聖闘士 星矢
〜Last Chapter The Olympus〜
第25話「激突!!狼座那智VS西風チョンヤンの巻」
「分かった。君たちに私たちの本当の目的を教えよう。」
オリッサはそういうと、おもむろにゼウスの神衣を地面におき、再び放し始めた。
「われわれの目的は、エリスの復活によりオリンポスの12神に無駄な騒ぎを起こさせぬことだ。」
それを聞くと童虎は、
「なるほど。でもそれだけではこの天秤の皿が左に傾くということはないはずだけど…。」
しかし、オリッサはその言葉を聞くと首を横に振る。
「エリスは争いの神。どこかで闘いが繰り広げられる前には必ず人と人との争いがあるものだ。その闘いの元となる争いを助勢するのがエリスの役目。つまりはエリスが現れるところには何らかの争いがすでに発生していたということだ。」
童虎はそれを聞いてすぐに感づいた。
「なるほど。白羊宮で繰り広げられた貴鬼さんとフォボスの戦いがきっかけと言うわけか。」
そういい、オリッサが何かを答えようとしたが、続けざまに童虎はさらに続けた。
「本当の聖闘士の戦いはオリンポスで繰り広げられるはず。その前に、何故貴鬼さんがフォボスと戦わねばならなくなったのか?」
そう童虎に言われオリッサは思わず息を呑んだ。
「それは、キミ達ヘルメスや一部の12神のたくらみがあったのだろう。」
それは鋭い洞察であった。たしかに、何故フォボスのようなアレスの僕やオリッサたちのようなヘルメスの申し子がここ聖域にいなければならぬのか?それはエリスが復活するという以前にどう考えてもおかしい話だ。別にそのほかの神の闘士たちが赴いても問題ない。むしろ、エリスの復活が12神の統治の妨げになるのであれば、なおさら全力をあげて12神サイドがこのエリスの反乱を妨げるべきである。それがなぜこうも調子よくエリス復活以前から聖域に入っていた戦闘士がこの任を負かされているのも納得できないポイントだろう。
「そう、これはキミ達が故意にわれわれに闘いを挑み、そしてその争いをかぎつけて復活してしまったエリスの尻拭いをしてその大義名分にしているだけ。」
オリッサは言われたことの全てが図星であり、なおも童虎の語る言葉を聞き続けるしかなかった。そして童虎は最後に決定的な一言を言った。
「キミ達の目的はやはり、このアテナの尺丈をほしがっているに他ならない!」
オリッサはそういわれて半分諦めたかのように答えた。
「さすが天秤座の聖闘士。物事の真実を見抜く力に関しては聖闘士随一。キミのように幼い少年にそこまで考察されてはもはや、何も言いようがあるまい。」
オリッサはそういうと、童虎に対して身構えた。
「そのとおり。われわれはエリスの復活を阻止する闘士として大義名分を掲げながらも、その実、アテナの尺丈を手にし12神の無用な闘いを避けるためにこうしてこの聖域に残り続けている。」
オリッサは、早くも技を繰り出す準備をし始めた。
「エリスは復活し、その配下の冥闘士も数多くこの聖域に集結している。もはや、冤罪。このわれわれだけの罪ではないのだ!!」
「食らえ!!
