聖闘士 星矢
〜Last Chapter The Olympus〜
第10話「ギリシアの太陽!!の巻き」
オリンポス山。それはひとつの山ではなく正確にはいくつか連なる山脈である。古代よりギリシアではその山の険しい風貌といくつもに連なる山々の姿からオリンポスの12神のすむ山として恐れられた。12神はそれぞれの山に自らの住む神殿を立てた。アテナの聖闘士たちの集まる聖域(サンクチュアリ)もこれら一体に近いところに位置するが、厳密にはオリンポスにはない。あくまでオリンポスは神々のすむ最終的な場所であり、聖闘士といえども、神の住むオリンポスに近づくことはできないのだ。
オリンポスの最奥、もっとも高いところに位置する神殿は比較的小さいものであった。奥行きはおよそ数メートル四方で、人が数人集まればそれだけで狭いと感じてしまうほどだ。そんな中に2人の男が話し合っていた。
「わしはこれから、すべての見渡せる天界へと赴く。まさかこの神殿まで聖闘士たちが攻め上がってくることはまずないと思うが、アテナの監視ともに厳重に行うのだ。」
「わかっております。神王ゼウス様の住まわれる神殿には虫一匹いれませぬのでご安心ください。今回のオリンポスの警護をおおせつかったからには必ずや聖闘士人間どもを蹴散らせて見せます。」
自信ありげに語った男は金色の輝く髪を持つ男だった。赤色の大きなマントを羽織り、パールのような輝きを持つサークレットを額につけていた。若く非常に理知的な顔立ちをしており、ひとみはやはりサークレットと同じようにパールのような美しい輝きを秘めていた。それからも彼が普通の人間ではないことは一目瞭然だった。
「分かった。お前を信じることにしよう。」
そういうとゼウスは神殿の中央に位置するクリスタルで出来た機械的な仕組みを持つ転送装置なようなものに乗りかかった。
金色の髪の男が、それを見て一瞬胸をなでおろすと、転送装置に一度乗った大神が、再び金色の髪の男に声をかけた。
「そういえば、アポロン。アテナはすでに到着しているのであろうな。先ほどからアテナの小宇宙が感じられないように思えるが。」
アポロンと呼ばれたその金色の髪の男はアテナのまだ到着してない事実を正され、一瞬たじろいだが、それをフォローするかのように、神殿の入り口から、声がした。
「それについては問題はありません。」
アテナであった。
「ア・・・アテナ、なぜここに・・・!?」
アポロンはまるでそのことを予想していなかったかのように青ざめた顔をしていた。
「アポロン。私がここにやってきたことに少し驚いているようですね。」
ただ、アテナがこの場所にきたことも驚きであるが、それ以上に驚くのはアテナがかつての聖戦で纏っていたあの神々しい聖衣を纏っていることであった。また、左の手にはアテナの大きな盾が、そして右手には神だけがもつことの許されるオリンポスの剣を持っていた。
「おぉ!アテナか!その格好はよもや私を殺めようというのではあるまいな。」
ゼウスがそういうと、アテナは不適な笑みを浮かべると左の手に持つ盾をゼウスに差し出すかのように構えて答えた。
「父王ゼウス。私がどのように、そして何のために生まれたか覚えておられぬのですか?」
アテナの答えにゼウスは大きくうなずくと、
「そうか!アテナは守護の神。そして今のおまえのようにお前は私を守るために全身を聖衣で包まれた格好で生まれたのであった。」
アテナはニコリと微笑むとさらに続けた。
「今回は神と人間の戦い。アテナは守護の神、この神殿を守るために尽力いたしましょう。」
ゼウスも大きくうなずくと、アテナの頼もしい姿勢を後にし、転送装置を稼動させようとボタンに手を伸ばした。
しかし、それは再び、アテナの言葉によって、さえぎられた。
