聖闘士 星矢
〜LAST CHAPTER The Olympus〜
「1999年7の月 恐怖の大王が地上を支配する。
やがて、火星(マルス)が幸せのうちに統治するだろう。」
16世紀の偉大な占星術者、ノストラダムスの予言である。
その驚愕の内容から、今まで多くの人々によって、信じられてきたが、2000年を越えた現在でも、その予言の内容の真偽はまったく分かっていない。
しかし、16世紀ノストラダムスは、この予言の内容について王に尋ねられたとき、次のように答えた。
「それは、目に見えるものではないのです。新しい時代の始まりであるからです。」と…
新しい時代の始まり!!
それは、神王の時代!
すなわち「黄金の時代」に他ならないのだ!!!
「プロローグ ミレニアムパーティー!の巻」
2000年1月1日 グラード財団総本部城戸邸―
「ハッピーニューイヤー!」
「ハッピーニューイヤー、Ms.サオリ」
会場のいたるところからミレニアムを祝う人々の歓声が沸き起こる。浮かれて、ワインを瓶ごとのみほす者、グラード財団ご用達の美しいコンパニオンに抱きつく者までいる。何せ、ノストラダムスのおかげで、迎えることなできないと言われた2000年ミレニアムの幕開けである。騒がぬはずがない。それは、若干20歳にして、国内でも有数の財団「グラード財団」の総括を務める、「城戸沙織」も例外ではなかった。
「お嬢様、今夜はいつになく、陽気ですが、何かいいことでもあったのですか?」
城戸家の執事を務めてもう、30年近くなるスキンヘッドの偉丈夫「辰巳」が尋ねた。
「夢にまで見た2000年の新年祝賀会。今まで私は、多くの仲間たちを犠牲にしながら、世界を守ってきました。」沙織は、会場の人々を軽く見まわしながら言った。
「見なさい。この人々の喜びようを。この笑顔を見れば、今までの辛かった日々も忘れられると言うものです。」
言うと、沙織は手に持ったグラスを口に持っていき、一気にワインを飲み干した。
パチパチパチッ
すると、遠くから、タキシードを着た青年が近づいて来た。この青年、背丈は、2メートルはあろうかという大男。体格もよく、肌は褐色に焼けている。しかし、金色の髪を後ろで軽く結い、右の数指には信じられないくらいの高価な宝石を戴いた指輪をつけている。さらに、その宝石で飾られた右手には、クロスで包まれたワインが握られていた。
「お見事です。ミス・沙織。」
「あら、はしたないところを見られてしまいましたわ。」
軽く、頬を赤らめながら、沙織は答えた。大男はその瞬間、左手で、グラスを持った沙織の右手を自分の方に向けさせると、先ほどのクロスに包まれたワインを3分ほど注いだ。
さらに、両の手で、沙織のグラスをお互いの顔の前まで掲げると、軽くグラスを前後させた。
「ワインは、まずこのように軽く宙にかかげ、美しいワインレッドの色を堪能する…そして、」大 男は、両の手をさっと沙織の手からどける。
「少しだけ口に含み、その香りと渋みを楽しみながら飲むのです。さぁ…」
沙織はゆっくりとワインを口に運んだ。それは、まさに、酒の神バッカスが作りたもうた最高のワインのように感じられた。
「まあ!おいしい。一体、なんと言うワイン?」
「ラカーィユ」大男は答えた。
「ラカーィユというのね。覚えておくわ。」
言い終わると、会場から、管弦の美しいワルツが流れ始めた。
「まあ。」
「私が、今日の宴のために用意しました。せっかくの夜、ともに、踊りましょう。」
大男は、いうのも終わらぬうちに、沙織の手を取り、会場の中央の宴上に導く。
「待ってください。見ず知らずの人と突然踊るわけには参りません。まずは、お名前だけでも…」 沙織は、スルスルと男の手から、のがれようとしたが、大男は、左の手で、しっかりと握りなおす。そして、
「あなたはもう私の名前を知っていますよ。」
「えっ?」沙織は、虚につかれたような顔をした。
大男は、軽くこうべを横にふると、再び沙織に向き直り、言った。
「私が、先ほどなぜワインをあなたに注いだかお分かりですか?」
「ラカーィユ!」沙織は、驚いたように言った。
「そうです!」ラカーィユは答えた。