フローディングディストラクイション!!」
「廬山昇龍覇!!」
―――――獅子宮
「どうやら、すでに下の巨蟹宮では、はげしい闘いが繰り広げられたようだな。」
少しばかり遅れてやってきた狼座の那智がそういった。
「本来私が守護せねばならぬ巨蟹宮は壊滅的な状態のようだが…」
那智はそういいながらも獅子宮を後に巨蟹宮へと向かおうとした。
「しかしいかねばならぬ。」
そういったときだった。巨蟹宮から2人の男が現れた。
それはアロルドとチョンヤンであった。
「!?」
那智は驚いた。下からあがってきたのは、貴鬼が言っていた風闘士という味方だったからだ。
「さきほど、あなた方の仲間のオリッサという風闘士がこの宮を通過していった。」
那智は貴鬼の言うことを信じ先ほどのオリッサを通過させた。那智は風闘士である彼らが敵であるとは当然知り得ない。今回も先ほどと同様に通すほかない。
「さあ、通りたまえ。」
那智はそうアロルドたちに言った。
それを聞くとアロルドは笑みを浮かべ答えた。
「面目ない。それでは失礼する。」
アロルドはそういうと那智の前を通過する。そしてチョンヤンに軽く合図を送る。アロルドはさらにその上へと進み、処女宮へと向かっていった。
「さあ、私はこのさらに下の巨蟹宮へと守護に行くとするか。」
那智はそういい、巨蟹宮へ向かおうとした。しかし、それは拒まれた。通過したはずの風闘士の一人「チョンヤン」がこの宮に残っていたのだ。
「その必要はないでやんす。」
チョンヤンはそういうと、那智に向かって戦闘体制を取った。
「もはや下の宮にもこの上にも冥闘士は現れん。冥闘士はこのチョンヤン様がすでに一人残らず片付けたでやんすからね!」
チョンヤンは那智にそう言った。
「バカな!!それでは先ほどの風闘士がこの宮を通過する必要はないではないか!」
チョンヤンはそれを聞くと、
「そのとおりでやんす。ようするにお前はわれわれにだまされていたということでやんすよ。」
那智はそれに答える。
「しかし、それでは約束が違う!!」
「ちがわないでやんす!!」
脅すかのような大きな声を那智にかける。
「あんたら聖闘士を全部しとめてしまえば12神に告げ口する奴など一人もおりはしないのでやんす。」
那智はその話を聞いて唇をかむ。
「ばかな。そうはさせるか!正直者が馬鹿を見るなどとは!?」
那智もそういうと戦闘の構えをした。
「デッドハウリング!!」
那智は先に攻撃を仕掛けた。分かっていたのだ。風闘士の4人がすでに黄金聖闘士なみの実力を持つ闘士であることが。
「先に攻撃を仕掛けねばやられるのは目に見えている。」
那智はそういうと、すばやいスピードでチョンヤンの回りを駆け回り始めた。そして、狼の雄たけびを繰り出した。
「フフフフ…。それでこの私を欺くつもりか!」
チョンヤンはそういうと、自分の周りをちょこまかとうろつく那智の位置を正確に把握しながら、やってくる雄たけびや牙を避けていった。
「スピード合戦ならまけないでやんすよ!」
チョンヤンはそういうと技を繰り出した。
「ソリトニックブロウ!!」
技は那智に大いに命中した。正確にはその強大無比な風が那智に当たったといったところが正しかった。那智の体はその大いなる風にあおられ、簡単に吹っ飛ばされてしまった。
「ば、バカな!!」
さすがの風闘士の力に那智は手も足も出なかった。
「フッ!!ばかめ!青銅聖闘士で、4大風に歯向かわねばならぬとはな!」
実際、チョンヤンの技は以前に比べ格段に力を増していた。それはエリスの短剣を所持していたからということとこうして聖闘士を葬るために己の力のいくらかを温存させていたというのもある。
しかし、これではどの道那智には勝ち目がない。
「むう、どうすればこの状況から脱出できるものか?」
「いくら考えても無駄でやんすよ。この4大風と青銅聖闘士では天と地ほどの差があるでやんすからね。」
そういうとチョンヤンはコロコロと笑う。
那智は、チョンヤンが自分のことを軽んじていることを理由にチョンヤンの技を封じるすべを考えた。
この男は、西風ジェットストリームの男。ジェットストリームとは?それは偏西風のことだ。
偏西風は北半球の中緯度地域を西から東へ絶え間なく吹く定常風だ。それはジェット機が飛ぶような高度10kmを超えるような場所では、風速100kmを超えるようなこともザラではない。昔からこの強い偏西風によって東の地域へすばやく行くことができ、そのためにこの突発的に強い偏西風のことをジェット気流(ジェットストリーム)と呼んで重宝してきた。さらにいえばこれら定常的な風や波などが突発的に強くなる減少のことをソリトンという。すなわちチョンヤンの扱う技はまさにジェットストリームそのものを指しているといっても過言ではない。しかし、逆に東から西の地域にいくのは大変である。偏西風の強い風に逆らわねばならぬからだ。かつてまだ飛行機の推進力が弱かった頃、このジェット気流越えはひとつの難関であった。その昔冬季飛行機が飛ばなくなることの多くはこれであったとさえ言われる。
「この強烈なまでの風を回避するには?」
那智はひとつの結論に落ち着く。それは!?
