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◆ c.wニコル 松田氏訳「私の日本武者修行」を読んで 投稿者:伊藤鉄郎  引用する 
これほど面白い本はなかつた。R26年11月25日〜28日の4日間で読み終えた。最後のページより。日本にいる時はもう後いくらもなかった。大晦日が来た。私は日本の礼服を着て零時直前に寺へ歩いて行った。日本中何処へ行っても同じだが、ここの寺でも大きな鐘をついて、新年を迎え入れる。そこには数人の人がいたが、混み合ってはいなかったから、パーティーのような気分が漂い、みんな賑やかにはしゃいだ。寺僧の妻が参詣人一同に、この季節の伝統的な飲み物である、熱く、滋養に豊む酒粕の甘い汁を振舞った。若い男たちは先を争って、大鐘をつく栄誉にあずかろとした。彼らは太い綱を握り、大きな撞木を揺さぶり始めた。始めは数インチずつ、やがて十分弾みがつくとしゆもくは、船に頭突きを食わせる鯨のように、大鐘の横っ腹に突き当たった。深く、長く、低く、高く、嬉しげに、また悲しげに、色々に変わる鐘の音があらゆる空間を満たし硬い物を振動させた。それは108回突かれることになっていた。
「あなたもどうです?」と寺僧が私に勧めた。他の人達にも勧められて私は鐘撞堂に上がり、綱を握り、大きな撞木を揺さぶり始めた。始めは数インチずつ、やがて十分弾みがつくと撞木は船に頭突きを食わせる鯨のように大鐘の横腹に突き当たった。深く、長く、高く、低く嬉しげに、また悲しげに、いろいろに変わる鐘の音があらゆる空間を満たし、固いものを振動させた。それは108回突かれることになっていた。
ほかの人達にも進められて私は鐘撞堂に上がり、綱を握った。その綱を通じて私は、小さな屋根から吊るされている頭上の鐘の微かな揺れを感じることができた。木立を吹く風。寺の反り返った軒の上の星の光。後ろの建物の窓から洩れる燈火。寺の開け放された戸口に揺れるものの影、目の前でいまだに低く余韻を曳いて、黒く厳かな大鐘。私は次第に撞木を大きく揺り動かした。撞木はいよいよ力を増してかえってきたかと思うと、ついにゴーンと凄まじい音をたてて鐘にぶつかり、我々みんなを新年に送りこんだ。

2024/11/28(Thu) 21:12:13 [ No.10174 ]

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