「ラカーィユ。今回は私の負けのようですね。いいですわ。いっしょに踊りましょう。」
二人は、走るように、ワルツの輪に加わっていった。ワルツは、もう曲の半ばまで来ており、まさに、主役二人を向かい入れるのにふさわしかった。
「あ〜あ。沙織おじょうさまにもついに相手が現れちまったか?俺も年貢の納め時かな。」
と、ジーンズとジャケットという、およそこの会場の雰囲気に合わない若い男が現れた。
「なんだぁ!邪武かあ。なかなか姿を見せないから、どうしたのかと思っていたら、こんなところにいたのか。」と辰巳は言った。
「いやあね。今回の2000年ミレニアムの祝賀会に、一人所在のわからない奴が入ってきたらしいんだ。それで、お嬢様にもしものことがあったらと思って見まわってきてやったんだぜ。」邪武は肩を回しながら、足るそうに言った。
「そうか…。しかし、おまえ以外にも、檄、那智、市たち聖闘士が今回の祝賀に出ている。多少場違いなカッコをしていて目立っちまうが、心強いってもんだ。ワハハハ…。」
「チッ!こなきゃよかったぜ。何にせよ。何もなくてよかったぜ。」
辰巳は、真顔に戻ると遠くに踊る沙織を見ながら言った。
「こうして、いつまでも平和であるといいものだな。」
「まったくだ。」
邪武も答えた。
「まぁ!あなたは、フランスのワイン農場の経営者なのですか?それで、あのように美味しいお酒を。」
「ワインだけでは、ありません。その他に、麦酒、ウィスキー、蒸留酒、あと、それに最近では米から、日本酒も造っているのですよ。」
「まあ、それでは、世界中のお酒が楽しめるのね。まるであなたは、ギリシアの酒の神バッカスのよう…」
「そういっていただけると光栄です。」
二人はワルツを踊っていた。沙織は小さい頃から、社交ダンスの素養を教え込まれてきた。対するラカーィユの方も、先ほどのエスコート同様、抜群のテクニックを持っていた。しかし、まわりの者たちから、決して目立つことなくスムーズにダンスをこなしていく。
「実は、あなたに明日、もうひとつの祝賀会に出ていただきたくて今日は参ったのです。」
ラカーィユは、突如真剣なまなざしになると、そう答えた。
「今度は、何のお誘いごと?」沙織は輝くような笑顔で、ラカーィユを見つめた。
「私の会社で造った世界でもっとも美味しい酒を使って催す、神々の宴。それにあなたを招待したいのです。」やや、語気を強く、だが、決してダンスは乱れなかった。
「まあ、そんな豪華な祝賀会に私を招待してくださるのですか。喜んで、参加させていただきますわ。」沙織は、うれしそうに答えた。
「世界有数の財団、グラード財団の統括、そして気高いまでの美しさを誇るあなたにこそふさわしい祝賀です。ぜひご参加ください。」
気がつくと、ワルツは終わっていた。そして、ダンスを踊っていたものも、周囲で、歓談をしていたものも少しづつ、会場から、用意された自室に戻り始めていた。
「それでは、明朝お伺いします。今日はこれで、失礼。」
ラカーィユはいうと、沙織の手を取り、くちづけをすると、立ち去った。
翌朝、新東京国際空港。
すでに、準備を終えた沙織は、旅客機のタラップの上で、辰巳たちと別れの時を、迎えていた。
「沙織お嬢様。聖闘士を連れて行かなくてもいいのですか?あんなどこの馬の骨とも分からぬ男の宴になど参加してしまわれて。」
辰巳は、わけもわからずまくし立てた。
「何を言っているのですか?ラカーィユさまは、フランスでも有数の酒造業の経営者をなさっているのですよ。それに、参加される方も、あの海商王のジュリアン=ソロさまなど、世界きってのかたがたがいらっしゃるのです。決して、危険なところではありません。それに、一般人の方が参加するのです。聖闘士を連れていってしまっては、逆に私の方こそ怪しまれますよ。」沙織は慌てる辰巳を静かな口調でなだめている。
「では、せめて私めを。こう見えても剣道の心得があるんです。」辰巳は、剣道の面の素振りを真似しながら、答えた。
「それは、もう聞き飽きましたよ。決して危険なところではありませんから、しっかり留守番しているのですよ。」そういうと、沙織は飛行機に乗り込んだ。
