ヒヨクレンリ
比翼連理
うららかな日の光が、燦々と地上に降りそそぐ。
優しい春の日差しに包まれて、竜吉公主は満ち足りた気分で空を見上げた。
「よい天気じゃのう。」
そよそよと心地よい風が大樹の枝を揺らし、彼女の座る根元に幾重にも影を重ねる。
その様子に微かに微笑むと、公主は自らの膝に視線を落とした。
「こんな天気の良い日に──しかもわらわのひざ枕で昼寝とは、お主はなんと贅沢者よ…。」
ほんの少しだけ恨み言も混ぜて、夢の海を漂う『彼』に語りかける。
だが膝の上の人物は熟睡したままで、いっこうに起きる気配はない。
彼女もそれは判っているのか起こそうとはせず、ただ静かにその頭を何度も撫で続ける。
その手が、彼の額の上でぴたりと止まった。
「……随分痩せたのう。」
黒髪に縁取られた寝顔を見つめ、ぽつりと呟く。
その頬は彼女の記憶の中よりも、いくぶんこけていた。
人によっては、幼さが薄れて精悍になったと云うかもしれない。
だが、深い襟で巧みに隠された首の細さといい、ゆったりとした道服でごまかした
腰の薄さといい、彼が痩せこけてしまったのは確実だ。
それだけ、地上での任務が厳しいということだろう。
その重圧が肉体的にも精神的にも彼を苛んでいるのは間違いない。
実際、この頃の彼は過労ぎみだった。
以前は、他愛ない睦言を重ねて遊んだり二人揃って遠出をしたり…と、恋人同士らしい、
実に甘やかな時間を過ごすことが出来たのに。
最近は、せっかく時間を割いて公主の元を訪れても、こうして寝入ってしまう事がほとんどだ。
それが寂しくないと云えば嘘になる。それでも。
それでも、二人でいられることは『幸せ』だった。
一人きりで、彼の安否に心乱される日々に比べればずっと…。
と、物思いに耽っていた公主の瞳が再び彼を捉えた。
「んっ………」
小柄な身体が身じろぐ気配に、思わず息を呑む。
しかし僅かにに瞼が震えただけで、彼はまた深い眠りの淵に意識を委ねた。
それを残念に思う反面、彼の微睡みの邪魔にならずに済んだことにホッと息をつく。
「のう、太公望………」
起こさぬよう、細心の注意を払って呼びかける。
桜色に色づくその頬に、そっと右手を添えた。
「なにがあっても、必ず還ってくるのじゃぞ。」
せつなる祈りを込めて、公主は言葉を紡ぐ。
「お主の還る場所は、わらわの元なのじゃから…」
浅い寝息を繰り返す彼の唇に、紅く濡れた己のそれを静かに重ねた。
まるでそれは、約束の証しのように────