聖闘士 星矢
〜Last Chapter The Olympus〜
第22話「春麗とエリー!!の巻」
―――――オスロ
「やったよ!やった!!」
家に帰ってくるなり、大きな声でその部屋にいる少女に喜びの声を伝えた。
「やったのね。ミーノス!おめでとう!!」
そこにいたのはエリー。もちろん、話しかけたのはミーノスである。
「ああ、念願のオスロ大学の医学部に入学することができるよ!」
さすが、成績優秀のミーノスだけあり、某国最高学府の医学部ですらパスしてしまった。
「でも、医学部なんて。ミーノスは法学部に行くものとばかり思っていたわ。」
「ああ、いろいろ考えた末、医学をやることに決めたんだ。脳や精神について興味があってね。人間の行動や心理状態なんていうのもこういう見地から考えていくことが出来ると思うんだ。」
ミーノスはそういった。
「ふうん。なんだかいろいろなことを考えているのね。私はそこまでは考えたことないわ。」
そういいながら、いつものようにお弁当の入っていた小さなバスケットをキッチンまで運んだ。
「でも、っていうことはまだオスロにはずっといるのね。」
「ああ、そういうことになるな。」
ミーノスがそう答えた。いつものように、サークルの練習に向かうために着替え始める。
「よかったぁ。もしかして遠くの大学にいってしまって合えなくなってしまうかと思ったわ。」
エリーがそういうと、
「大丈夫だよ。キミをおいていくようなことは決してしないさ。」
ミーノスは脱いだ自分の服を左手にかけると、エリーの肩に手を当ててぐっと引き寄せた。エリーの方も、ツンと立つと、ミーノスの唇の動きと線が見て取れた。
目を瞑る。
ピンポーン!!
「誰か来たみたいだね。」
ミーノスはバツが悪そうに着替えを籠に入れると、表の玄関に向かった。
「もう!とんだ意地悪ね。」
エリーがそういい、キッチンで片付けをしていると、ミーノスが戻ってきた。
「どうもおかしいんだよ。誰もいやしない。本当運の悪い日っていうのはあるものだな。」
ミーノスがそういうと、エリーは顔を赤らめて、
「まあ、いいわ。まだしばらくずっと一緒だものね。」
「ああ、そうだ。じゃあ、ちょっと出かけてくるよ。」
ミーノスはそういっていつものようにクロスカントリーの競技に向かっていった。
「お母様につたえておけばいいのね。」
「ああ、頼む。今日でサークルも最後なんだ。少し遅くなるかもしれない。」
今日の競技で最終だった。もう高校を卒業するからだ。
「いつまでたっても帰ってこないわね。」
ミーノスの母親が帰ってきていた。ミーノスの父親と母親は共働きをしていた。北欧では男女平等が進んでおり、昼間は両親共に働きに出ているのがザラだ。それはミーノスの家のように多少金銭的な不自由がなかったとしても同じで、家事は子供がさせられることが多い。もちろん、ミーノスも家事をやらされることがあるわけだが、彼の場合、多分にエリーが来てくれているから、ほとんど手間を煩わせないで済んでいる、それでももちろん、エリーも隣に家があるわけで、こっちの家事もこなしてしまっているのだから、大したものである。
「いつもいつも悪いわね。こんなご馳走まで作ってもらって。」
今日はさきほど言ったようにミーノスが大学に合格したので、その合格祝いをエリーとミーノスの母で画策していた。いつもと変わらない黒パンとそれに鮭やシュリンプなどいつもとは違う多少高価な食材を使って。あとはライトビールやシャンパンなどもあった。軽くパーティをするといった感じだった。
時間は夜の21時を回っているというのにいまだミーノスは帰ってこない。
「いいかげん、こんな時間ね。エリーちゃん。今日はもう帰った方がいいのではなくって。」
母親がそう心配したが、
「いえ、もう少し待ちます。」
誰よりも合格を祝いたいのはエリーだった。
22時にになってもミーノスは帰ってこない。さすがのエリーももうミーノスの家で横になってしまおうかと思ったそのとき、
ガチャッ!!
