聖闘士 星矢

〜Last Chapter The Olympus〜


28話「激突!コップ座ヤコフVS北風ノエルの巻


 

黄金12宮。それは、アテナを守るために作られた大いなる砦。そこは、アテナを守る聖闘士の中でもとくに優れた能力を持つ12人の黄金聖闘士が守る。
 過去幾多の闘いがこの12宮で行われた。そう思う者も多いかもしれないが、実はそう多くの戦乱にこの12宮が巻き込まれたことはない。それはアテナの聖闘士が優れた戦闘能力を保持しているためによって戦乱そのものをこの12宮に持ち込むということが非常にすくないのだ。
 史実を、いや正確には聖闘士の長である歴代教皇の記録をひもとけば、のはなしだが、過去12宮が争いに巻き込まれたことはたったの3度しかない。
 遥か昔、いまだ神話の時代といわれていた頃、アテナもまだ精神的にも幼いと言われる頃、アテナイとスニオン岬の間で行われたアテナとポセイドンの聖戦。それと、前聖戦で行われたハーデスの侵攻、そしてサガの乱。
 今回のこのオリンポスの聖戦の序章ともいうべき12宮の闘いは4度目となる。つまり12宮で闘いが行われたのはつい最近の出来事ばかりなのだ。
 何故こうも多く12宮が戦いに巻き込まれねばならぬのか?その真実は最後とも言うべき、この聖戦にかかっているだろう。

 

―――――宝瓶宮
 ここで、まさに最後とも言うべき闘いが始まろうとしていた。
「キミか。この宝瓶宮を守ろうという聖闘士は?」
 そこには急に駆け上ってきた4大風の最後の一人ノエルが若き氷の聖闘士「ヤコフ」を目前にしていた。
「あぁ。そうだ。ここはアテナの名に懸けて、誰一人通すわけにはいかない。」
 ヤコフはそういった。するとノエルはすぐに構えヤコフに言った。
「では、早速はじめるとしよう。すでにあの12宮の火時計は摩喝宮の炎まで消えようとしている。夜明けが訪れるということだ。オリンポスの聖戦が幕を開けてしまうということだ。」
 それを聞き終るかといううちに、ヤコフが戦闘を始めた。自らの拳をまっすぐ前に突き出す。その構えは!

 

「ダイアモンド ダスト!!」

あたり一面が凍りの粒で覆われたかと思うと、それはノエルの体全身に降りかかった。ノエルの体が、凍りつく。まるで氷柱が出来上がったかと思うほどに、ノエルの体が凍りで覆われる。しかし、その氷柱もしばらくすると粉々に砕け、中から何事もなかったかのように、ノエルが姿を現した。
「残念だな。」
 ノエルは、あたりの氷を粉々に砕くと、再びヤコフに向かって凍気を出し始めた。
「私は北風ブリザードのノエル。」
 そういうと、軽く左手を出し、今までつぶっていた目をカッと見開くと、手からおぼろげにこぼれていた氷気が一気にヤコフに向かって流れ始めた。

 

「フリージング・ウィンド!!」

 

ノエルはゆっくりとその寒気をヤコフに向かわせ始めたが、ヤコフはその凍気をものともしない顔で受け止める。
「この程度の寒さでは、東シベリアの寒さにはかてやしないよ。」
 そういうヤコフであったが、しだいにその寒さが増してくることに気がついた。
「奇遇だね。キミは世界で一番寒い地域に住んでいたみたいだが、私も東衣シベリアの史上最低の気温を記録した地域に住んでいたのだよ。知っているかい?」
 ヤコフはそれに対し、得意げな顔を見せ答えた。
「ああ、それなら知っているさ。ベルホヤンスクだろう。」
 ベルホヤンスク。それは世界でもっとも寒い地域。シベリアの東。つまりヤコフの住む地域だ。ここではまるで信じられぬ世界が繰り広げられる。マイナス70度もの氷結の世界。通常の寒さでもマイナス二、三十度が関の山だが、そのさらに数倍の寒さを誇る。もちろんこれは例外的な気温で、さまざまな悪条件が重なってのことだ。
「そう、ベルホヤンスク。しかしあの地域には例外的な条件が多く重なっている。でなければ南極をもしのぐ寒さをたたき出すことは難しいものだ。」
 ノエルはそういった。しかし、ノエルはさらに冷気を高めると、再びヤコフに向かって続けた。
「しかし、この特殊な冷気こそ、まさに氷の聖闘士としては大事なポイントだな。」
 ヤコフはかつて、氷河から教わった冷気についてを思い出した。

