聖闘士 星矢
〜Last Chapter The Olympus〜
第27話「壮絶!竜対虎!!の巻」
「フローディング・デストラクション!」
「濾山昇龍覇!!」
オリッサの放った技に対し、少し遅れて童虎が濾山昇龍覇を繰り出す。
「遅い!!」
オリッサは童虎の技が放たれるタイミングに遅さを感じたのかそのような言葉を吐いた。しかし、童虎は動じることなく、わずかに遅れて技を繰り出したのだ。
オリッサの方から爆流があふれかえる。しかし、童虎はまさにそれを狙って、技を放つタイミングを遅らせていた。わずかな間を利用して、その水の流れを冷静に見切ると、そこにただT発、濾山昇龍覇を放ったのだ。
みるみるうちに逆流する水流。そしてそれがオリッサを包み込んだ。
「な!何!?」
オリッサは自分の放った技がまさか自分に帰ってくるはずもありはしないと思っていたが、それは正確には自分の放ったあの水流ではなかった。
それはさながら「龍」であった。
「中国の五老峰の大瀑布を逆流させる昇龍覇にかかってその技とは!?」
童虎はオリッサの技を完全に封じ込んでいた。
「うっ!うわぁ〜!!」
オリッサは昇竜に完全飲み込まれてしまった。
辺りから、オリッサの小宇宙が消える。
童虎はゆっくりと拳を下ろすと。ふっとため息をついた。
こうも12宮で凄惨な出来事が起こると童虎自身も気が狂いそうになってしまうだろう。幼い子供には少しばかり受け入れられぬような事実に思わず思わず目をそむけたくもなる。
「人々はなぜこうも争いを続けねばならぬのか?」
幼い童虎にはまだ完全に理解はできない。いや、理解したくないものだ。
童虎はお行儀悪く自分の羽織っていた黄金聖衣のマントをぐいと手で引っ張ると額の汗をそれでぬぐった。
「ふぅ…」
童虎は少しばかり休もうかと思ったが、事態がどうもそれだけでは済まされないようであった。
「こっ!これはっ!?」
それは童虎がちょっと一息ついているその隙に下の宮からまたしても刺客がやってきたところだった。
「オリッサ!!」
呼びかけても反応はない。いや、小宇宙はすでに全く感じられず、もはや死んでしまったといわんばかりである。
「だっ!誰が!?」
そして辺りを見回す。そこには先ほど一撃の下にオリッサを仕留めた童虎がいたのだ。
「キっ!キミが!?」
そこに現れた刺客はアロルドであった。
童虎は答えない。もう何も話したくはない。考えたくもないといった面持ちであった。
「先ほどの獅子宮での争いでも西風のチョンヤンの小宇宙が消えた。」
アロルドは、さらに続ける。
「4大風の2人までをも聖闘士自らの手で葬るとは!?」
さも聖闘士が絶対的な悪のような物言いで。
しかし、童虎は何もいわない。ただ、さきほどと同じようにただだんまりを決め込んでいた。
「何も、話すことがないということか…」
アロルドはそういうと、天秤宮を立ち去ろうとする。
「それでは私も何も話すことはあるまい!私はさらにこの上の宮へ向かい、この異常な事態に収拾をつけねば…」
そうアロルドがいい、天秤宮を抜けようとしたそのとき!
「濾山昇龍覇!!」
童虎から、技が繰り出された。
それはまるで般若のように恐ろしい形相で、いつまで猿芝居を演じている気かと言わんばかりであった。
童虎のような幼い子供には天秤の力によってまだ悪がどこにあるか分かりながらも、その人柄や行動だけで人間を判断してしまう。簡単に言ってしまえば、4大風の行動はこのような小さな子供からしてしまえば、まったく「悪い人」ではない。しかし、真実を知ったとき、そのあまりのギャップに嗚咽しそうにさえなる。
そしてようやく童虎が口を開く。
「どうしてそうまでして、こんな幼い子供をだましてまで、嘘をついてまでアテナの尺丈を手にせねばならぬ!!」
童虎はそう叫ぶ。アロルドはそれを聞いて、今度は何も答えようとしない。
童虎はそれを見て、ついに堪忍袋の尾が切れたのか再び濾山昇龍覇を繰り出す。
「濾山昇龍覇!!」
再びアロルドの体が昇竜に包まれる。
そして、アロルドは全身でその龍を受け止めた。
童虎の憤りはまだ納まりはしなかった。童虎はさらに技を放つ。
「濾山百龍覇!!」
滅多なことでは放たれないその師、そして自分の名と同じ偉大な聖闘士の技を渾身の力でアロルドに放った。
アロルドはその究極の技をその身にあびた。大きく後ろに放り投げられると、無言で立ち上がる。
そして、体につく埃を軽く払いながら、ようやく重い口を開いた。
「気が済んだか?」
アロルドはそういった。
