5月15日。火。晴れ。音威子府。3100/75キロ
名寄郊外で、また水田を見た。水田地帯を走っているうちに、何処でどう迷ったのか、山道に入ってしまった。北進する車も南進する車も居ない。車が数キロ途絶えると、数キロ先の自衛隊名寄駐屯部隊の兵士の訓練の掛け声が、風に乗って聞こえてくる。あまりに静かで不安だが、とにかく北へ向かっているので暫く走ったら、道道252号線名寄美深という標識が見えた。それほど間違えていない。東雲峠を越えると、水田も途絶えた。
少し早いが、たんぽぽの咲く土手でコンビニ弁当を広げて昼食にする。
たんぽぽさん
一緒に祝っておくれ
北国で一人迎える誕生日を
古稀過ぎて三星霜
ここは君が去ったらすぐ冬だ
笑わないでね
涙腺の老化防止中だから
すっかり感傷にふけっていたら、遠く美深町の正午のサイレンが聞こえた。ここで泊まるのは早すぎる。次の集落は35キロ先の音威子府までない。北海道で一番人口の少ない村に宿があるか。昨夜インターネットで調べたのでは一軒あった。危険な賭けだが、前進に賭ける。
幾つか峠を登り、やっと着いたのが四時。確かに宿はあったが、冬季のスキーシーズン以外はやっていないと言う。山道を8キロほど戻れば温泉があると言う。意気消沈、体力消滅。そのとき仏は現れた。駅前の運送会社の方が、「自転車は預かってあげますから、バスで行きなさい」と言われる。村営の無料バスの最終がもうすぐ出る。やれやれ。
天塩川温泉ホテルは、天塩川を眼下に、遠く万年雪を頂いた山脈、眺め良し、お湯良し。更に素晴らしかったのは、湯治場のような人情に満ちた雰囲気で会話がある。
この辺の人は、熊も、鹿も、狸も皆友達なのだ。秋には支流の小川まで鮭が上って来る。
「空き家になった教員宿舎がありますが、住みませんか?家賃は無料でいいですよ」とお誘いを受けた。冬は沖縄、夏は北海道、春は南から北へ、秋は北から南へ、自転車渡り鳥人生も悪くない。
天塩川 人熊狸 憩いの湯
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