 

―――――東シベリア

 

「ヤコフ。この私が何故マーマに会いに行くことをやめたか。分かるか?」
 ヤコフはそのとき、それはただ、氷河が単純に一人前の聖闘士として自立したからだろうと思っていた。しかし、氷河続ける。
「それは、この海のそこにすべての思い出を封印したからだ。」
 よくよく考えれば、すべての元凶はマーマの乗る船の座礁から始まる。そしてその座礁もクラーケンが一枚かんでいるのだ。
 氷河はその後、後にクラーケンの海闘士となるアイザックとともに、カミュから聖闘士としての闘法を学ぶ。
 師カミュとの戦い。そして、因縁ぶかいクラーケンとの戦闘。そして、そのすべての発端はマーマとの別れ、アテナの降臨。そしてそれに伴う聖闘士の育成のための城戸光政による孤児の募集。いままで起こったことを考えれば、すべては偶然の産物のようにしか思われないだろう。
「いままでこの私の身に起こったすべてのことは、偶然のように見えるかもしれない。しかし、そうじゃないんだ。すべてはこの永久凍土のように積み重ねられた運命にすぎん。」
 氷河は、大きな氷の塊に手を当てると、それに向けて拳を振るった。
 ガツン!!
「おれは今までの戦いの中で、自分の体に起こる不運を呪った。そして、その慰めにマーマに会う。まるでこの永久氷壁に逆らうかのようにな。」
 ボロボロと氷壁が崩れ落ち、しまいには、足元に続く地を覆う氷までへこんでしまった。
「見ろ!!ヤコフ。たった一つの氷を壊したところでその下にはまだどこまで続くか分からない氷がある。」
 しかし、ヤコフはその話をきいて異議を唱えた。
「でもこの氷もあと数メートルすれば地面にぶち当たるはずだよ。」
 しかし、氷河はさらに続ける。まるでヤコフを諭すように。
「違うな。確かにこの下に土はある。しかし、その下には土と混ざりながらもおよそ1000メートルにも及ぶ、凍った大地があるのだ。」
 氷河はさらに続けた。
「ベルホヤンスクにはそれほどまでの氷がある。台地といえども恐るべき深さまで氷が覆っているのだ。」
 一見偶然に見えるベルホヤンスクの寒さ。これは偶然ではない。冷たい空気が大地を凍らす。そして、冷たく冷えた大地は冬季再び、冷え切った大地に集まる。そしてまた大地が凍結する。ベルホヤンスクはだだっ広い荒野に位置する。そのほかの同じ緯度の地域では出すことの出来ぬ気温。それは、安定した陸塊を持つベルホヤンスクは冷気をひとところに集めやすい性質を持つのだ。こうした凍気の脈々と続く歴史の積み重ねであるといえるだろう。
「俺が住む日本では冬季急激に冷え込む時期がある。その原因はこの地域。シベリアの大いなる冷気によるものだ。」
 氷河は、あのカミュと同じ水がめを指す拳をあわせるポーズを取ると、真の凍気『オーロラエクスキューション』の伝授にかかった。
「分かるか!!この脈々と続く神にもまさる凍気が。」
そして、、、

 

「オーロラエクスキューション!!」

 

ヤコフはその恐るべき凍気を見た。
 すべてを包む東シベリアの凍土。それはこの一連の氷河の事件を見守るかのようでも会った。

 

「まさに、重力の凍気!!」
 ノエルはそういう。ノエルの放った冷気はとどまることを知らない。しだいにその冷気は重みを増しながらも、ヤコフの方に強き風となって迫りくる。
「気圧というものがある。」
 ノエルはそういいはじめる。
「シベリアの安定した陸塊には、冷たき空気が淀む。そして、それは冷たく冷やされることによって、地に集まり、より重き空気へと変わるのだ。冷えれば冷えるほど、空気は重くたまり、空気をより多く集めることが出来るようになる。」
 ノエルの放つ空気はもはや冷たい風ではなく、吹雪となっていた。

