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 地獄道

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 4月22日。日。雨後曇り。松田(神奈川県)。1939/49キロ。

 

 かなりの雨の中を、合羽を着て出発する。御殿場越えは難所の一つだ。

 ホテルを出るなり、御殿場方面246号線の歩道を探していたら、丁度朝のウォーキングをしていた六十年配の男性がいたので、道を尋ねた。

 暫く雑談をした後、その男性が嬉しいことを言ってくれた。

 「笑顔が素晴らしいですね」

 この言葉を聞いただけで、雨雲は吹っ飛び、心は日本晴れ。バックミラーに、いつまでも手を振ってくれている男性が写っていた。

 

 富士の裾野を巡る御殿場線は、沼津から御殿場まではほぼ直線の理想的な自動車路だ。お天気なら、富士山を左手に見ながら楽しいドライブコースだろう。

 理想的な自動車路ということは、自転車には必ずしも理想路ではない。バイパスは、当然自転車は進入禁止。例え進入を許されても危険で走れない。旧246号線を迂回するのだが、自転車のための標識なんか無い。その度に右往左往する。

 

 地下道を潜って交錯する歩道があった。自転車のスロープはある。勾配40度。これだけ急だと上から見たら、逆落としの感じがする。恐る恐る降りたのだが、危うく自転車ごと落下するところだった。横の壁にもたれかかり危機一髪難を免れる。一つ目の踊り場で荷を解き、空の自転車を抱きかかえるようにして、上下50段の石段地獄道をやっと抜けた。

 御殿場から松田までは、10キロほどしかないのだが、殆ど歩道がない。歩道がないと、私は路側帯の外を小さくなって自転車を押すしかない。その30センチ横を大型トレーラーが疾走する。

 出発したときの素晴らしい笑顔をひきつらせて、地獄の246号線を黙々と歩く。

 予定には満たないが、松田で宿をとった。 

 

 自転車は そこのけそこのけ 車が通る

 

 

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