聖闘士 星矢

〜Last Chapter The Olympus〜


15話「タウラスの心!!の巻


 

カナダ・ロッキー山脈

 少年が自分より小さいのではないかという細身の青年に向かって走る。
「ぉをををお〜!!!」
 少年は渾身の力で青年に向かってラリアートをかけるが全く利かない。いや、正確には青年は避けもしなかった。わざとラリアートを喰らってやったが、まるで蚊でもぶつかってきたかというような涼しい顔。少年は怒りを顕わに青年にパンチだのキックだのヤケッパチに攻撃をしかけるがまるで無駄。いいかげん飽きてその場に座り込んだ。
「どうした檄君。キミの自慢の技はどこへいったんだ?」
 青年が涼しい顔をしてそういってのけた。
「何度も言うようだが、私はあと一月もしないでこのロッキーを去る。次はカムチャツカの方に抜けてシベリアで闘士を探す予定だ。」


 檄が飛ばされたこの地には師となるものはいなかった。本来は師と仰げる聖闘士が修行する場で待機しており、そこで訓練をつむはずだ。しかし何かの手違いで檄には師がいなかった。檄はそれでも修行をとカナダの海岸に下りては乱暴な荒くれ者と喧嘩をして自分の腕力をあげる毎日。体格のいい檄はすぐに町の頂点に立った。そんな中、町のクラブに一人の青年が現れた。その男は聖闘士だといった。
「よう!この店にはオレたち以外の男ははいっちゃいけないことになっているんだが・・・。」
 檄がその青年に言うと、後ろにつれてきている柄の悪い連中もクスクスと笑い始める。
「ヒヒヒ・・・、あの細身が檄の大将に勝てるはずがねぇな。」
 男は無言でマスターと顔を合わせると、メニューを指差し、オーダーを取ろうとした。しかし、マスターは何も言わないし、頼まれたメニューも作ろうとはしない。というよりはそこをまったく動けないのだ。
「おいおい、にいちゃんよぉ!!マスターはおめえの注文なんざ作りたくないってよ!!」
「ヒッヒッヒ!!」
 しかし、青年は檄の言葉に動じることもなく、カウンターの椅子に座りつづける。
「おい!!」檄がそういうと、
 檄を中心とする柄の悪い集団は、青年の周りを囲んでついにはその青年を追い出そうと動き出した。
「この店はオレ様のテリトリーなんだ!残念だけどよ。出て行ってもらおうか!!」
 檄は、男に向かってその大きな拳を上げた。
 マスターはいつもどおりのその光景から目をそむける。
 フォォォォォンッ!!
 空振り!?
 男は1ミリと動かずその椅子に座るだけだ。
「おかしい。もう一度。」
 檄は拳を上げるが、またしても空振り。そして、
「!」
 ズシャァァァ―――!!
 檄は何があったかよく分からないが、店の後方数メートルのところまで簡単にふっ飛ばされた。 
「!?」
 何があったのか檄にはまったく分からない。やだ、全身の骨がうずくようなすこぶる想いけだるさのみが残る。当然男は全く動いていなかった。
「よくわからんが、もう一度この拳を・・・。」
言い終わる前に、何かが檄の前を光ったかのようにみえたが、そのときにはすでに遅かった。
「バ、バカな!!」
 そのわずかな間に、男は檄の首をつかんで離そうとしない。
「こんな男の体のどこに!!ヒィィィ!!」
 檄の取り巻きは一斉に逃げさる。
 青年は檄よりもはるかに細身のはずなのにまるでつるし上げられるかのようなその力はもはや人間技ではなかった。
「檄!!聖闘士になりたくば、そのまま、この町の東。お前が本来修行すべきロッキーの山奥に来い!!」
 そういうと、男は檄の首から手を離すとその場からきえてなくなった。
檄はしばらくその場に唖然としていたが、程なくして立ち去った。

 