ドアの開く音がした。
「帰ってきたわね!」
エリーはあんまり遅く帰ってきたミーノスをとっちめてやろうと玄関まで向かった。
すると、
「すまないが、また出かけねばならなくなった。」
唐突にミーノスがそういってきた。
「ちょっと!何時だと思っているの?」
エリーはそう問い詰めたが、ミーノスはいつもと様子が変であった。
「ちょっと!ミーノス。どうしたの?」
ミーノスの体をゆする。いつもと同じまっすぐな瞳は変わらない。しかし、何かが違った。それは冷徹な地獄の判官のようにも見えた。
「残念ね。お譲ちゃん。ミーノスは私がいただいていくわね。」
そういって一人の女性がミーノスの後ろから現れた。それは、パンドラであった。
「ミーノスはこれから冥界で3巨頭の一人として働いてもらうことになりました。」
そう淡々と答えると、
「今日のことは忘れなさい。そして、ミーノスのことも忘れなさい。」
そういうと、ミーノスはパンドラと共に立ち去った。
翌日。エリーはミーノスがクロスカントリーの競技中に山中で滑落して死んでしまったことをしった。それからエリーは何ヶ月であろうか。もう分からないほど泣きじゃくった。
それにしても気になるのは昨夜の女とうつろなミーノスであった。
「せめて、最後にもう少しましな言葉をかけて去ってくれればよいものを。」
そう思えてしょうがない。
それから月日は流れる。しかし、エリーは数ヶ月も家に閉じこもって放心状態。ミーノスのことは一向に忘れることはできなかった。
―――――双児宮
そこに一人の女が現れた。
「紫龍!紫龍!!」
呼んでも返事はない。仕方がないから別の名前を呼んでみる。
「童虎!童虎や〜!!」
こうしても一向に姿は現れない。12宮に入ってきてから1回も休んでいないことに気がついて、女、春麗はいいかげんここで足を止めることにした。
「どうも変ね。白羊宮を守っているはずの貴鬼もいないし、双児宮まで誰もいないなんて。」
一抹の不安がぬぐえない。聖域は一体どうなってしまったのか?すると、双児宮の端の方から声がした。
「誰?」
声の主は女のようであった。
「女の人?」
春麗は声のする方角に向かって歩いていった。そこには双児宮の仮眠室があった。恐る恐る扉を開けてみる。
そこには先ほどから眠っていたエリーがいた。
「!」
聖域の一室に女性が寝ていたというのは聞いたこともないので春麗も少し驚く。
しかし、エリーは強引にベッドから起き上がると、そこにやってきた春麗に声をかけた。
「あなたは?」
エリーが春麗にそうたずねると、春麗は答えた。
「私は春麗。ここにいる聖闘士の一人を探しにきました。」
エリーはそれを聞くと目から涙をこぼした。
「何故?何故突然…。」
突然の涙に驚いた春麗だったが、エリーはすぐにその問いに答えてくれた。
「貴方も同じなのですね。私と…。」
エリーはそういうと、今度はさらに続けた。
「貴方はその方を本当に愛していますか?」
あまりにも唐突な質問にちょっとためらってしまったが、春麗ははっきりと答えた。
「はい。私は。だからこそ、こうして安否を気遣い聖域までやってきたのです。」
エリーはそれをきくと逆に安心したかのように胸をなでおろすとこう答えた。
「私もここまで大好きなあの方を追ってやってきたのです。でも私、体が弱いみたいで、通りすがりの方にここまで運んでいただいたみたいなのです。」
そう答えると、近くにおいてあった水差しからコップに水を移して軽く口をゆすいだ。
「さきほど、探しておられた紫龍という方はどんなかたなのですか?」
すっかり聞かれていたらしく、春麗は少し顔を赤らめた。
「いえ、すみません。少しきこえてしまったみたいで。」
エリーは軽く微笑む。しかしすぐに元の真剣な表情に戻った。
「紫龍。とてもまっすぐな方です。いつも女神!老師!といい、戦うことをやめません。
義に尽くし決してその姿勢を曲げない強さがすきなのです。」
春麗はそういうと、再び顔を赤らめた。
「すみません。なんだか私のことばかり。」
エリーはそれを聞くと、
「同じね。私も同じ。」
そういうと、布団から片足を抜いて春麗の方を向くと、
「男たちはいつも勝手。自分の思ったことにまっすぐで。自分のいる場所のことなどちっとも考えない。」
エリーはそういい、ついには立ち上がってしまった。
「春麗さん。もしよろしければ、私をこの神殿の上まで連れてってくれませんか?」
春麗は驚く。
「えっ!?でもその体では…。」
「かまいません。貴方も遠いところから無理していらしたのでしょう。私もあの方を思う強さは変わりません。それなら、この気持ちは分からないはずがありません。」
エリーにそういわれると、春麗は断れず、
「分かりました。それでは、共に行きましょう。この神殿の上まで!!」
―――――巨蟹宮
「さあ。どう切り出したものか?」
あくまでバレンタインは闘志を失わない。それどころか屈強にたたされていることに喜びを感じているかに見える。
「シルフィード!まだ十分に戦えるか?」
バレンタインはそうシルフィードに問う。
「問題ない。気にせず続けてくれ!」
それを聞くと安心して、
「分かった!」
そういうとバレンタインはついに自らの技を放つ。
「スウィート・ショコラーテ!!」
と同時に、シルフィードも技を繰り出していた。
「アナイアレーション・フラップ!!」
それを見て、ノエルはアナイアレーションフラップをかわす。
しかし、十分な間合いが取れていなかったのかノエル自身に技が当たりそうになる。それを見ていたチョンヤンは再び、
「ソリトニックブロウ!!」
しかし、実際はノエルにかけられたはずの技はノエルに向けられたものではなかった。
後ろにいるアロルドとチョンヤンに向けられたものであった。そしてその技の存在に気づかず、ノエルの援護に向かったチョンヤンは完膚なきまでにその技を食らってしまった。
「バ、バカな!!」
チョンヤンはフラップによって技を出している間横に流れている体を倒され、はるか後方に飛ばされてしまった。
さらに、
「ハウリングインフェルノ!!」
アロルドがフレギアスの技をガードする。
今度は逆に4大風の側が押されてしまっていた。
「残念だが、ミーノス様が戻られるまではなんとしてもこの場をしのがねばならんのでな。」
そうバレンタインがいう。
「なかなか楽しませてくれる。」
アロルドはそういうと、羽織っていたマントを後ろに投げる。
「今度はこっちからいかせて貰おう!!」
ミーノスは戻ってこれるのか!!
春麗とエリーを追う一人の神!?
第23話
「軍神アレス参上!!の巻」
キミは小宇宙を感じたことがあるか!?
感想どしどしお待ちしています!