「デッドハウリング!!」
「ばかめ!!ソリトニックブロウ!!」
こうして、チョンヤンが技を繰り出す。しかし、狼の雄たけびなど所詮音。音速を遥かにしのぐジェットストリームに太刀打ちできるはずもない。
だが、那智は違った。チョンヤンの放ったソリトニックブロウの中に、自らの体を収めていく。体のいたるところで風が音速を超え、鋭い牙となって、くすぶる。
それはもはや、自分のデッドハウリングによる雄たけびであるのか?それとも自らの体や聖衣が風に逆らうことで生まれる音なのか分からない。すべてが遅くかんじられる尋常な世界ではないからだ。
「だが、貴様に勝つにはこの音速を遥かにしのぐ貴様の気流に耐えねばならぬ。逃げていては貴様の思う壺だ。」
那智はじっと気流の中で耐える。体は、自分の体に当たった風が逆に衝撃となって襲ってくる。
「ばかな!!青銅聖衣でそんなところにいれば、衝撃波でじきに体を八つ裂きにされてしまうぞ!!」
しかし、那智はそれに答えるかのように自らの体にデッドハウリングを放った。
「デッドハウリング!!」
那智の体が狼の雄たけびで覆われる。それは音であったが、その衝撃は、自らの体に当たり振動することで、逆に衝撃波となってまた別の場所へととんでいく。そう、那智は自らの体を犠牲にすることで、わずかにくすぶる衝撃波をチョンヤン自信に返すことで、チョンヤンを倒そうと考えたのだ。那智によって跳ね返された衝撃波は四方に散り、それが時折チョンヤンの体に当たる。しだいにチョンヤンの体も鋭い切り傷や打撲で覆われてきた。
「貴様!いかにこの俺に技を跳ね返したところで、風や衝撃に強く作られている風衣と青銅聖衣では、貴様が裂きに朽ち果てるのは目に見えたことだぞ!!」
チョンヤンは那智のその精神力の強さに唖然した。すでに事切れているのかもしれない。
しかし、一度放たれたその狼の遠吠えは決して収まることはなかった。チョンヤンに構えをとったまま立ち尽くす那智。すでに2人の間で生まれた激しい気流と衝撃波はやむことがなかった。そして、
「…。」
バタン!!大きな音を立てて、チョンヤンの体が地に沈む。
「勝った…。」
那智はそれだけ言うと、やはりチョンヤンと同じように地に沈んだ。
―――――巨蟹宮
「こ、これは!?」
エリスから逃れて春麗とノエルが巨蟹宮にやってくると、そこには冥闘士と聖闘士がゴロゴロ転がっていた。それは元のデスマスクによる人面と見間違えるほどの光景だった。
「中に聖闘士が3人。冥闘士はすでに息がありませんが、彼らはまだ息があるようだ。」
ノエルはその光景を見てもあまり臆することなく、
「春麗さん。ここに聖闘士が3人いる。彼らを介抱してくれませんか?じきに意識を取り戻し、あなたを守るでしょう!」
そういうと春麗はテレマコスたちの手当てに当たろうとした。
「貴方は?」
春麗は早くもその場を立ち去ろうというノエルに声をかけた。
「私はこの状況を一刻も早く上の聖闘士、また風闘士に伝えねばなりません。そうすればますます味方も増えましょう。あと少しの辛抱ですので。」
それだけいうと、ノエルは立ち去った。
これから起こるであろうアレスとエリスの闘い、そして自分達に課された聖闘士との最後の戦いを胸に。
決戦!!
神々が火花を散らす!!
第26話
「神々の死闘!!アレスVSエリスの巻」
キミは小宇宙を感じたことがあるか!?
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