 

「シベリアン ブリザード!!」

 

ノエルはその究極の冷気をヤコフにぶつけた。それはもはや、すべてのものを氷で覆い隠してしまうほどの凄まじい吹雪だった。
「そう!集まった空気によって地域の気圧は著しく上昇し、風となる。」
 ヤコフは懸命にその吹雪に耐える。
「高きから低きへ。すべてのものの法則に空気ですら従う。」
 ノエルはそういうと、さらにその風の強さを増させた。
 しかし、ヤコフはそれでもひるまない。そして、ヤコフはその風をまるで大師匠であるカミュにあやかるかのように、瓶の中に集めようとした。
「その構えは!?」
 ノエルはヤコフの構えを見て驚く。それは、水瓶座の聖闘士の最大の奥義「オーロラエクスキューション」のものに他ならなかったからだ。
 ゆっくりとヤコフの瓶のように構えた両の手が上に向けられる。
「バカな!?青銅聖闘士ごときで絶対零度の域まで持っていけば、自らの体を滅ぼすぞ!!」
 しかし、ヤコフはやめない。
「キミの言いたいことは分かったよ。」
 そういって、ゆっくりとノエルのほうに握った拳を向ける。
「シベリアの冷気は、氷河からもらった凍気は、脈々と受け継がれて初めてこの場に姿を現すということをネ!!」
 そういうと、ヤコフはついに唱えた。

 

「オーロラエクスキューション!!」

 

ヤコフは究極の寒さを手にすると、その大いなる絶対零度によってノエルを倒した。
「み、見事だ…。」
 
 ノエルは死ぬ間際にヤコフに言った。
「すまないが、この私が死んだら、東シベリアの永久氷壁にうめてくれないか?」
 ヤコフはノエルが言ったことの意味をすばやく理解すると答えた。
「分かった。」
 ノエルはそういうと、ゆっくり目を閉じた。
「東シベリアの大地よ。永遠に。」
 

 

―――巨蟹宮
 巨蟹宮では、先ほどノエルによって置いていかれた春麗がこの宮でアイアコスによって倒されたアルゴ座の聖闘士たちの救護にあたっていた。長い介抱の甲斐あってかようやくテレマコスが目を覚ました。
「ううん。こっ、ここは!?」
 目を覚ましたテレマコスに春麗が気づく。
「あら?目を覚まされたのですか?」
 そういい、慌ててテレマコスの方に向かった春麗だったが、テレマコスはすぐに体勢を立てると、ベッドから立ち上がった。
「まだ、無理なのでは?」
 春麗がそういうのと同時に、テレマコスは激痛にさいなまれ再びベッドに倒れた。
「あいたたた…。まだ、無理のようだな。」
 春麗はそれを見届けると再び他のテレゴノスやエウリュロコスの看病を始めようとした。
 しかし、そのとき、バタンとドアが開いたかと思うと、部屋の外から一人の聖闘士が現れた。
「お前達!!こんなところで何をしてるんだい!?」
 それは白銀聖闘士の魔鈴だった。突然たたき起こされたアルゴの聖闘士たちは体の痛みも忘れ、飛び起きた。
「おぉ!!びっくりしたぁ〜。」
 そうテレゴノスが言ったが、魔鈴は軽くあしらうとさらに続けた。
「お前達が昼寝をしている間にヤコフや童虎たちが聖域にはびこる敵を片付けてくれたよ!」
 それをきいて驚く。
「アテナの神殿に行き、アテナの尺丈を手にするんだ!さあ、星矢あっちの待つオリンポスの神殿で最後の闘いが待っているよ!!」



 


最後の闘い!!
聖闘士は無事勝利をつかめるのか!?

第29話
さよなら…ミーノス!!エリスの最後の巻
キミは小宇宙を感じたことがあるか!?
感想どしどしお待ちしています!


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