聖闘士 星矢

〜Last Chapter The Olympus〜


12話「激突!!牡羊座・貴鬼VS恐怖の神フォボス!!の巻」


――――オリンポス神殿

「さぁ、ここがオリンポスの神殿だ。」
 ダイモスは星矢たち4人をオリンポス神殿の入り口まで導いた。
「はぁはぁ。思っていた以上に空気が薄いね。」
 瞬が息を切らしながら星矢たちに言った。
「それもそのはず、ここオリンポスは神しか立ち入れぬ神聖な場所。通常人間が来るようなところではないのだ。」
 オリンポスは特別高い山ではない。この程度の標高は世界にもあまたある。しかしオリンポスはギリシアに住む神の山として昔から神聖な山であり、その山中の世界は人間が居着くにはいささか難しいものがある。あたりは深い霧に覆われている。一度人間が迷い込めば、深い霧と寒さとで、途中で餓死してしまうだろう。星矢たち一行がやってくる途中にも、幾多の屍が転がっていた。それはこれから戦うはずである12神と人間の大きな境界であるようにも思えて、あまりいい感じはしない。
 ダイモスはなおもオリンポスを歩きつづける。入り口の門を過ぎてほどなくすると、石造りの小さな小屋のようなものが見えた。官舎のようだ。
「本来は人間などに与える部屋などないのだが、明日の戦いが始まるまではここで待っていてもらうしかないだろう。」
 ダイモスはそういうと、官舎のドアを開けた。中は数人が寝泊りできるようなつくりにはなっていたが、もちろん人数分のベッドはないし、神々しいオリンポスには似つかないほどの汚い部屋だった。
「戦いは明日の日の出とともに始まる。それまではここで待機してもらおう。」
 そういうと、ダイモスは冷徹な表情を浮かべながら、官舎のドアを閉めた。

 

 ダイモスがドアを閉めると外にはヘルメスが立っていた。
「ダイモス殿。無事に聖闘士どもを部屋に誘い込んだか?」
「はい。全員無事に。あと、フォボスを困らせたあの一輝ども一派をまだ捕まえることができません。」
「そうか。まあ、よい。とりあえず、聖闘士どもをそこに寝かしておけ。明日になれば分かる。今のままではわれわれには絶対に勝つことはできないということをな!」
 ヘルメスはそういうと、すぐに官舎の前を立ち去った。
 そのまま、ヘルメスは自分の宮殿に立ち戻ろうかと足を進めるが、程なくしてアレスの配下の戦闘士が現れて、ヘルメスにこう申し出た。
「大変です。なにやらアレス様のご機嫌が悪いのです。すぐにアレス神殿まで来ていただけないでしょうか?」
 ヘルメスはまたしても起こるアクシデントに驚いた。
「ばかな。これで、今回の件はとりあえず何事もないはずなんだが…」
 本来、聖闘士の力封じをするためにアレスと奇襲の作戦を企てたヘルメスであったが、聖闘士にアテナのニケの話を伝えてしまい、その尻拭いにフォボスを聖域に残す苦肉の策をとった。この状況なら、特別に12神がとがめられるわけもなく、とはいえ、聖闘士の力封じもフォボスが聖闘士どもを一毛打尽にしてくれれば問題ないはずなのだ。
 何が問題なのか?今回の一連の騒動の策士であるヘルメスは、一抹の不安を感じながらもことの真相を確かめるために、アレスの元をいそぎ訪れるしかなかった。
 ヘルメスがアレス神殿に到達すると、アレスは苦虫を噛み潰したような顔をして、おちつきなく神殿内をうろうろしていた。時折、耐え切れなくなり神殿内の柱を蹴り飛ばしたり、戦闘士を半殺しにしたりするなど、それこそダイモス・フォボスや他の12神でないととめることの出来ぬような信じがたい光景が繰り広げられていた。
「アレス殿!」
 ことの重大さに気づいてすぐさまアレスに話し掛けたヘルメスだったが、アレスはその声を聞くと、まるでヘルメスであってさえこの後殺されてしまうのではないかというほどの恐ろしい形相であった。
「ヘルメス!」
 アレスはそういうと、立ち止まりヘルメスに対してさらに続けた。
「聖域にハデス配下の冥闘士たちが集まり始めているという話を聞いたぞ!一体どういうことだ!」
 なぜ、冥闘士が?それは謎であった。ハデスは前回の聖戦で完全に滅びたはずである。ヘルメスは考えた。ハデス亡き冥界。そしてそこに行き来できる人物がいるのだろうか?ヘルメスは考える。そしてひとつの答えが頭をよぎる。
「そうだ。エリスが動いたのだ!」
 エリス。それは争いの女王であり、アレスの双子の妹でもある。アレスとエリスは常に争い、そして戦いあって、数多くの死人を出した。そして、その死人たちの中でも特に優れた戦闘士たちは、冥界に赴き、ハデスの冥闘士となって死んでからもなお戦い続けることを宿命付けられるのだ。しかし、その大いなる戦争の2神の争いも神話の時代末期に終止符が打たれる。アレスとの最後の戦いにおいて敗北したエリスは冥界の奥深くへと封じ込められたのだ。それが前回の聖戦においてハデスが滅びたことによってエリスのその争いへの箍をはずしてしまったようなのだ。争い多き現代、それはこのエリスの復活に伴ったものかもしれないが、少なくとも戦争の神として勝利したアレスにとってはうれしいこととはいえない。
 ヘルメスは愕然とした。エリスはハデスと同様に12神ではない。地上制覇をもくろむハデスに変わって冥界を支配し、そして12神、地上ともに手中に収めようとしていることはいともたやすく分かるだろう。
「ヘルメス!わしはエリスと戦いに行くぞ!!」
 早足にヘルメスの脇を通り過ぎると、再び聖域へ向かおうと足を進める。
「…。」
 ヘルメスはアレスを止めるべきであったが、もはやとめることなどできようはずもなかった。願わくば、このエリス復活の原因が自分らにないことを祈るしかない。ヘルメスはその場を立ち去ると、自らの神殿に戻った。

