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 帰りたくない

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 5月13日。曇り後小雨。旭川。2970/62キロ。

 

 札幌を基点に旭川へと延びる国道12号線は、北海道を象徴する直線道路が続く。しかし我が第二の故郷中国の直線道路は、もう少し徹底している。ゴビの砂漠の草原を走る道は、周囲に丸く地平線しかない。その地平線の果てに、道路が沈むように消える。

 

 もうすぐ、3000キロを越える旅も終わる。この広い北海道から帰ったら、私にも人並みに浮世の業が待っている。

 滝川を直線的に右折したら、「旭川まで40キロ」の標識が出ていた。時間はまだ九時を少し回ったばかり。これは困る。早く着き過ぎる。せめて今日の旅くらいはゆっくりしたいと走っていたら、丘陵を切り開いた道路の脇に、野球場の倍くらいの白樺林が広がっていた。自転車を停めて、林に分け入ってみた。

 何の鳥か、少なくとも三種類は居るだろう。囀っている。しかしこの囀りは歓迎の歌声ではない。甲高いトレモロ、鋭いスタカットは、警戒音だ。帰りたくない寂しい気持ちがひがみ心を起こさせるのか、小鳥さえも「帰れコール」を繰り返しているように聞こえる。

 更に進むと、畑を切り裂く土の断層が、高さ2メートル長さ数百メートル延びていた。

 いつの地震が作ったものか。悠久不変泰然自若、なんの悩みも無いように見える北海道の大地も、地球規模で見るとストレスがあるようだ。

 林は、いつか静かになっていた。小鳥もこの闖入者が平和を脅かすものでないことを知ってくれたのだろう。

 

 旭川に近づくと、川沿いに「神居古譚」という観光地があった。ここから、新しい12号線のトンネルを迂回するように、旧12号線がそのまま自転車専用道路として整備されている。国道をそのまま充当した日本一贅沢な自転車専用道路に、「熊に注意」の標識が出ているのを見て驚いた。

 大声で歌うのも一つの方法とか。

 

 お暇なら来てよね 

 私淋しいの 

 

 あの藪の陰で、雌の羆が私の美声に聞き惚れているかもしれない。

 しかし待てよ。もし本当に「私でいいかしら」と出てきたらどうしょう。

 まっいいか。熊でもいい。「帰らないで」と引き留めてくれないか。

 

 手ざわりは 熊の毛皮か 深情け

 

 

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