「しかし、最後にお願いがあります。」
「なんだ、申してみよ。」
ゼウスはそういうと、ボタンを押す手を止め、再びアテナの言葉に耳を傾けた。
「実は私、うっかり聖域(サンクチュアリ)のアテナ神殿に忘れ物をしてしまいました。」
「そんなものはとりに行けばよいではないか?」
ゼウスがそう切り返すが、アテナはそれを聞かず続けた。
「その忘れ物は人間たちへの最後の贈り物としたいのです。」
アテナの言葉に後ろで話を聞いていたアポロンの顔に笑みが浮かんだ。
ゼウスはその話を聞いてすぐに察しをつけるとアテナに無言でうなづいた。
「ありがとうございます。私はこれで下のオリンポス神殿に移り、オリンポスの警護を取り仕切ろうと思います。」
「分かった。警護の任、おまえにまかせよう。」
先ほどと話が違う。今回のオリンポスの警護はアポロンに任されたはずである。成り行きな展開に、アポロンはすぐにゼウスにすぐに陳情する。
「神王!今回の聖闘士たちへの守護の件、私めに任せたではありませぬか?なぜ、人間サイドの味方であったアテナにその任をゆだねるのです。」
「アポロンよ。お前はアテナが守護の神であることを知っておろう。今まではアテナがオリンポスに到着しなかったためにお前にその任をまかせていたにすぎぬ。それにこれまでアテナの守護してきた人間は数々の天災、そして神からの挑戦も退けておる。その事実をよもや知らぬのではあるまいな。」
「承知しております。」
「では、おとなしく自分の神殿に戻るがよい。」
ゼウスはそういうと、転送装置のボタンを押し、いずこへと消え去った。
「さぁ、父王のおっしゃられたとおりです。これからはオリンポスの警護は私、アテナが勤めます。あなたもご自分の神殿を守護なさい。すぐに星矢たち聖闘士がこの神殿に向かってくるはずです。星矢たちはハデスを打ち滅ぼしたほどの実力の聖闘士たちです。甘く見ると、あなたですら、手を焼くはずですよ。」
アテナがそう促したが、アポロンは先ほど浮かべたのと同じように薄笑いを浮かべ、答えた。
「残念だが、聖闘士どもはこのオリンポスのいかなる神殿をも破ることは出来ない。」
さらにアポロンはアテナの右の手を取り上げ、その剣を指差した。
「アテナ!貴様の考えはすでに先読みさせてもらったぞ。オリンポスの12神に、戦いの神は2人いる。一人はあなた。守護の戦い、そしてその象徴である盾を持つ。しかし、その右手に握る剣は本来別の人物が持つはず。何ゆえこのような場所にその剣を持って現れたか?」
アポロンが言うと、さすがのアテナの顔にもたじろぎが見えた。
「まぁ、いいでしょう。あなたの考えは分かっています。この神殿内での警備の取り仕切りはあなたに任せましょう。くれぐれも血の気の多い神をなだめすかしておくことだ。」
アポロンは立ち去ろうとする。神殿から出ようとするそのとき、再びアポロンは誰に言おうともなくつぶやいた。
「早まったことをしてくれなければよいが・・・」
アテナの顔に不安がよぎる。
聖域(サンクチュアリ)
「よぁ、またせたな!」
星矢たち集まる聖域のアテナ神殿では、たった今一輝の弟子オデッセウスたちが到着した。
しかし、それを知らない星矢たちは
「誰だ?こんな聖闘士いたっけか?」
と首をかしげる振りをする。あまりの拍子抜けする展開に肩透かしを食らったオデッセウスたちは、自分たちを馬鹿にする星矢たちに言った。
「俺たちはアルゴルの聖闘士だ!フェニックス一輝から言伝があってやってきたんだぜ!聞きたくないなら、もう言わないぜ!!」
オデッセウスは星矢から顔をそむける。それを見てなだめすかすように、星矢とオデッセウスの間を邪武が取り持つ。仲介の苦手な邪武は二人の間に油を注いでしまい、余計混乱させた。