1ヶ月!
2ヶ月!!
そして、3ヶ月を迎えようとしたが、檄は一行にその生活を変えることなく、町で暴れまくる。そして、いつものように一人の少年に喝を入れているときだった。
 つるし上げた少年は怖気ずくこともなく、こういった。
「お前なんか怖くもない。この町の山奥に潜む偉大な黄金のバッファローがオレを守ってくれるからだ!!」
 いくら檄が脅しても、少年は涙をこらえながら、無言で檄の脅迫に耐える。
 あまりのいじめがいのなさに檄は
「チェッ!!」
 少年を解放する。
 少年は檄に見向きもせず、山の方へ向かう。その姿を見た檄は
「貴様!!どこへ行く!?」
「お前などにいうものか!!今月が何の日か忘れたのか!!」
 そういうと少年はまっすぐに山に向かった。
 この町では、4年に一度、大いなる黄金のバッファローがロッキーの山奥に降り、少年たちに勇気と本当の強さを与えてくれるという。事実この町からは有名な政治家や大会社の社長を排出するなど、片田舎では考えられないほどの少年たちの成長ぶりであった。
「あのジャップのおかげでこの町のモラルは地の底だな!!」
 そんな声もあちらこちらからささやかれていた。
 その日は何かがそもそもおかしかった。常に檄の周りにいた取り巻きも今日に限っていない。そして、檄を指差す町の住人の声もまるで檄をあざ笑うかのように聞こえた。
「すべてがむしゃくしゃする!!クソ!!」
 そんな中、怪しい黒服を来た日本人が檄の前に現れた。そして、一枚の手紙をよこした。
 檄はそれに目を通す。なんと自分のビザの有効期限が切れるという内容のものだった。
「檄!!残念ながら、お前は他の子供が軒並み聖闘士としての修行を始めているというのに、まったく進歩がないという聖闘士からの報告があった。残念だが、後数日でお前の命はない。」
「日本に返してくれるのか!!」
 檄はほとほと呆れたこの町の住人に嫌気が差していたものだから、そういった。
「バカか!!キミにやる旅費など一銭もない。お前の旅費はあと5年はないはずだ。」
「じゃあ、どうすれば・・・」
「この町でのたれ死ぬか・・・さもなくば数々の悪行から、全米で逮捕され、祖国に泥を塗ることになるな!」
「そんな汚点をグラード財団が許すのか!?」
「そうなったときはわが財団が抹殺するまでだ。。。」
そういうと、男はどこへともなく消え去った。
 檄はあまりのことにあわてて町中を走り回った。そして唯一の頼みであるその山奥に逃げ込むことだけを考えた。
 山奥にはたくさんの少年が一人の青年に向かって戦いを仕掛けていた。しかし、その大柄の青年に勝てるものは誰一人としていなかった。檄はその一部始終を見ていた。仲には檄の取り巻きもたくさんいたが、誰一人としてその大柄の青年に不正を使うことなく、男としての真っ向勝負を挑んでいた。
 しばらくその、独特の儀式を檄は呆然と見ていた。すると、少年たちはみんな倒され、地に伏せていた。
「もう挑む。少年はいないか!!」
 大柄の青年はそう叫んだ。
「もういないか!!いなければこの大いなる儀式は終了する!!」
「待て!!」
 檄はそういうと、大柄な男の前にたった。
「少年!!名前は?」
「檄!!」
 少年は大柄の男に挑戦した。たたかいは丁度相撲の4つのような状態になった。少年は渾身の力を振り絞ると大柄の男はすっと力を抜き、あっさりと降参をした。
「参った!!お前はこの大いなるバッファローの加護を受けるにふさわしい男だな!!」
 檄はそれを聞いて安心した。しかし、それもつかの間、大柄の男の後ろから声がした。
「ようやくきたか!檄君!!」
 大柄の男の後ろから現れたのは以前町のクラブにいた細身の青年だった。
「師よ!この少年は聖闘士としての資質が十分あるようですが・・・」
「だめだ!!アルデバランよ!お前は12宮にて、この町の様子をみていなかったろうが、この少年の素行は目にあまるものがあった。しかも以前ここに来いと言ったはずだったが、こない。よって失格だな。」
 そう青年はいうと、アルデバランと言われていたその大柄の男をギリシアへ帰るよう促した。
「それでは師よ。失礼いたします。」
 大柄の男は消えた。
「檄よ。私はこのアメリカ大陸の中に存在するバッファロー伝説を持つ村をあと3つほど回らねばならない。およそ3月ほどかかる。もしその間にこの山奥で修行をやりとおすことができたら、大いなる黄金のバッファローの加護を与えられるかもしれん。」