「う〜む。どうも、納得ができんなあ。」辰巳は、苦虫でもかんでいるような渋い顔をして、近くにきていた邪武たち5人の聖闘士に向かって話した。
「大丈夫だよ。俺たちがついてるからよ。」
「そうざんす。」と邪武と市がそれぞれ答えた。
そしておもむろに、飛行機のエコノミーの座席に向かって歩いていった。
「おおい、おまえたちどこに行くんだ〜。」慌てて辰巳は叫んだ。
「決まってるだろ。お嬢さんをまもりにいくんだよ。」と邪武が答えた。
「自分のチケットぐらい自分で取れよ〜。がきじゃあるまいし…。ワッハハハ」と劇が笑った。それと同じに飛行機のドアが締まる。辰巳は、急いで、タラップから、離れた。
すると、5分も待たないうちに、飛行機が離陸し始める。ふと、旅客機の窓をみると、あかんべぇをした。邪武の顔があった。
「くそ〜。わしもあとからついてくぞ〜。」
地団太を踏みながら、辰巳は沙織たちを見守った。
「本便は、ギリシア、アテネ行きでございます。なお、フライトは12時間の予定となっております。ごゆっくりお過ごし下さい。」
飛行機の機内放送が流れると、座席をリクライニングしながら、腕枕をしている邪武が、隣に座っている蛮に向かって言った。
「そうなんだよ。場所はアテネなんだよなあ。」
久々にセリフがもらえてうれしそうな、蛮が答えた。
「そうだなあ。暇を見計らって、サンクチュアリにでも、顔を出しておくか。」
「そうだなあ。」邪武が軽くめを閉じながら答えた。
「ところで、今、サンクチュアリはもぬけの殻なんじゃないのか?前回のハーデスとの戦いで、ゴールドの12人はみな死んじまった。」
実際、前回の聖戦では、地獄とエリシュオンを結ぶ嘆きの壁を破壊するために、黄金聖闘士の一二人は、死んでしまった。軌跡的に助かった邪武たち聖闘士も、ハーデスとの聖戦を終え、しばしの休息を取っていたのだ。アテナの地上を賭けた戦いは、常にハーデスとの戦いであった。ポセイドン、アーレスとの戦いははるか神話の時代で落ち着いているはずだし、ハーデスは前回の聖戦で死んでいる。他に戦うべき神はもう存在しないのである。
「何か、ひっかかる。」
いつまでも、眠れないでいる邪武が、ウトウトとしている、隣の蛮に話しかけた。
「なにがだ〜。」
「やがて、火星(マルス)が幸せのうちに統治するであろう。」
ノストラダムスの一説を邪武が口にした。蛮が、突然起きあがって邪武に答えた。
「あぁ?あんなのは、ウソだろ。まさか、おまえ、アーレスがこの後に及んで、俺たちに戦争をしかけてくるとかいうんじゃないいだろうなぁ?」
「そうはいわねえ。だが、何かひっかかる。あのノストラダムスの予言が。」
「気にしてらんねぇなあ。もう俺は眠くてだめだ。くだらない話しなら、明日にしてくれ。」
「おい!2度とセリフがなくなっても知らねぇぞ!」
しかし、蛮はもう意識もなく、グウグウと寝息を立てていた。邪武もそれを見て、一眠りすることにした。
「まもなく、アテネに到着いたします。着陸いたしますので、シートベルトを締めてください。ご利用ありがとうございました。Attention, please! Soon, We arrive to Athena…」
「おら、もうついちまったぞ。おまえのおかげでちっとも寝れなかったじゃないか!」
蛮が眠そうな目をこすりながら、邪武にぼやいた。
「まあ、そういうな。久しぶりのアテネだぜ!ゆっくりしていこう。」
邪武たち5人は旅客機から、降りた。
沙織は、ラカーィユにエスコートされながら、アテネの地に降り立った。空港には、すでに、ラカーィユのところのものと思われるリムジンが到着していた。ラカーィユは、沙織の手を引き、案内する。
「ここから、北へ数十キロ下ったところに、会場があります。そこは。オリンポス山と呼ばれるギリシアきっての霊峰です。」
「知っておりますわ。まるで神様みたいね。」
「そうです。神々の宴といったでしょう?」
沙織はラカーィユに従い、リムジンに乗り込んだ。
未だ、現れぬ星矢たち5人。さらに、謎の大男ラカーィユは何者なのか?
キミは小宇宙を感じたことがあるか!?
感想どしどし、お待ちしてま〜す!