私ぐらいのもんでしょうね……。」 男はぶつくさ言いながらも手馴れた手つきで朝食の準備を始めた。 「そう言えば、この世界にくる前は料理なんかした事もなかったんですよねぇ……。」 「へぇ?ミドルソン、あなた料理できなかったんだ?」 「まあ、そうですね。って、あなたも料理できないでしょう、ニンフィ。」 ミドルソン、と呼ばれた男は火打石を鳴らしながらニンフィと呼ばれた異形のものにこたえた。 「はぁ、ガスコンロなんかがあればもっと便利だったんでしょうけどね ……さすがにこの世界ではそんなものはないんでしょうけど……。」 「ねぇ、ミドルソン、いい加減『元の世界』の話は止めない?あなたはこの世界に 骨を埋めるってあたしに約束してくれたじゃない。」 異世界から召喚された者達は、皆結構好き勝手にやっている。 中にはこの世界にやって来ると言われる「大いなる災い」に立ち向かうために ファーレーン王国中を駆けずり回る者もいる。 だが、そんなことに全く興味のない者達も数多く存在するのだ。 彼らはファンブルグ市内で商売をしたり、何もせずのんびりとした時を過ごしたりしている。 「……本当に『大いなる災い』なんてやってくるんでしょうかね……ここはこんなに平和なのに ……地球のほうがよっぽど物騒ですよ……全く……。」 ファンブルグ市内で商売をしている連中などはもう殆どこの世界の住民と同化していると 言いきっても過言ではないかもしれない。 何も元いた世界に帰りたがっているものばかりではないのだ。 この男、ミドルソンもそんな中の一人だった。だが、そんな彼にも彼なりにやることはある。 彼は、積極的に「魔族」と戦う者達に傷の回復薬を売ったり、食料などを作ったりして 生計を立てている人間だった。この世界は、「地球」とは違い、何もしなくても 生きていくだけなら十分なぐらいの食料は簡単に手に入る世界なのだが。 そんな世界で生きている彼がなぜ商売をするのか……それは、誰も知らなかった。 「さ、ご飯できましたよ。ニンフィ。」 「やっとできたの?ミドルソン、おそい!」 「はい、ニンフィはもうご馳走様ですね。」 「え、ええ!?ち、違うわよ!ああ、まいにちこんなおいしいごはんがたべられてしあせだなぁ、あたし。」 「ニンフィ、どう聞いても棒読みに聞こえるんですが……。」 本来は人間の作った「料理」など食べなくても生きていけるニンフィだったが、 彼女はミドルソンの作った料理はいつもミドルソンと一緒に食べる癖がある。 (2) |
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