童虎はようやく向きになって技を放ち続けていた自分に気づく。そしてその冷静さを取り戻したところを見計らい、アロルドが再び重い口を開いた。
「やらねばならぬことがある。ただそれだけ。われわれの目的を、われわれの正義を貫き通すには、手段は選ばぬということだ。」
アロルドはそういう。
「だからって!だからって!!」
童虎は何か言いたいようだったが、幼い子供にはこれ以上の表現は見当たらない。
「甘いな!!まだ甘い。聖闘士は常にクールでなければならぬ。ましてや、黄金聖闘士であればな。」
アロルドはそういう。
よくよく考えればそうである。どこから現れたかは分からない。黄金聖闘士としての宿命、紫龍の師前『童虎』との運命の申し子である童虎はたしかに黄金聖闘士としての力を十分過ぎるほど持っているといえるだろう。しかし、彼は紫龍から黄金聖闘士としての教育を受けたわけではない。むしろその逆で、稽古を通して人間の誠実さ、暖かさ、何よりも守らねばならぬ大事なことがあるとそう教わってきた。
童虎からすれば、オリッサを一撃の下に下す力で黄金聖闘士としては華々しいデビューを飾ったがその面持ちは決して明るいものではなかった。
だが、アロルドは、今度はマントを翻すと、技を放つ体勢を整えた。
「しかし!キミからすればこの私は悪であるということが分かったのだ!」
童虎はいまだ興奮冷めやらぬ状態であった。
「さあ!来い!!今度は私から行こう!!」
そして、大きく振りかぶると、
「真の黄金聖闘士の力、この私がためさせてもらおう!!」
技を放つ。
「グレートハリケーン!!」
アロルドが技を放つ。それを童虎は受け止める。そして、なけなしの小宇宙で童虎も技を放った。
「濾山昇龍覇!!」
技はアロルドに飲み込まれる。大きな竜巻が童虎の昇竜を飲み込んでしまったのだ。
「残念だが、先ほどのオリッサを倒したときの輝かしい黄金の輝きはどこかへ消えてしまったようだな。」
そういうと、再びアロルドは技を繰り出す。
「グレートハリケーン!!」
今度は、童虎は何もできなかった。ただ、その竜巻の中に巻き込まれるだけであった。
「ぐわ〜!!」
童虎は自分の五感がすでに大半失われていることに気づいた。それもそのはず。4大風の技は黄金聖闘士のものと同じ。その技を2回も受けてはさすがの童虎も五感を失いかけてもおかしくはない。
朦朧とする意識の中で立ち上がる。しかし、どうやら五感を失っていたのは童虎だけではなかったのだ。それは目の前にいるアロルド、その人も五感の大半を失いかけていたのだ。さきほどがむしゃらとはいえ、童虎の渾身の技を2回も受けているのだ。アロルドとて正常なはずがない。童虎はその姿を見て、驚く。まるできいていないと思っていた自分の技をアロルドしっかりと受けていたのだ。
「何故?」
童虎の中にそのような疑問が浮かぶ。しかし、その答えは単純なものであった。
「さすがの黄金聖闘士の力。この私でも防ぎきることは出来なかったということだ。」
アロルドは決して軽く童虎の技を受け流していたのではない。また童虎の技が力不足であったわけでもないのだ。それは純粋にアロルドが童虎の技を受け止めて、アロルドがしかるべき状態に陥ったに過ぎない。
「しかし、俺にはやらねばならぬ。ここでなんとしてもキミを倒し、アテナの神殿へ…行かねばならぬのだ!」
アロルドは、奮いたつ小宇宙を高め、童虎に最後の闘いを挑もうとしていた。
「さあ、お互いわずかな命かもしれんが、最後の勝負をしよう!!」
童虎もそれを見て、構える。そして、ついに最後の闘いが始まる。
「グレートハリケーン!!」
「濾山昇龍覇!!」
あたり一面、真っ白な閃光に包まれると、そこから地を這うような轟音が聞こえてくる。それは12宮の全てからはっきりと分かる明るさと轟音であった。
ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ…
すでに処女宮まで上り詰めていた、おそらく4大風最後の一人となってしまったノエルがその光景を目の当たりにする。
「アロルドの小宇宙が消えた…。そして残されし聖闘士も残りわずか。」
ノエルはそうつぶやくと、再びその轟音の鳴り止まぬ天秤宮へと向かっていった。
最後の闘い!!
聖闘士は無事勝利をつかめるのか!?
第28話
「激突!コップ座ヤコフVS北風ノエルの巻」
キミは小宇宙を感じたことがあるか!?
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