 

――――聖域「白羊宮」
 そこでは二人の男が向かい合っていた。白羊宮を守る聖闘士「貴鬼」。もう一人は正確には人間ではない。恐怖の神「フォボス」だった。
「さあ、倒せるものなら、おいらを倒してもらおうか!」
 貴鬼が挑発する。しかし、フォボスはそう簡単には手を出さない。
「牡羊座(アリエス)の貴鬼といったか?前聖戦の黄金聖闘士直伝の技、見せてもらおうか!」
 フォボスは、大の字に構えて、ゆっくりと呼吸する。貴鬼も同時に意識を集中させる。するとじわじわと二人の周りの地面から岩や石畳がはがれて宙に浮き始めた。
「ムウ様直伝のテレキネシスと戦おうとはおまえもなかなか度胸のある奴だな!」
 貴鬼はなおも挑発する。もはや二人の足場以外には地面などなくなったかのような状況になっても二人は念じをやめることはなかった。しばらくして…

ゴ・ゴ・ゴ・・・

 わずかの間中空で静止していた岩が、ゆっくりと貴鬼を中心に回り始めた。それはフォボスの立つ付近までをも含め大きな渦となった。
「何!?」
 フォボスは驚きを隠せない。しかし、貴鬼の周りの岩はその回転のスピードをますます上げ、ぶつかっては砕け、一部は融合し大きくなる。小さいものは外へ、大きいものは中へ。さながらそれは太陽系の惑星たちのようでもあった。
「みろ。フォボス!これがおいらたちの住む太陽の生まれる姿そのものさ!」
 ぶつかった火花はもはや火という次元ではなく、明るく光り輝き、あたりを照らし始めた。
「見ろ!そして、おまえの体に焼き付けるんだ!太陽の生まれる様を!!」
 貴鬼は大きく息を吸い、そして、両手を広げると、大きくその光の渦をあたりに撒き散らさんと舞った。

「食らえ!!

   スターライト・エクスティンクション!!!」

 光はあたりに発散し、フォボスの体を大きく包んだ。フォボスはどこかへ消えてしまったかのようだった。しかし、
「星のかけらはどこへ行く!!」
 光の中から、声が聞こえると二人を包む大いなるスターライトの中から黒い影がひとつ見え始めた。それはみるみるうちに大きくなると、急に方向を変えて貴鬼に向かってきた。