そういうと、青年はその場から消え去った。

 檄は見違えるように修行をした。厳しい寒さ、そして過酷な環境のもと、檄はひたすら耐えた。それはまさに生活するだけで修行といえるほど厳しいものだった。檄はあるとき改心し、ひとつのことに気づいた。
「これは本来は師がこの町を訪れるまでこの過酷な環境に順応せよということだったのかもしれん。おれは数ヶ月、いや1年近い歳月を無駄にしていたのだ!!」
 

 2月ほどしたとき、しだいにその過酷な生活にも慣れ始めていた頃のことだった。夜、いつものようにテントで寝入ろうかと目を閉じたときのことだった。檄の目の前でとんでもないことが起こった。目の前に大きな灰色熊が立っていたのだ。よくよく考えればあたりまえなほどの話だ。これだけの環境で熊がでないはずがない。しかし、孤児とはいえ、東京暮らしの檄に分かるはずもない。檄は慌てたが、もはや熊は自らの体を食いちぎろうと伺っていた。檄は必死になって、以前アルデバランと呼ばれていた大柄の男にかけた4つで熊と合わさった。
「ぐおお!!」
 熊の力は半端なものではない。いかな格闘家といえども力での真っ向勝負に勝てるはずがないのだ。しだいに檄は圧倒されていく。熊がすぐそこにある劇の首をかみちぎろうとしていた。もうおわりだと思ったそのとき、檄の中で何かがはじけた。
「そうだ。あのクラブで男が見せた技!!」
 檄は一瞬力を抜き、熊の体から離れると、熊が襲ってくるのをまった。
「!」
 熊が襲い掛かってきたその瞬間、、、
「ぅおおおお〜!!」
 檄は瞬時に熊の首をつかんだ。そして一瞬力をこめるとあれほど強固なはずの熊の首が簡単にへし折れた。そして熊の息は絶えた。
「はぁはぁ・・・」
 檄はあまりの出来事に騒然としていた。しかし、このとき得た熊をへしおる技は修行中使うことはできなかった。

 

「檄君!!キミは熊と戦ったか!!もし戦ったのならあのときの力をもう一度見せてみるんだ!!そのときタウラスの本当の力をえるだろう。」
 檄の中で何かが再びはじけた。あのときの灰色熊を倒したときのことが脳裏によみがえった。
「ハンギングベアー!!」
 檄は思わずそう叫んでいた。
 細身の青年は檄につるし上げられると、満足げな表情を見せ、檄の両手を自らの手で解くと檄の前に立ち言った。
「檄君!!合格だな!!これからこの私といっしょにこのロッキーの地で修行しよう。
 檄はそのとき、初めてこれから師になるこの男の本当の強さを知った木がした。
「私は、牡牛座(タウラス)のプレアデス。よろしく頼む。」
 

「ばかな!!」
 ラダマンティスはそういった。檄の技が一瞬はやく決まったのだ。
「この檄最大の奥義、ハンギングベアにかかってのがれることはできない。」
 ラダマンティスは必死になって、檄の両の腕を解こうとしたが、まったく動かない。
「ぐおおおお!!」
 檄はラダマンティスが振りほどこうとするその力に反発するかのように、小宇宙を燃焼させていった。ラダマンティスは息も絶え絶えに檄に向かって言った。
「檄!!このまま、私の力にはむかいその圧力を上げればいずれは黄金聖衣といえどもその強度に耐え切れなくなり、自らの体をこなごなにしてしまうぞ!!」
 しかし檄は言った。
「望むところだ。お前ほどの男を倒せばこのオレ様も株があがるってもんよ!!」
 檄はさらに力を上げる。そしてついにタウラスの聖衣にひびが入り始めるに至った。
「待て!!檄やめるんだ!!」
 ラダマンティスが叫ぶ。しかし檄はやめない。やがて檄の小宇宙がマックスに到達したとき、金牛宮で小宇宙による爆発が起こった。
 ドガガッガガッガァァッァ!!


 下から金牛宮に向かっていた貴鬼はその様子を見て、
「一体何があったんだ。まさか・・・」

「ラダマンティスの小宇宙が消えたな!」
「あぁ!!聖闘士はやはり今度も本気のようだ」
「気を抜けないな!!」
 ミーノスとアイアコスはそういうと、目前に見える双児宮にむかっていった。


 


檄とラダマンティスの行方は!?
双児宮に隠された謎とは!?

第16話
サガとカノン!!の巻
キミは小宇宙を感じたことがあるか!?
感想どしどしお待ちしています!


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