「どうも、聖闘士には血の気が多いやつが多くて困るな。」
氷河が言うと、
「なんだか先が思いやられるよ。」
と、氷河の弟子のヤコフが言った。
そんなのどかな光景を繰り広げているわけにも行かないはずだが、その代わりにアテナ神殿の裏のアテナ巨像の異変に気がついた貴鬼がやってきた。
「大変だよ!沙織さんが、アテナがいなくなってから一度は戻ってきていたアテナの巨像がなくなってるよ。」
「なんだって、その異変に気が付いた星矢たちは、争うのをやめあわただしくアテナ巨像の現在は跡地に向かった。
「ない!」
たしかにアテナの巨像はなかった。
アテナの巨像については先の聖戦でも多く語られているが、ここで再び説明しよう。アテナの巨像は前回の聖戦で前教皇シオンが語ったようにアテナの血によって、アテナ自らの聖衣に生まれかわる。ここに巨像が存在しないことは、アテナが自らの血によって聖衣を復活させ、オリンポスに赴いたことになるのだ。
そのことに気づいてしまった星矢たちは今後の戦いがいかに過酷なものであるかをまざまざと思い知らされた。
「アテナが俺たちと、人間と戦うために聖衣を・・・」
星矢たちは愕然とした。アテナは完全に俺たちを裏切ってしまったのだろうか?
しかもアテナの血はない。以前のように聖衣を神衣に近づけて戦うことも不可能なのだ。
「残念だが、そんな世迷言を言っている輩は12神と戦う資格など持ち合わせていないようだな。」
星矢たちの影から、紫龍と幼い少年が現れた。
「星矢、お前はアテナがなんのために今まで俺たち人間を守ってきてくれたか分からないのか?今回は私たち人間がアテナから与えられたすべてのものを結集して自立する最後の戦い。こんなところで怖気づいているわけにはいかない。」
紫龍の言葉に星矢も思い前し再び呼応する。
「そうだ。俺たちは世界のみんなのために戦わねばならないんだ。」
星矢の呼応に喚起にあふれる聖闘士たちは次々に
「そうだ!最後の聖戦だ!!」
「世界を守るんだ!!」
「人々に勝利の栄光を!」
そう叫んだ。
聖衣を纏うと、次々にオリンポスに向かおうとする。
紫龍と星矢は足早に聖域を飛び出す。氷河もすでにオリンポスに向かったようだ。
「氷河待ってくれよ!俺も行くよう!!」
氷河を追いかけるヤコフ。しかし、
「あいたた・・・」
それを見て、ついさっき到着したばかりのオデッセウスたちが立ちはだかり、オリンポスに向かおうとする聖闘士たちを食い止めた。ヤコフは立ちはだかるオデッセウスにあたったのだ。
「待て!今はまだ早いんだ。」
「どうしてだい?」
ヤコフは問いただす。しかし、
「それがさっきから、言おうとしていた。師一輝からの言伝なのだ。」
オデッセウス自身も納得の行かない表情を浮かべている。
「どうしてなんだい?」
「分からない。とにかく待てというのだ。」
聖域(サンクチュアリ)入り口
「ここがアテナのテリトリの聖域か・・・」
一人のローブをかぶった男が聖域の入り口に現れた。
「出でよ。戦闘士たち!」
ローブの男がそう叫ぶと後ろから、十数人の男どもが現れ、ローブの男にひれ伏す。
「すでにアポロンから命令は来ている。ここの奥にあるアテナの神殿に隠された宝を奪うのだ!!」
「任せてください。すぐに手に入れて見せます。」
戦闘士たちを割って一人の男がローブの男の前に現れた。フォボスだった。
「分かっているな。フォボス。お前たちの苦しんだあの一輝どもを八つ裂きにしてこい!ミスはもう許さんぞ!」
「かしこまりました!」
そういうとフォボスは
「行くぞ、戦闘士!アテナの財宝手に入れて見せよう!!」
ついに、始まろうとする最後の戦い!
第11話「アテナの忘れ物!!の巻」
キミは小宇宙を感じたことがあるか!?
感想どしどしお待ちしています!