 「メテオ!インパクトォ!!!」

 大きな岩の突進に備えて、貴鬼はすかさず体制を取り戻し、今度は近くの光を使って大きな球状のバリアを描き始めた。

「クリスタルウォール!!」

 岩は光の壁の前にふさがれたかにに見えた。しかし、そうではなかった。岩はまるで球状のバリアの面に沿うように進むと、何事もなかったかのようにバリアをすり抜けて中に進入した。
「馬鹿め。球状のバリアなどに意味があるか!」
「ぐわ〜!!」
 岩は見事に貴鬼の体に命中してしまった。胴をかすっただけだったが、あたった部分には黄金聖衣でありながらも見事に焼け跡が残っていた。
「太陽系の塵はどこへ行った?」
 貴鬼は相手の存在に大して何も考えずに技を繰り出したことを悔やんだ。
「おまえが、太陽系の始原を知り自分の護るこの宮の存在に留意したことは大いに認めるべきだろう。しかし、このオレが何者であるか知らぬわけではあるまいな!」
 貴鬼は気づいた。この神がどこから生まれた神であるのか?
「星のくずはこのフォボスとダイモスが統べるのだ!!」
「!」
 貴鬼はそのとき気づいた。
「そう。我々を守護するアレス。それはかつてから戦いによって生まれる血の星『火星』を守護に持つのだ。そして、火星のすぐ外側には小惑星と呼ばれる星々のかけらが存在する。」
「そして、その小惑星は太陽系が誕生したときの残骸。光り輝く太陽系誕生史の中で、影に隠された負の部分さ。」
 フォボスは軽く笑みを浮かべるとさらに続けた。
「そして、その残骸の中から、ただ2人、大いなるアレスに選ばれた戦士がいたのだ!そして、その二つの星は不気味な様相から火星とならび恐怖のどん底へと陥れる神となったのだ。」
「…」
 貴鬼は何も答えられない。フォボスはそうして再び手を前に合わせ念じると、大きく息を吸い、叫んだ。

「再び食らえ!

     メテオ!!インパクトゥ!!!」

 以前にもまして、岩の数が多くなると今度は何も防御策を考えるひまもなく貴鬼に命中した。
「ハハッハッハ!!」
 貴鬼は隕石を体に受け、その場に突っ伏せる。
「早くも白羊宮突破か?これが地上を統べるアテナの聖闘士とは笑わせる!」
 そういうとフォボスは後ろにつれていた戦闘士を引き連れて金牛宮の方へ歩き始めた。

 貴鬼は完全に期を失ってしまった。
するとそこには小さいころの自分が移り始めた。
「おいらやっぱりだめだよ〜。」
自分は大きな石の前で、テレキネシスの練習をしているようだった。貴鬼が念じても一行に石は動かない。やがて、大きな石を動かすことを諦めた貴鬼は、近場にある小さな小石を宙に浮かせ始めた。いくつかの石を宙に浮かせておはじきみたいに遊んでみせる。
 そうこうして遊んでいるうちにひは少しずつ傾き始めた。
「まずい!今日はこの大きな石を壊さなければ、ムウ様にしかられてしまう!どうしよう!?」
 言うが早いか貴鬼は少しずつ大きな石に念を入れ始める。しかし、先ほどと同様に石は一行に動かない。
 いいかげん日の沈んでしまったとき、貴鬼は泣き始めた。
「また今日も家に帰れないよう!」
 貴鬼が石の前で泣きじゃくっていると、その師匠であるムウが現れた。
「どうした?貴鬼。石は壊せたかい?」
 しかし、ムウの前に現れたのは泣きじゃくる貴鬼と何の変化もない大きな石があるだけだった。
 ムウの登場に気が付いた貴鬼は慌てて改まり、ムウにこう言った。
「ムウ様。申し訳ありません。一日中念じましたが、まだ石を壊せていません。」
 それを聞いたムウはもう一度聴き返した。
「貴鬼。一日中ちゃんとこの石を壊そうとしていたかい?この周りに不自然に散らかる小石はなんだい?」
 すべてを見透かされてしまった貴鬼は正直に遊んでいたことを言うとムウは機嫌をいなおして貴鬼にこう言った。
「貴鬼。私がこの大地をこの拳によって壊すことができるかい?」
「はい。」
 しかし、ムウは首を横に振るとこう言った。
「この大地は私にも壊すことはできない。それはこの大地は地球という大きな魂のひとつだからだ。」そして、貴鬼の遊んでいた小石をひとつ拾うと
「しかし、そこにある大きな石は大地とは違う。ほらこうして、小石とこの大きな石のこの部分と比べてみれば。。。」
 小石と同様に大きな石は無数の割れ目によってひとつの石ではなくいくつかが集まってできていることが分かった。
「以前私は、キミにすべての物質は原子で出来ていることを教えた。それはすべてのものについて言えることだ。」
 ムウは後ろを向き、貴鬼にいった。
「さあ、答えはもうすぐだ。ご飯は用意しておく。冷めないうちに帰っておいで。」
 ムウはそういって貴鬼の前から立ち去った。
「この小石と大きな石がいっしょ?」

 


貴鬼がムウから教わった秘策とは!?

第13話
小惑星の反乱!!の巻
キミは小宇宙を感じたことがあるか!?
感想どしどしお待ちしています!
2002年5月16日更新予定!!


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